王子の裁断、失墜する公爵令嬢
ユリウス王子の指示を受けた貴族院の教員たちによるセリーナ・ブライアウッドへの調査は、迅速かつ徹底的に行われた。セレスティの友人たちの証言、破損させられた魔導具の鑑定結果、花壇が荒らされた状況証拠、そしてレオの直接の訴え。あらゆる証拠が、セリーナによる悪質な嫌がらせを裏付けていた。さらに、過去にもセリーナが、自分に不都合な生徒に対し陰湿な嫌がらせを行っていた事実も明るみに出た。
数日後、貴族院の評議会が開かれ、ユリウス王子がその場に立ち会った。評議会では、セリーナの行いが、貴族院の秩序を著しく乱し、貴族としての品位を損なうものであるとして、厳しい処分が議論された。
セリーナ・ブライアウッドは、憔悴しきった表情で評議会の場に引き出された。しかし、彼女の瞳の奥には、まだかすかな傲慢さと、自分が公爵令嬢であるというプライドが残っているようだった。
「セリーナ・ブライアウッド殿。貴殿のこれまでの行いは、貴族院の生徒として、また貴族としての規範を著しく逸脱するものである。特に、自身より弱い立場にある者への嫌がらせ、そして身分を盾にした侮辱は、決して許されることではない」
ユリウス王子の声は、厳しく、そして冷静だった。彼の言葉は、セリーナの行動が、王族として、そして次期国王として看過できないものであることを明確に示していた。
「この評議会の決定として、貴殿には、貴族院からの一年間の停学処分を言い渡す。その間、王都への出入りは禁止され、ブライアウッド公爵領の郊外にある別邸での謹慎とする。貴殿の魔法も、一年間使用を禁じる」
ユリウス王子の言葉に、セリーナは驚愕に目を見開いた。一年間の停学、王都追放、そして魔法の使用禁止。それは、公爵令嬢としての彼女の誇りを根底から揺るがす、極めて重い処分だった。
「な……なぜ、そこまで……!私は、公爵家の娘ですわ!こんな処分は認められません!」
セリーナは、悲鳴のような声を上げた。彼女は、公爵令嬢である自分が、これほどの厳しい処分を受けるとは、夢にも思っていなかったのだ。
「公爵家の娘であろうと、王族であろうと、貴族院の秩序を乱し、他者を不当に傷つける者は、等しく罰せられる。それが、この貴族院の、そして王国の法である」
ユリウス王子の言葉は、セリーナの反論を完全に打ち砕いた。彼の言葉には、一切の私情を挟まない、公正なる裁定が込められていた。
この裁定には、アリアの存在が間接的に影響を与えていた。ユリウス王子は、アリアの「声聞魔法」がもたらす情報、特にセリーナの「嫉妬」という感情の根源をアリアが正確に言い当てたことに、深く感銘を受けていた。そして、アリアの「王国放送」が、身分を越えて国民に情報を届け、心を繋ぐ力を持っていることを知っていたからこそ、身分を盾に他者を傷つけるセリーナの行為を、決して許すことができなかったのだ。
評議会を終えたユリウス王子は、ライナー先生に声をかけた。
「ライナー教授。今回の件では、アリア・リンドバーグ殿の情報が、事態の本質を理解する上で、非常に役立った。彼女の持つ能力は、我々が思う以上に、この王国の正義を支える力となり得るだろう」
ユリウス王子の言葉に、ライナー先生は深く頷いた。
「殿下の御言葉、光栄にございます。アリア様の『声聞魔法』は、人の心の奥底にある感情までも察知する力を持つ。それは、まさに『真実の声』を聞く能力なのです」
この騒動は、貴族院、そして王都の社交界に大きな衝撃を与えた。公爵令嬢であるセリーナ・ブライアウッドが、王子の裁定により厳しい処分を受けたという事実は、貴族社会における身分の絶対性を揺るがすものだった。そして、その裏には、表舞台には立たない「黒髪の妖精」、アリア・リンドバーグの存在があったことが、一部の貴族の間で密かに囁かれ始めた。




