王子の焦燥、王女の一途な友情
ユリウス王子は、セレスティ・リンドバーグへの秘めたる感情が、日増しに募っていくのを感じていた。彼女の真摯な姿、慈愛に満ちた癒しの魔法、そして何よりも、その揺るぎない心の強さ。王国の未来を背負う自分にとって、セレスティのような存在は、かけがえのないものになるだろうと、ユリウスは直感していた。
しかし、王族たる自分が、一貴族の娘に個人的な感情を抱くことは、容易ならざる問題だった。ユリウスは、王族としての理性と、一人の男としての感情の間で、静かな葛藤を抱えていた。
そんな中、ユリウスは、セレスティの情報を得るべく、妹のフローラ王女に探りを入れることにした。フローラはアリアと親友であり、アリアはセレスティと姉妹である。フローラを通じてなら、セレスティの普段の様子や、どんな人物であるかを知ることができるかもしれない。
ある日の午後、ユリウスは、王宮の庭園でアリアからの手紙を読んでいるフローラ王女に声をかけた。
「フローラ。最近、貴族院での勉学は順調か?」
ユリウス王子の言葉に、フローラ王女は顔を上げ、にこやかに微笑んだ。
「はい、お兄様!アリア様と文通をしたり、放送局の休憩スペースでリスナーのお便りを読んだりしているおかげで、学業にも意欲が湧いてきておりますわ!」
フローラ王女の言葉は、すぐにアリアの話題へと移った。ユリウスは、妹のアリアへの一途な友情に、内心で少しばかりの焦燥を感じた。
「そうか。アリア殿は、貴族院の特別研究科生として、目覚ましい成果を上げていると聞く。ところで、フローラ。セレスティ・リンドバーグ殿は、貴族院でどうしている?」
ユリウスは、さりげない口調で、セレスティの話題を振った。
フローラ王女は、ユリウス王子の質問に、何の疑いも抱かずに答えた。
「お姉様ですか?お姉様も、いつもお元気でいらっしゃいますわ!癒しの魔法の実技では、常に首席で、教授方も絶賛していらっしゃいますのよ!」
フローラ王女は、セレスティの活躍を、自分のことのように誇らしげに語った。
「それに、お姉様は、アリア様のことを誰よりも早く信じて、支えてくださった方ですの。アリア様が、今こうして『王国放送』の始祖として活躍できているのも、お姉様の支えがあったからだと、アリア様も仰っていましたわ」
フローラ王女の言葉は、ユリウスの心に深く響いた。セレスティの学業での功績だけでなく、妹のアリアを深く愛し、支えるその温かい心。それが、ユリウスのセレスティへの想いを、さらに強くしていく。
「そうか……セレスティ殿は、そのような人物であったか」
ユリウスは、静かに頷いた。彼の表情は、相変わらず冷静沈着だが、その瞳の奥には、セレスティへの憧れと、そして彼女との距離をどう縮めるべきかという、秘めたる葛藤が渦巻いていた。
フローラ王女は、ユリウス王子の真意に全く気づいていない。彼女の心は、アリアとの友情と、『王国放送』への情熱で満ちていた。
「お兄様も、アリア様の『王国放送』、よく聞いていらっしゃるのでしょう?アリア様が語る『カラスの王と少女』の諸説も、とても面白かったですわ!」
フローラ王女の言葉に、ユリウスは、苦笑いを浮かべた。妹の話題は、常にアリアへと戻ってしまう。
ユリウス王子は、フローラ王女との会話を通じて、セレスティの素晴らしさを再認識すると同時に、妹のアリアへの一途な友情と、自分自身の感情との間で、複雑な思いを抱き始めた。王国の未来を背負う王子が、一人の貴族の娘に抱く秘めたる感情。それは、王宮の厳格な秩序の中で、静かに、しかし確実に、その存在感を増していくことになるだろう。




