二人の教え子、二つの才能
ライナー・グレンジャーがリンドバーグ家で滞在することになり、アリアの家庭教師としての生活が始まった。しかし、バルドリックの提案で、ライナーは午前中はセレスティに、午後からはアリアに勉強を教えることになった。セレスティもまた、リンドバーグ家の後継者の一人として、より高度な学問を学ぶ必要があったからだ。
午前のセレスティへの授業は、リンドバーグ家の書斎で行われた。ライナーは、セレスティが持つ癒しの魔法の才能と、繊細な魔力操作の技術に着目し、その特性を活かした魔法理論や、古文書の解読法などを教えていた。
「セレスティ様は、非常に理解が早く、何よりもその探求心は素晴らしい。癒しの魔法の発展において、貴女のような方は貴重です」
ライナーは、セレスティの聡明さと、学びに対する真摯な姿勢に感銘を受けていた。セレスティは、ライナーの教えを吸収しながら、自身の魔法の可能性を広げ、新たな視点から魔法を捉える喜びを感じていた。
そして午後になると、ライナーはアリアの部屋へと向かう。アリアの部屋は、黒板にびっしりと情報が書き込まれた、まるで小さな研究室のようだった。ライナーは、アリアに一般的な学問だけでなく、彼女の「声聞魔法」をより深く理解するための知識、例えば、動物の生態学や、自然界の魔力の流れ、響鳴石の特性などについて教えていった。
「アリア様。貴女の『声聞魔法』は、単なる魔力の伝達ではありません。それは、世界の『声』を聴き、その情報を『理解する』能力だと私は考えています」
ライナーは、アリアの黒板に書かれた情報を指さしながら、熱心に説明した。
「例えば、この魔物の情報。ただ『魔物が出た』というだけでなく、その種類、行動パターン、さらに畑を荒らした理由までが推測されている。これは、動物たちが視覚や聴覚で得た情報を、貴女が単なる音としてではなく、意味のある情報として捉えている証拠です」
アリアは、ライナーの説明に目を輝かせた。自分が無意識に行っていたことが、学術的な言葉で説明されることで、より明確に理解できたのだ。
ライナーは、アリアが前世の知識から生み出した「家内放送」という概念にも強い興味を示した。
「そして、この『放送』という概念。限られた魔力で広範囲に情報を届ける、その発想は実に革新的です。響鳴石を媒介として、声の振動を魔力に乗せる……これは、魔道具の新たな可能性を切り開くかもしれません」
ライナーは、アリアの持つ柔軟な発想と、その応用力に驚嘆していた。彼の専門分野である魔呪具の研究にも、新たな光を当てるものだと感じていた。
休憩時間になると、ライナーはアリアの肩に止まっているポルンや、窓辺に遊びに来る小鳥たちに、穏やかな眼差しを向けた。
「おや、可愛らしいですね。ポルン殿、貴女もアリア様と共に、素晴らしい研究をしているのですね」
ライナーは、可愛らしいもの好きという一面を発揮し、ポルンや小鳥たちに優しく話しかけた。アリアは、自分の大切な友達をライナーが認めてくれたことに、心から嬉しそうに微笑んだ。
バルドリックとセレーネも、そんなアリアとライナーの様子を温かく見守っていた。バルドリックは、ライナーがアリアの才能を正しく評価し、その可能性を広げようとしていることに満足していた。セレーネもまた、ライナーの教えが、アリアの持つ「声聞魔法」を、より洗練された力へと導いてくれることを確信していた。




