王子のまなざし、秘めたる鼓動
王国の第一王子、ユリウス・ロゼッタ・ラングフォードは、貴族院の最上級生(7年生)として、日々の勉学と公務に忙殺されていた。次期国王としての重責は大きく、彼の思考は常に王国の未来と国民の安寧に向けられていた。妹のフローラ王女が、アリア・リンドバーグという異質な才能を持つ少女と友情を育んでいることには、王族としての警戒心を抱きつつも、その純粋な情熱を理解しようと努めていた。
そんなユリウスの視線が、貴族院のある一人の少女に引き寄せられ始めていた。それが、リンドバーグ家の長女、セレスティ・リンドバーグだった。
ユリウスは、公務や視察で貴族院を訪れる際、度々セレスティの姿を目にすることがあった。彼女は、常に真摯な態度で勉学に取り組み、癒しの魔法の実技演習では、その繊細な魔力操作で、対象の心身を深く癒していた。
ある日の午後、ユリウスは貴族院の療養室を視察していた。そこでは、訓練で怪我をした騎士志望の生徒が、セレスティの癒しの魔法を受けているところだった。セレスティは、静かに魔法陣を展開し、その小さな掌から、温かい光を放っていた。その光は、生徒の傷ついた身体だけでなく、不安に満ちた心までも優しく包み込んでいくようだった。
「これで、大丈夫ですよ。無理せず、ゆっくりと休んでくださいね」
セレスティの声は、透き通るように穏やかで、聞く者の心を安らかにした。彼女の表情には、患者を心から気遣う、深い慈愛が満ち溢れていた。
ユリウスは、その光景を、部屋の入り口で息を潜めて見ていた。これまで、多くの癒しの魔法使いを見てきたが、セレスティの魔法は、他の誰とも違っていた。単に傷を癒すだけでなく、その心にまで深く寄り添う、温かい力。
そして、その魔法を操るセレスティの姿。金色の髪が陽光を浴びて輝き、青い瞳は、慈愛に満ちていた。彼女の真摯な姿は、ユリウスの心に、これまで感じたことのない「何か」を呼び起こした。
(彼女の魔法は……まるで、春の日の陽光のようだ……)
ユリウスの心臓が、ドクンと、静かに、しかし確かに鼓動した。それは、王族としての理性や、国の未来への重責とは異なる、個人的な感情の芽生えだった。
セレスティが、魔法を終え、優しく微笑んだ瞬間、ユリウスの心に、これまで感じたことのない「ときめき」が生まれた。彼女の優しさ、真摯さ、そして人々に寄り添う温かい心。それら全てが、ユリウスの心を強く惹きつけたのだ。
ユリウスは、セレスティに気づかれぬよう、静かにその場を後にした。彼の心の中には、セレスティの姿が鮮明に焼き付いていた。
その日から、ユリウスの心は、セレスティの存在に、強く惹かれるようになっていった。彼女の学業の成果、癒しの魔法の評判、そしてアリアという妹を持つ温かい姉としての姿。それら全てが、ユリウスのセレスティへの関心を、より深く、そして個人的な感情へと変えていった。




