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古の知恵、未来への懸念

〇〇村の魔獣騒動が鎮圧されてから数日後。騎士団長は、今回の件で得た「アリアの情報」という異例の事態について、深く悩んでいた。アリアの報告は正確で、村を救った功績は大きい。しかし、その情報源が「平均以下の魔力を持つ少女が、動物と心を通わせた」という前代未聞の能力である以上、通常の報告書に記載するにはあまりにも異質だった。このまま放置すれば、いずれ王宮や他の貴族の耳に入り、不必要な混乱や憶測を呼ぶことになるだろう。


騎士団長は、この状況を誰に相談すべきか、熟慮した。そして、真っ先に頭に浮かんだのは、リンドバーグ家の元当主であり、王都の魔法貴族の重鎮であるバルドリック・リンドバーグの顔だった。彼は、長年の経験と知識、そして何よりも公平な判断力で知られている。加えて、アリアは彼の孫娘でもある。


その日の午後、騎士団長はバルドリックの邸宅を訪れた。セレーネと共に午後のティータイムを楽しんでいたバルドリックは、騎士団長の突然の訪問に、わずかに眉を上げた。


「これは、騎士団長殿。何か急用でございますかな?」


バルドリックが尋ねると、騎士団長は深々と頭を下げ、神妙な面持ちで話し始めた。


「バルドリック様。実は、先日発生した〇〇村の魔獣騒動について、ご相談させて頂きたく参上いたしました」


騎士団長は、今回の騒動の経緯、そしてアレクサンダーからの報告にあった「娘からの情報」について、詳細を説明した。アレクサンダーから受けた説明、つまり「娘君が動物と心を通わせ、情報を得た」という内容についても、隠すことなく伝えた。


セレーネは、その話を聞き、驚きに目を見開いた。彼女は、アリアが小鳥たちを集める姿を見て、ただの優しい心遣いだと考えていたが、それが村を救うほどの正確な情報源となっていたとは、思いもしなかったのだ。


バルドリックは、騎士団長の話を無言で聞いていた。彼の表情は、普段と変わらず穏やかだったが、その瞳の奥には、鋭い光が宿っていた。彼は、アリアが幼い頃に魔力測定で低い数値が出たこと、しかし動物や自然に不思議なほど愛されていたことを思い出す。そして、数日前に晩餐会で耳にした、アリアと小鳥たちの噂。それらの点が、今、一本の線で繋がろうとしていた。


「なるほど……。私の孫娘、アリアが、そのような能力を持っている、と」


バルドリックは、静かに言った。その声には、驚きよりも、深い洞察が感じられた。


「はい。アレクサンダー殿は、娘君の能力であると主張されております。しかし、このような前例のない能力を、果たしてどのように扱うべきか、我々も判断に苦慮しております」


騎士団長は、正直な胸の内を明かした。未知の能力は、時に恐れられ、誤解を生む。それが、王国の治安を預かる者としての、騎士団長の懸念だった。


セレーネは、バルドリックの顔を見つめた。彼女もまた、アリアの身を案じていた。


バルドリックは、ゆっくりと紅茶を一口飲むと、静かに口を開いた。


「騎士団長殿の懸念は、理解できます。しかし、アリアの持つ能力が、結果として村を救ったこともまた事実。その功績を、むやみに『異端』として排斥するのは、いささか早計に過ぎるでしょう」


バルドリックは、アリアの才能を否定することなく、その有用性を認める姿勢を見せた。


「ですが、このような能力を、どのように管理していくべきか……」


騎士団長は、不安を隠せない様子で尋ねた。


「ふむ……。まずは、アリアがどこまでその能力を自覚しているか、そして、どの程度まで制御できるのか、慎重に見極める必要がありましょう」


バルドリックは、そう言うと、セレーネの方へ目を向けた。


「セレーネ、アリアの家庭教師は、もう決まっているのだろう?」


「ええ、ライナー・グレンジャー殿にお願いする予定です」


セレーネが答えると、バルドリックは満足げに頷いた。


「そうか、ライナー殿ならば、申し分ない。彼は、古今東西の魔呪具に通じ、あらゆる魔法の可能性を探求する、優れた学者だ。アリアの能力について、彼に調査を依頼してみるのも良いだろう。彼ならば、アリアの身の安全を考慮しつつ、冷静にその本質を見極めてくれるはずだ」


バルドリックは、長年の信頼を置くライナーに、アリアの能力の解明を託すことを提案した。騎士団長も、ライナー・グレンジャーの名を知っており、その博識ぶりは承知していたため、納得した様子だった。


「承知いたしました。バルドリック様のご提案に従い、ライナー殿に協力を仰ぎたいと存じます。まずは、リンドバーグ家当主アレクサンダー殿にも、この件を伝えて、彼の判断を仰ぐことにいたします」


騎士団長は深々と頭を下げた。バルドリックの冷静な判断と、信頼できる人物への指示は、騎士団長にとって、この困難な状況を打開する光明に見えた。


騎士団長が帰った後、セレーネは心配そうな顔でバルドリックに尋ねた。


「あなた、アリアの能力が、そんなに……危険なものなのでしょうか?」


バルドリックは、静かに首を振った。


「危険なのは、未知のものを理解しようとしない、人々の心の方だ。アリアの能力は、まだ誰も知らない、新しい魔法の扉を開く可能性を秘めている。我々が、それを正しく導き、守ってやらねばならない」


バルドリックの瞳は、孫娘の秘めたる才能と、その未来を見据えていた。アリアの「声聞魔法」は、祖父の知恵と、信頼できる学者の手によって、その真の価値を世界に示していくことになるだろう。

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