騎士団長の問い、父の苦悩
〇〇村の魔獣騒動は、騎士団の迅速な対応により、大きな被害が出る前に鎮圧された。畑は荒らされたものの、村人に怪我はなく、村は安堵のため息に包まれた。しかし、その事後処理は、アレクサンダー・リンドバーグの元に、予期せぬ波紋を広げた。
数日後、アレクサンダーは、王都に駐屯する騎士団本部から呼び出しを受けた。騎士団長からの呼び出しである。彼は、何事かと首を傾げながらも、指示に従い王都へと向かった。
騎士団長室に入ると、そこには眉間に深い皺を寄せた騎士団長と、数名の騎士たちが控えていた。彼らの顔は、どこか険しい。
「リンドバーグ殿、お忙しいところ申し訳ない」
騎士団長は、形式的な挨拶を交わした後、本題に入った。
「今回の〇〇村の魔獣騒動についてだが、君の報告書にあった『情報源』について、詳しく伺いたい」
アレクサンダーは、今回の騒動の報告書に、情報源を「娘からの報告」とだけ記していた。詳細を記せば、アリアの「声聞魔法」という異例の能力が、不必要に注目されると考えたからだ。しかし、その曖昧な報告が、騎士団長の疑念を招いたようだった。
「報告書にも記した通り、私の娘、アリアからの情報でございます」
アレクサンダーが冷静に答えると、騎士団長は冷たい視線を向けた。
「君の娘君は、魔力が平均以下だと聞いている。そのような娘君が、なぜ、村の状況、魔物の種類、そして出現場所まで、これほど正確に把握できたのだ?まさか、君が事前に情報を掴んでいて、娘君の名を騙って、手柄を横取りしようとしたわけではないだろうな?」
騎士団長の言葉は、アレクサンダーにとって侮辱以外の何物でもなかった。しかし、彼は感情的になることなく、冷静に対応しようとした。
「そのようなことはございません。娘は確かに魔力量は乏しいですが、特別な才能を持っています。小鳥や森の動物たちと心を通わせ、彼らから情報を得ることができるのです」
アレクサンダーは、アリアの「声聞魔法」を、できるだけ穏便な言葉で説明した。しかし、騎士団員たちは、その言葉にざわめいた。
「動物と心を通わせる、だと?そんな魔法、聞いたことがない」
「それは、まるで森の妖精の魔法ではないか」
騎士たちの間に、困惑と疑念の声が広がる。騎士団長は、腕を組み、アレクサンダーをじっと見つめた。
「リンドバーグ殿。確かに、魔法には様々な種類がある。だが、動物がここまで具体的な情報を提供できるとは、にわかには信じがたい。ましてや、それが平均以下の魔力を持つ娘君の能力だというなら、尚更だ」
騎士団長の言葉には、アクサンダーへの疑念だけでなく、アリアの魔法に対する警戒の色がにじみ出ていた。この世界では、未知の魔法や異端の力は、往々にして恐れられ、排斥される対象となる。
アレクサンダーは、娘の身を案じ、これ以上、アリアの能力が詮索されることを避けたいと思った。
「信じていただけないのも無理はありません。しかし、アリアの情報のおかげで、村は大きな被害を免れました。それが事実でございます」
アレクサンダーは、あくまで事実を盾に、娘の魔法の正当性を主張した。
騎士団長は、しばらく沈黙した後、大きく息をついた。
「……確かに、結果として村が救われたことは事実だ。今回は、君の言葉を信じよう。だが、今後もそのような情報が入るようであれば、必ず事前に我々に報告してほしい。そして、娘君の能力については、これ以上の詮索はしない。しかし、決して外部に漏らすことのないように、厳重に管理してくれ。異端の力と見なされれば、君の家門にも累が及ぶ可能性もある」
騎士団長の言葉は、アレクサンダーにとって、警告であり、同時に娘の身を守るための忠告でもあった。アレクサンダーは、重い心で頷いた。
「承知いたしました。厳重に管理いたします」
アレクサンダーは、騎士団長室を後にしながら、深い溜息をついた。アリアの魔法は、確かに素晴らしい力だが、同時に、この世界では理解されにくい「異端」の力として、危険視される可能性を秘めている。彼は、娘の才能をどう守り、どう育てていくべきか、改めて重い課題を突きつけられたのだった。




