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声の可能性

その日の午後、アリアはライナー先生との授業中、意を決して、午前中から抱いていた疑問を投げかけた。ライナー先生は、黒板に書かれた複雑な魔力の流れの図を説明しているところだった。


「あの……ライナー先生。少し、お聞きしたいことがあるのですが」


アリアが遠慮がちに声をかけると、ライナーは眼鏡を押し上げ、アリアの方に視線を向けた。


「はい、アリア様。何でしょう?」


「私の『声聞魔法』のことなんですけど……。こうして、声や音を遠くに届ける魔法って、私にしか使えないものなのでしょうか?」


アリアは、不安と期待が入り混じったような表情で尋ねた。


ライナーは、アリアの質問に一瞬目を丸くしたが、すぐにその知的な顔に深い興味の色を浮かべた。彼は椅子にもたれかかり、腕を組んで考え込んだ。


「なるほど……非常に興味深い問いですね、アリア様。貴女がその疑問を抱くのは、至極当然のことでしょう」


ライナーは、慎重に言葉を選びながら語り始めた。


「貴女の『声聞魔法』は、確かに貴女の持つ魔力の『質』に大きく依存しています。平均以下の魔力量でありながら、これほど精密に、そして広範囲に声の振動を伝えることができるのは、貴女の魔力が『生命との共鳴』、あるいは『情報伝達』に特化しているからだと、私は考えています」


彼は黒板を指さし、先ほどまで説明していた魔力の図をなぞった。


「しかし、魔力そのものは、この世界に遍く存在し、誰もが少なからず持っているものです。そして、『声』や『音』を魔力に乗せて伝達しようとする試み自体は、古くから行われてきました」


アリアは、目を輝かせながらライナーの言葉に耳を傾けた。


「例えば、伝声管の魔法具や、遠距離通信用の魔術符など、特定の場所に限定されたり、大きな魔力を消費したりする方法は存在します。それらは、貴女の『放送』のように、不特定多数に届けるものではありませんが……」


ライナーは、一旦言葉を切ると、アリアの真っ赤な瞳をじっと見つめた。


「ですが、貴女の発想である『響鳴石を媒介とし、ごく微量の魔力で、不特定多数に声を届ける』というこの仕組みそのものは、他の者にも応用できる可能性を秘めていると、私は考えています」


アリアの顔に、希望の光が宿った。


「つまり……私以外の人でも、同じような魔法が使えるかもしれない、ということですか?」


「ええ、あくまで可能性の話ですが。貴女のように、天性の『質』を持つ者は稀でしょう。しかし、貴女の編み出したこの『響鳴石』と『送信機・受信機』の原理を理解し、適切な魔力制御を行えば、既存の魔法使いが、貴女の『放送』に近いことを行うことは、不可能ではないかもしれません」


ライナーは、そう言うと、ふっと笑みをこぼした。


「ですが、これはあくまで理論上の話です。実際に可能かどうかは、実験してみる他ありませんね」


ライナーは、立ち上がると、アリアの部屋の黒板に向かった。


「これは面白い!アリア様、貴女の疑問は、この世界の魔法の常識を覆すかもしれません!どうでしょう、一緒に探求してみませんか?」


彼の知的な興奮は、アリアにも伝播した。


「どうすればいいですか、先生?」


アリアが前のめりになって尋ねると、ライナーは楽しそうに眼鏡を押し上げた。


「まずは、他の者が貴女の送信機を使ってみたらどうなるか。あるいは、別の種類の響鳴石を使ったらどうなるか。様々な条件を変えて、実験を重ねてみましょう。もしかしたら、貴女の『放送』は、もっと多くの可能性を秘めているのかもしれませんね!」


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