事件の余波、芽生える絆
セリーナ・ブライアウッドの停学処分は、貴族院に大きな波紋を広げた。特に、王国の第一王子ユリウス・ロゼッタ・ラングフォードが、身分に囚われず公正な裁定を下したことは、多くの生徒たちの間に、王子の揺るぎない正義感と、王族としての器量を示した。
この事件は、セレスティ・リンドバーグにとって、辛い経験であったが、同時に、ユリウス王子との距離を縮める、予期せぬきっかけともなった。
事件後、ユリウス王子は、セレスティの元を訪れた。中庭で、友人と静かに談笑していたセレスティは、王子の突然の訪問に、驚きに目を見開いた。レオやアリアも、王子の意図を測りかね、固唾を飲んで見守っていた。
「セレスティ・リンドバーグ殿。この度は、貴君に辛い思いをさせてしまったことを、王族の一員として深く謝罪する」
ユリウス王子は、真摯な表情でセレスティに頭を下げた。その言葉には、儀礼的なものではなく、心からの謝罪が込められていることが、セレスティには伝わった。
「殿下、滅相もございません。わたくしのために、このような厳正な裁定を下してくださり、心より感謝申し上げます」
セレスティは、恭しく頭を下げた。ユリウス王子の公正な裁定は、彼女の心に深く刻まれていた。
ユリウス王子は、セレスティの返答に、わずかに安堵の表情を浮かべた。そして、これまでの厳格な態度とは異なり、少しばかり気さくな口調で話しかけた。
「貴君の癒しの魔法は、訓練で怪我をした者たちにとって、大きな助けとなっている。その能力、これからも存分に活かしてほしい」
「はい、殿下。ありがとうございます」
セレスティは、王子の意外な言葉に、少し驚きながらも、優しく微笑んだ。
この事件をきっかけに、ユリウス王子は、以前よりも気軽にセレスティに声をかけられるようになった。貴族院の廊下ですれ違えば、立ち止まって言葉を交わす。図書館で彼女を見かければ、何気ない顔で隣に座り、学術的な話題を振るようになった。彼の態度は、以前のような「王族としての観察」ではなく、もっと個人的な「関心」と「親しみ」に満ちていた。
「セレスティ殿。この古文書に記された、古代の癒しの魔法について、貴君の見解を聞かせてもらえないか?」
「殿下。それは……」
セレスティは、王子の質問に、真摯に、そして自身の知見を交えて答えた。ユリウス王子は、セレスティの深く広い知識と、その聡明さに、改めて感銘を受けた。そして、彼女の傍らにいるだけで、自分の心が穏やかになるのを感じていた。
セレスティもまた、ユリウス王子の態度の変化に、戸惑いつつも、少しずつ彼に心を開いていった。王子は、王族としての威厳だけでなく、知的好奇心旺盛で、真摯に学問に向き合う、魅力的な人物だった。彼の質問は、セレスティ自身の学びを深めるきっかけにもなった。何よりも、彼の隣にいると、心が安らぐのを感じた。それは、セレスティ自身の癒しの魔法が、王子にも作用しているかのようだった。
レオとアリアは、そんな二人の様子を、複雑な思いで見守っていた。レオは、妹が王子と親しくしていることに、兄としての心配と、そして微かな戸惑いを覚えていた。アリアは、ユリウス王子の心の奥に、セレスティへの温かい感情が芽生えていることを感じ取っていた。
王国の未来を背負う王子と、癒しの魔法の才能を持つ貴族の令嬢。セリーナの事件は、二人の間に横たわる身分の壁を、わずかにだが取り払い、新たな絆を紡ぎ始めた。貴族院の華やかな舞台の裏で、ユリウス王子の秘めたる「ときめき」は、セレスティの癒しの光に包まれ、静かに育まれていく。




