王都からの来訪者、才能への眼差し
〇〇村の魔獣騒動の報告から数週間後、リンドバーグ家に、王都からの来訪を告げる報が届いた。バルドリックとセレーネ、アリアの祖父母が、遠路はるばるリンドバーグ家を訪れるというのだ。加えて、彼らと共に、一人の見知らぬ男性も同行すると告げられていた。
その男性の名は、ライナー・グレンジャー。バルドリックの元部下であり、貴族院を稀有な成績で卒業した博識な学者タイプの魔法使いだと聞かされ、アレクサンダーとエリザベスは、祖父母の来訪と、その目的について、様々な憶測を巡らせた。特に、アレクサンダーは騎士団長からの警告を思い出し、アリアの能力が外部に漏れることを危惧していた。
数日後、荘厳な馬車がリンドバーグ家の門をくぐり、玄関へと乗りつけた。アレクサンダーとエリザベス、そしてセレスティとアリアは、揃って玄関で出迎えた。
馬車の扉が開き、まず姿を見せたのは、白髪に蓄えられた髭をたくわえた威厳あるバルドリックと、優雅な物腰のセレーネだった。
「お父様、お母様、ようこそおいでくださいました」
アレクサンダーが頭を下げ、エリザベスも深々とカーテシーをする。
「おじい様、おばあ様」
セレスティも、二人に挨拶を交わす。アリアは、幼い頃以来の再会に、少し緊張した面持ちで、二人の祖父母を見上げていた。
「アレクサンダー、エリザベス、セレスティ。皆、元気そうで何よりだ」
バルドリックは、孫娘たちに目を向け、特にアリアの顔をじっと見つめた。その瞳の奥には、好奇心と、何かを見定めようとする鋭い光が宿っている。セレーネは、アリアの黒髪と真っ赤な瞳を優しく撫で、微笑んだ。
「アリア、大きくなったわね。その瞳、ますます輝いているわ」
祖父母との再会の挨拶を終えると、バルドリックは馬車の奥へと視線を向けた。
「さて、紹介しよう。彼が、今回我々と共に来た、ライナー・グレンジャーだ」
バルドリックの言葉と共に、馬車の奥から一人の男性が降りてきた。細身で端正な顔立ち、銀縁の眼鏡をかけ、知的な雰囲気を醸し出している。
「ライナー・グレンジャーと申します。バルドリック様のお供として参りました。この度、アリア様の家庭教師を務めさせていただきます」
ライナーは、丁寧な言葉遣いで自己紹介し、深々と頭を下げた。アレクサンダーとエリザベスは、その言葉に驚きを隠せない。アリアの家庭教師とは、予期せぬ展開だった。
「家庭教師、ですか?」
エリザベスが困惑した表情で尋ねると、バルドリックは静かに頷いた。
「うむ。アリアの学業全般を任せることとなる。それに加えて、先日、騎士団長から耳にした話もあってな。アリアの持つ、その『特別な才能』について、彼ならば理解し、導けるのではないかと考えたのだ」
バルドリックの言葉に、アレクサンダーは息をのんだ。騎士団長から聞いた「特別な才能」の噂が、ここまで祖父の耳に届いていたとは。そして、ライナー・グレンジャーが、その才能を「理解し、導く」ために派遣されたという事実に、アリアの能力が、いよいよリンドバーグ家全体で認識される時が来たことを悟った。
ライナーは、アリアの顔をじっと見つめ、その真っ赤な瞳の奥に、何かを探るような視線を向けた。
「アリア様。貴女の持つ『声聞魔法』の存在は、非常に興味深い。もしよろしければ、私もその研究の一端を担わせていただきたいと願っております」
ライナーの言葉には、学術的な探求心と、アリアの才能への純粋な好奇心がにじみ出ていた。アリアは、自分を「落ちこぼれ」と見なさず、真剣な眼差しで「魔法」について語りかけるライナーに、戸惑いながらも、どこか安心感を覚えた。
セレーネは、アリアとライナーのやり取りを温かい眼差しで見守っていた。バルドリックもまた、ライナーの言葉に満足げに頷いている。




