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家の隅々に響く歌、秘密?の放送局

父アレクサンダーの「沈黙の承認」は、アリアにとって、何よりも大きな自由をもたらした。彼は「外部に漏らすな」と言った。しかし、裏を返せば「家の中なら構わない」とも解釈できる。アリアは、その言葉を自分に都合よく解釈し、心の中でガッツポーズをした。これで、堂々と家の中で「放送」の実験を続けられる。


「ポルン、お父様が許してくれたよ! 家の中なら、もっとたくさんの人に、私の声を聞いてもらえるかもしれない!」


アリアは、興奮してポルンに語りかけた。ポルンも、アリアの喜びを分かち合うように、嬉しそうに「ホーッ」と鳴いた。


(うん! アリアの、おと、みんなに、きかせよう!)


アリアは、早速木箱型ラジオ受信機の改良に取り掛かった。響鳴石の配置を微調整し、家の中のあらゆる場所へ「声の波紋」を届けるための魔力伝達経路を模索した。彼女の狙いは、物理的な音を大きくするのではなく、あくまで「声聞魔法」の特性を活かし、聞く人の意識に直接語りかけるような、繊細な放送だ。


数日後、アリアは、改良された木箱型ラジオ受信機を手に、リンドバーグ家の中をうろうろと歩き回った。どこに設置すれば、最も効率よく「声」を届けられるだろうか。最終的に、アリアが選んだのは、家の中心に位置する、大きな暖炉の上だった。暖炉は、家中の空気を循環させる役割を担っており、魔力の「波紋」も伝わりやすいと考えたのだ。


初めての「本格的な」放送の日。アリアは、胸の高鳴りを抑えながら、自室の木箱型ラジオ送信機に向かって語りかけた。ポルンは、アリアの肩で、まるでスタジオのディレクターのように、じっとその様子を見守っている。


「……皆さん、聞こえますか? これは、リンドバーグ家放送局、アリアがお届けする、最初の放送です」


アリアは、前世で愛した深夜ラジオのDJになりきって、少しだけ緊張しながらも、優しい声で話し始めた。まずは、森で起こった小動物たちの可愛らしいエピソード。次に、ポルンが空から見た、リンドバーグ家の美しい庭の様子。そして、最後に、アリアが心を込めて歌う、穏やかな子守唄。ごく微量の魔力が、アリアの声と歌に乗って、木箱から家中に、そっと、しかし確実に広がっていった。


その頃、リンドバーグ家の中では、様々な出来事が起こっていた。


母のエリザベスは、自室兼寝室で読書をしていた、ふと、耳の奥で微かな歌声が聞こえたような気がした。


(ん? 今、何か聞こえたかしら? 気のせいかしら……)


最初はそう思った。しかし、その歌声は、断片的ではあるものの、どこか懐かしく、心を落ち着かせるようなメロディだった。それは、エリザベスの心を、日々の雑事から解き放つように、優しく包み込んだ。彼女は、無意識のうちに口元に笑みを浮かべ、いつもより軽やかな手つきで本を読み続けた。


使用人の老メイド、マリアは、居間で掃除をしていた。長年リンドバーグ家に仕える彼女は、耳が遠くなり始めていたが、ふと、どこからともなく聞こえてくる「物語」の声に、手を止めた。


「……白いフクロウが、空から世界中の不思議な出来事を見ていましたとさ……」


明確な言葉ではない。しかし、その心地よい語り口と、心に直接響くような「声」の波紋は、マリアの心に温かい物語を紡ぎ出した。彼女は、箒を片手に、遠い昔の子供時代に読んだ絵本を思い出し、ふわりと微笑んだ。


そして、書斎で魔導書を読んでいたセレスティは、アリアの放送をはっきりと捉えていた。


「あら、アリア、本当に始めたのね」


セレスティは、温かい飲み物を片手に、微笑みを浮かべた。彼女には、アリアの声が、以前よりもずっと安定して、家中に広がるように届いているのが分かった。具体的な言葉も、以前より明確に聞き取れる。


(この声は……きっと、みんなの心を癒すわ)


セレスティは、アリアの放送が、家族の心を少しずつ温めていることを、誰よりも先に感じ取っていた。


アリアの初めての「家内放送」は、こうして始まった。家族の誰もが、最初はそれがどこから来る声なのか、誰の声なのか、明確には認識していなかった。しかし、その「声」は、彼らの日常に、ささやかな彩りと、温かい癒しをもたらし始めていた。アリアの「秘密の放送局」は、こうして、リンドバーグ家の、それぞれの心の中に、静かに、しかし確実に、その居場所を広げていくのだった。

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