回路の革新、階層の輝き
ライナー先生から「他の者にも応用できる可能性」を示唆されたアリアは、興奮を隠しきれなかった。自分の「声聞魔法」が、自分だけの特別な力に留まらず、多くの人々を繋ぐ可能性を秘めているかもしれない。その探求心に突き動かされ、アリアはライナー先生と共に、新たな実験の計画を練り始めた。
「まずは、アリア様が現在お使いの送信機と同じものを、もう一つ作ってみましょう。それから、様々な条件を変えて比較実験を行うのが効率的です」
ライナー先生の提案に、アリアは頷いた。予備の送信機があれば、一つの実験で失敗しても、もう一つで継続できる。
響鳴石の採掘は、ポルンとフクロウの仲間たちの助けを借りて行われた。森の奥深く、古木の根元にある泉の場所は、アリアとポルンだけが知る秘密の場所だったが、今ではトワイライト、ウィンド、セージも、アリアの頼みを聞いて、より良い響鳴石を見つける手助けをしてくれるようになっていた。
送信機の外箱を木で丁寧に作り、響鳴石を配置していく作業は、アリアにとって慣れたものだった。しかし、今回の実験で最も重要なのは、送信機内部の「魔力回路」の設計だった。
「先生、今までの魔力回路は、魔力を並列に流すのが常識だと教わりましたよね?」
アリアが尋ねると、ライナーは頷いた。
「ええ、その通りです。魔導具における魔力回路は、複数の経路に魔力を分散させることで、安定した動作と効率的な魔力供給を実現してきました。いわば、一本の大河を複数の支流に分けるようなものです」
ライナーは、黒板に従来の並列魔力回路の図を描いて説明した。それは、魔力を均等に分配し、各部品に同時に供給する、この世界の魔導具の基礎中の基礎だった。
アリアは、その図をじっと見つめ、何かを考えるように首を傾げた。
「でも……私の『声聞魔法』って、ごく微量の魔力で、声の振動を乗せて、それを響鳴石で増幅させていますよね?もし、各工程で、必要な魔力の量を細かく調整できたら、もっと効率的になるんじゃないかな……?」
アリアの言葉に、ライナーは驚きに目を見開いた。彼女の言葉は、これまでの魔力回路の常識を覆す可能性を秘めていたからだ。
「各工程で、魔力を調整する……?それは、つまり、魔力の流れを『階層化』するということですか?」
ライナーが尋ねると、アリアは目を輝かせた。
「はい!例えば、まず声の振動を魔力に乗せる工程、次にその魔力を響鳴石に伝える工程、そして響鳴石で増幅された魔力を放出する工程。それぞれの段階で、必要な魔力を個別に制御できたら、もっと無駄なく魔力を使えるんじゃないかなって!」
アリアは、自分の考えを説明するために、黒板に新たな魔力回路の図を描き始めた。それは、並列ではなく、まるで何層にも重なった階段のように、魔力の流れが段階的に制御される「階層構造」の魔力回路だった。魔力をいくつかの「層」に分け、各層が特定の役割を担い、次の層へと魔力を受け渡していく。
ライナーは、アリアが描いた図を見て、息をのんだ。
「これは……まさしく、革命的です!魔力回路の常識を覆す発想だ!」
ライナーは、興奮のあまり、眼鏡がずり落ちるのも構わず、黒板の図に食い入るように見入った。並列回路では、全ての工程に一律に魔力が供給されるため、ある工程で過剰な魔力が消費されたり、逆に不足したりすることがあった。しかし、アリアの提案する階層構造であれば、各工程に必要な魔力をピンポイントで供給し、無駄なく、かつ安定した伝送が可能になる。特に、アリアのように魔力量が少ない者にとっては、極めて有効な設計だ。
「この設計であれば、魔力消費をさらに抑えつつ、よりクリアで安定した『放送』が可能になるかもしれません!そして、他の魔法使いがこの回路を使えば、限られた魔力でも、貴女の『声聞魔法』に近い効果を得られる可能性も出てきます!」
ライナーは、アリアの発想が、自身の研究テーマであった「魔導具の効率化」に、新たな地平を切り開くことを確信した。彼は、アリアと共に、この「階層構造魔力回路」を予備の送信機に組み込む作業に取りかかった。
慣れない複雑な回路の組み立て作業は骨の折れるものだったが、アリアはライナー先生の指導を受けながら、集中して取り組んだ。そして数日後、新しい送信機が完成した。それは、見た目は既存のものと変わらない木箱だが、その内部には、アリアの革新的な発想とライナーの学術的知識が融合した、新たな魔力回路が組み込まれていた。
「さあ、アリア様。これを使って、実験を開始しましょう!」
ライナーの言葉に、アリアは力強く頷いた。彼女の胸は、自分の魔法が、この世界にどのような変化をもたらすのかという、大きな期待で満たされていた。




