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賢者の困惑、小鳥たちのシンフォニー

ライナー・グレンジャーによる家庭教師の授業が始まって数日。リンドバーグ家では、午前中はセレスティが書斎でライナーの教えを受け、午後はアリアが自室でライナーと共に「声聞魔法」の研究に没頭するという、新たな日常が定着していた。


ある晴れた日の午前中、セレスティが書斎でライナーから高度な魔法理論について学んでいる頃、アリアは祖母セレーネと共に、庭の散策を楽しんでいた。セレーネは、愛らしい孫娘の傍らに寄り添い、優雅な足取りで色とりどりの花々を眺めている。


「アリア、この花はとても可憐ね。貴女のように、純粋な美しさがあるわ」


セレーネが優しく語りかけると、アリアはにこりと微笑んだ。その肩には、いつものようにポルンが止まっている。


「おばあ様も、とても綺麗です」


アリアの素直な言葉に、セレーネは嬉しそうに目を細めた。二人の穏やかな会話は、周囲の空気に溶け込み、庭には平和な時間が流れていた。アリアは、セレーネとの会話の合間に、ふと口ずさむように、森の民謡を歌い始めた。


アリアの歌声には、彼女自身も気づかぬうちに、微量の「声聞魔法」が込められている。それは、耳にする者の心を穏やかにし、自然界の生き物たちを惹きつける、優しくも不思議な力だった。


一羽、また一羽と、庭の木々から小鳥たちがアリアの周りに集まり始めた。最初の一羽がアリアの指先に止まると、アリアは心からの笑顔を見せ、小鳥に優しく語りかけた。その笑顔と歌声に引き寄せられるように、さらに多くの小鳥たちが舞い降りてくる。青い鳥、黄色い鳥、赤い鳥。色とりどりの小鳥たちが、アリアの頭や肩、腕に止まり、彼女の周りを賑やかに飛び交い始めた。セレーネの膝にも、一羽の小鳥がちょこんと止まり、愛らしい瞳で見上げていた。


「まあ、アリア。本当にたくさんの小鳥たちが集まってくるのね。まるで、貴女が森の歌姫のようだわ」


セレーネは、その幻想的な光景に目を細め、感動に浸っていた。彼女は、アリアの持つ特別な能力が、自然界の生き物たちと深く繋がっていることを感じていた。


その頃、書斎ではライナーがセレスティに高度な魔法陣の構造を教えていた。窓の外から、徐々に大きくなる小鳥たちのさえずりが聞こえてきた。


「……セレスティ様、この魔法陣は……」


ライナーは、講義を続けながらも、窓の外の喧騒に意識が向いていた。


(小鳥たちが、随分と騒がしいな。何か、珍しいことでもあったのだろうか……)


そう思い、ライナーは、何気なく窓の外に目をやった。


そして、彼の視界に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。庭の古木の根元で、セレーネとアリアが穏やかに会話している。その二人の周りを、文字通り「埋め尽くす」かのように、無数の小鳥たちが集まっているのだ。アリアの黒髪には小鳥が止まり、肩にも腕にも、所狭しと小鳥たちが群がっている。そして、彼女は、その中心で、屈託のない笑顔を浮かべ、小鳥たちに優しく語りかけている。


「……!」


ライナーは、一瞬言葉を失った。彼の知的な顔に、驚愕と、そして隠しきれない興奮の色が浮かんだ。可愛らしいもの好きの彼にとって、これほどの小鳥たちが集まる光景は、まさに「夢のような」瞬間だった。しかし、それ以上に、彼の研究者としての探求心が強く刺激された。


(これほどの数の小鳥たちが、一人の少女に引き寄せられる……これは、単なる偶然ではない。これは、アリア様の『声聞魔法』が持つ、生命を惹きつけ、心を繋ぐ、本質的な力……!そして、魔力量の多寡とは関係なく、その力が発現している……!)


「セレスティ様……これは、まさに、奇跡です!」


ライナーは、普段の冷静沈着な姿からは想像もつかないほど、興奮した声で呟いた。彼の目は、アリアと小鳥たちの織りなす幻想的な光景に釘付けになっていた。アリアの「声聞魔法」は、ライナーの学術的な常識を遥かに超える、計り知れない可能性を秘めていることを、彼はこの目でまざまざと見せつけられたのだった。

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