闇夜の童話、紡がれる伝説の環
アリアの「王国放送」は、夜の帳が降りる頃、『眠れぬ夜に、君に寄り添う声』を通じて、王国の人々に癒しと物語を届けていた。その夜、アリアは、リスナーからのリクエストに応える形で、あの「カラスの王と少女」の童話を語ることにした。
「……夜の静寂が深まり、星々が王国の空に瞬くこの時刻。今夜は、王国に古くから伝わる、少しばかり怖いお話をお聞かせしましょう。カラスの王と、天涯孤独の少女の物語です……」
アリアの声は、穏やかでありながらも、物語の不穏な空気を忠実に伝え、リスナーの心を物語の世界へと引き込んでいく。カラスの王と少女の絆、意地悪な老婆の裏切り、そして少女の悲劇的な死。アリアの語り口は、リスナーの心に、深い悲しみと怒りを呼び起こした。そして、カラスの王の復讐、村の消滅、今もなお少女を求めてカラスが集まるという恐ろしい結末まで、アリアは感情を込めて語り終えた。
物語を終え、アリアは一呼吸置いた。放送室の照明が、アリアの顔を静かに照らす。
「……この『カラスの王と少女』のお話、いかがでしたでしょうか。私、このお話が大好きで、小さい頃によく母から聞かせてもらったんです。特に、私が悪いことをすると、母は『悪いことばかりすると、カラスの王が迎えに来るぞ』って言って、それが本当に怖かったのを覚えています」
アリアは、自分の幼い頃の思い出を、少し照れくさそうに語った。その言葉に、王国中のリスナーたちは、アリアにもそんな可愛らしい一面があったのかと、心が和んだ。
しかし、アリアは、そこで話を終わらせなかった。
「そして、この『カラスの王と少女』のお話には、実は、ある興味深い『諸説』があるのをご存じでしょうか?」
アリアの声が、わずかに神秘的な響きを帯びた。
「このカラスの王に愛された少女こそ、かつて王都の貴族院で語られた、『森の精霊と王子様』の物語に登場する、『森の精霊』の、遥か昔の姿だという説があるんです」
アリアの言葉に、王国中のリスナーたちは、驚きに息をのんだ。
王都の貴族院の宿舎。フローラ王女は、ベッドサイドの受信機から流れてくるアリアの声に、目を丸くしていた。
(まさか……!あの『森の精霊と王子様』と、『カラスの王と少女』が繋がっていたなんて!)
フローラ王女は、その意外な繋がりと、アリアが語る「諸説」に、強い知的好奇心を刺激された。
王都の城下町。酒場「酔いどれ亭」のゴードンも、受信機から流れるアリアの言葉に、驚きを隠せないでいた。
(なんだって!?あの森の精霊様が、こんな悲しい過去を持っていたとは……!)
ゴードンの心には、物語の登場人物への新たな感情が芽生えた。
「カラスの王と少女」が「森の精霊と王子様」の物語と繋がっているというアリアの「諸説」は、国民の間に、新たな衝撃と、そして物語への深い考察を促した。アリアの「王国放送」は、単に物語を語るだけでなく、古くからの伝説に新たな解釈を与え、人々の想像力を掻き立てる力を持っていた。
「……もしかしたら、カラスの王は、今も森で、愛しい少女の復活を願い、その声を探し続けているのかもしれませんね。そして、私たち『王国放送』の『声』が、その悲しみを、少しでも癒すことができるなら……」
アリアの最後の言葉は、国民の心に深く響いた。彼女の「王国放送」は、王国の伝説に新たな命を吹き込み、人々の心に、物語の奥深さと、そして「声」が持つ無限の可能性を、改めて示し続けていたのである。




