王族の介入、悲鳴と沈黙の宴
貴族院の中庭は、アリアの怒りに呼応して舞い降りた無数のカラスたちの威嚇と、セリーナ・ブライアウッドの悲鳴で、異様な混乱に包まれていた。セリーナは、カラスたちの追撃から逃れようと、醜態を晒しながら必死に走り回っている。周囲の生徒たちは、そのあまりにも非現実的な光景に、ただ呆然と立ち尽くすばかりだった。
その騒動は、すぐに貴族院の警備隊の耳にも届いた。そして、貴族院の敷地内にいる王族の耳にも。
「一体、何事だ!」
「王女殿下、危険です!お下がりください!」
王子の護衛騎士たちの声が響き渡り、ユリウス王子とフローラ王女が、護衛騎士たちと共に、騒ぎの起きた中庭へと急ぎ駆けつけた。ユリウス王子は、剣を構え、その厳かな表情には、事態の収拾を図ろうとする王族としての責任感が満ちていた。フローラ王女は、中庭に広がる異様な光景に、驚きに目を見開いていた。
セリーナ・ブライアウッドは、王子の姿を見つけると、カラスたちの威嚇から逃れようと、半泣きになりながら王子に助けを求めた。
「ユリウス殿下!助けてください!この、リンドバーグの娘が……私を魔物で襲わせようとしております!」
セリーナの言葉は、事実に反するものであったが、その場にいる生徒たちの多くは、無数のカラスがセリーナを威嚇している光景を目撃していたため、その言葉を信じてしまうかもしれない。
アリアは、セリーナのその言葉に、再び怒りが込み上げてくるのを感じた。しかし、その時、アリアの視界に、ユリウス王子の隣に立つフローラ王女の姿が映った。金色の髪、空色の瞳。不安と、そしてテへの心配が入り混じったような、その表情。
フローラ王女の顔を見た瞬間、アリアの胸に、冷水が浴びせられたかのような衝撃が走った。怒りに我を忘れていたアリアは、そこで初めて、自分がしてしまったことの重大さに気づいた。
(私……一体、何を……!?)
無数のカラスたちを、自分の怒りに任せて操ってしまった。王女の友でありながら、王族であるユリウス王子の前で、こんなにも醜い姿を晒してしまった。その事実に、アリアの心は、深い後悔と、そして恐怖で満たされた。
「うぅっ……」
アリアの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。彼女は、その場にうずくまり、泣き出してしまった。ポルンも、アリアの悲しみを感じ取っているのか、不安げに小さく鳴いた。
アリアが泣き出すと、彼女の周りに集まっていた小鳥たちは、不安げにざわめきながら、アリアの周りを舞い、彼女の頭や肩に止まった。そして、セリーナを威嚇していたカラスたちも、アリアの悲しみを感じ取ったかのように、威嚇を止め、静かにアリアの周りに舞い降りてきた。彼らは、アリアを守るかのように、アリアとレオ、そしてセレスティの三兄妹を、漆黒の翼で取り囲んだ。その異様な光景は、まるでリンドバーグ兄妹が、カラスの王に守られた「伝説の存在」であるかのようだった。
フローラ王女は、その光景を目の当たりにし、驚きに言葉を失っていた。無数のカラスが、泣き崩れるアリアと、その兄姉を囲むように、静かに、しかし威圧的に佇んでいる。その姿は、恐ろしいというよりも、むしろ神秘的で、幻想的な光景だった。
(アリア様……本当に、『カラスの王と少女』の物語の、精霊のようだわ……)
フローラ王女の脳裏には、アリアが語った「カラスの王と少女」の童話が蘇っていた。そして、王宮の危機を救ったのが、この「森の精霊」であるという噂。
ユリウス王子は、その異様な光景を冷静な眼差しで見渡し、事態の収拾を図るべく、護衛騎士たちに指示を出した。
「セリーナ・ブライアウッド殿を、速やかに医務室へ。そして、ここにいる生徒たちは、それぞれの教室に戻るように。この件については、後ほど貴族院の教員たちが調査を行う!」
ユリウス王子の厳かな声が、中庭に響き渡ると、生徒たちは、その言葉に従い、静かに散らばっていった。
ユリウス王子は、その後、アリアとレオ、セレスティの三兄妹の元へと歩み寄った。
「リンドバーグの諸君。今回の騒動について、詳しく事情を伺いたい。ライナー・グレンジャー教授にも、後ほど話を聞かせてもらう」
ユリウス王子の声は、冷静でありながらも、王族としての威厳と、そしてこの異常事態に対する、深い探求心が込められていた。




