十六時の魔法、広がる「声」の波紋
ライナー・グレンジャーによるアリアとセレスティの家庭教師の授業が始まった、その初日。午後のアリアの授業を終え、ライナーは興奮冷めやらぬ様子で、アリアの「声聞魔法」と、その応用法である「放送」という概念について、バルドリックとセレーネに熱く語っていた。
「バルドリック様、セレーネ様!アリア様の『声聞魔法』は、想像をはるかに超える可能性を秘めております!魔力の少ないアリア様が、響鳴石を媒介とすることで、声の振動を魔力に乗せ、空間を超えて音を伝播させているのです!これは、魔導具の歴史を塗り替える発明に他なりません!」
ライナーは、銀縁の眼鏡を押し上げながら、早口で説明した。その熱弁に、バルドリックは静かに頷き、セレーネは目を丸くしていた。
「ほう、それが、アリアが『放送』と呼ぶものか」
バルドリックが呟くと、ちょうどその時、午後四時を告げる鐘の音が、屋敷中に響き渡った。
「失礼いたしました!この時間が、アリア様が『家内放送』を始める時刻でございます!」
ライナーは、ハッと我に返り、三人に告げた。
バルドリックとセレーネは、それぞれの自室へ、ライナーは書斎で、その「十六時の音色」を待つことになった。アレクサンダーとエリザベスは、既に「家内放送」に慣れ親しんでいたが、祖父母とライナーにとっては、初めての体験となる。
数秒の後、屋敷中にアリアの澄んだ声が響き渡った。
「……皆様、こんにちは。アリアです。今日の『十六時の音色』は、〇〇村で起こった魔獣騒動のお話と、その後に見つかった、新しい薬草についてお話ししたいと思います」
バルドリックは、自室に置かれた小さな木箱から聞こえてくる孫娘の声に、驚きを隠せない。彼は、その木箱を手に取り、まじまじと見つめた。魔力が感知されるのは、ごく微量。だが、確かにそこから、アリアの声が、まるで目の前で話しているかのように響いている。
「これは……まさか、これがあの『放送』というものか」
バルドリックは、アリアが遠隔で情報を伝えていることは知っていたが、それが、このような形で、誰もが耳にできる「音」として、屋敷中に届けられているとは想像もしていなかった。彼の脳裏には、騎士団長からの報告が蘇る。アリアの魔法が、単なる動物との会話に留まらず、情報伝達の手段として、すでに実用化されている事実を目の当たりにし、彼の知的好奇心はかき立てられた。
一方、セレーネの部屋でも、木箱から聞こえるアリアの声に、彼女は感動に打ち震えていた。
「アリアの声……!なんて優しい音色なの」
アリアが語る、村の出来事や、新しく見つかった薬草の話は、彼女の心に温かく響き渡った。セレーネは、アリアの魔法が、人々を安心させ、情報を提供し、心を癒す力を持っていることを、その身をもって実感したのだ。彼女は、アリアの才能が、単なる魔力の多寡では測れない、真に尊いものであることを確信した。
そして、書斎で放送を聴いていたライナーは、バルドリックとセレーネの反応を見て、さらに確信を深めた。彼は、アリアの部屋へと駆け戻った。
「アリア様!素晴らしい……!貴女の『声聞魔法』は、私の想像をはるかに超える応用性を持っています!これは、魔導具の歴史を変える発明です!」
ライナーは、アリアのそばに寄り添うポルンにも目を向け、嬉しそうに呟いた。
「ポルン殿も、アリア様の偉大な発明の立役者ですね。可愛らしい見た目とは裏腹に、恐るべき能力だ」
アリアは、祖父母とライナーが自分の「放送」にこれほど驚き、感動してくれるとは思っていなかった。特に、ライナーが自分の魔法を「発明」だと称賛してくれたことに、胸の奥が熱くなった。
「これからも、みんなに、色々なことを伝えたいです!もっと、たくさんの人に、私の声が届くように……」
アリアは、力強くライナーに語りかけた。その瞳には、未来への希望が満ち溢れている。
この日、バルドリックは、アリアの「声聞魔法」が持つ、情報伝達の可能性と、その計り知れない価値を明確に認識した。セレーネは、娘の才能が、人々に癒しと安心をもたらすことを確信した。そしてライナーは、アリアの魔法と「放送」という発想が、魔導具の新たな時代を切り開く、革命的な力となることを確信した。




