古き友の威光、公爵家の沈黙
先代の王陛下とバルドリック・リンドバーグの突然の訪問は、ブライアウッド公爵邸に、重く、そして決定的な影響を与えた。応接室に満ちる二人の老紳士の威厳と、古き友としての揺るぎない絆は、コンラート公爵とイザベラ公爵夫人の、リンドバーグ家への報復心を完全に打ち砕いた。
「コンラート。貴殿の家門は、王国の礎を築いてきた名門だ。その名誉を、娘の些細な過ちで汚すことは、わしも本意ではない」
先代の王陛下は、穏やかながらも、有無を言わせぬ口調で語りかけた。その言葉には、ブライアウッド公爵家への一定の配慮が感じられたが、同時に、王族の意に背けば、いかなる名門貴族であっても容赦しないという、強い警告が込められていた。
バルドリックもまた、静かに、しかし威圧的な視線をコンラート公爵に向けていた。
「我々は、王国の平和と秩序を何よりも重んじる。私怨による争いは、王国の安定を損ない、民を苦しめるだけだ。貴殿の賢明な判断に期待する」
バルドリックの言葉には、長年王国を支えてきた重鎮としての自負と、リンドバーグ家、ひいては王家が、この件をこれ以上追及しない代わりに、ブライアウッド家も一切の報復行為をしないことを求める、暗黙の圧力があった。
コンラート公爵は、顔を蒼白にしながら、深々と頭を下げた。
「陛下、バルドリック様。このコンラート、愚かな娘の教育不行き届き、深くお詫び申し上げます。そして、この度の御裁定と、御助言、謹んで拝聴いたします。ブライアウッド家が、王国の秩序を乱すようなことは、決してございません」
コンラート公爵は、この状況でこれ以上反抗することが、ブライアウッド家にとって、より大きな災いを招くことを瞬時に悟った。先代の王陛下とバルドリックという、王国の二大重鎮が揃って乗り込んできた時点で、彼らの企ては完全に露見し、その命運は尽きていたのだ。
イザベラ公爵夫人は、娘への報復が不可能になったことに、悔しさと怒りで唇を噛みしめていたが、夫の言葉と、王族の威光を前に、これ以上感情的になることはできなかった。
先代の王陛下とバルドリックは、コンラート公爵の言葉を聞き、満足げに頷くと、静かに公爵邸を後にした。
その日の午後、ブライアウッド公爵邸では、コンラート公爵から、セリーナの処分について、家族全員に厳重な通達が下された。そして、リンドバーグ家への一切の報復行為を禁じると共に、リンドバーグ家、特にアリアの「王国放送」に関する言及を一切しないよう、家族全員に厳命した。
ブライアウッド公爵家は、表面上は沈黙を守った。しかし、コンラート公爵の心の中には、リンドバーグ家への深い警戒心と、アリアの「王国放送」が持つ情報伝達の力への、新たな懸念が渦巻いていた。
(アリア・リンドバーグ……。あの娘の『放送』が、これほどまでに王国の未来を変え、我が家門の行動までを制限するとは……。このままでは、王国の情報網は、完全にリンドバーグ家の手に落ちる)
コンラート公爵は、アリアの「王国放送」が、王国の情報統制のあり方を根本から変え、自分たちのような旧来の大貴族の権益を脅かす存在となることを予見していた。
イザベラ公爵夫人の心の中では、セレスティとアリアへの激しい憎悪が、形を変え、より陰湿な復讐心を燃やし続けていた。彼女は、王族の目を欺き、リンドバーグ家を陥れるための、新たな策謀を巡らせ始めた。




