アリアの世界の童話:カラスの王と少女
昔々、この世界のどこか、人里離れた深い森の奥に、天涯孤独の少女が一人で暮らしていました。少女は、誰にも愛されず、人間たちからは疎まれていましたが、森の動物たちだけが、彼女の唯一の友でした。特に、森の賢者と呼ばれる、巨大な黒い羽根を持つカラスの王とは、深く心を通わせていました。
カラスの王は、少女の知恵と純粋さを認め、少女はカラスの王の知識と力に敬意を払いました。二人は、言葉を交わすことはありませんでしたが、互いの心を感じ合い、助け合いながら静かに森で暮らしていました。カラスの王は、少女に森の恵みを教え、少女はカラスの王に、森の平和を願う歌を捧げました。
ある日、少女が暮らす森の近くに、意地悪な心を持つ人間たちが住む村がありました。村人たちは、少女が森の精霊に愛されていることを知り、その力を恐れていました。そして、村一番の意地悪な老婆が、少女に近づき、甘い言葉で頼みました。
「おや、可愛らしい少女。わしは病で苦しんでおる。どうか、あの危険な山の奥にしか生えていない『月光草』という薬草を取ってきてはくれまいか。お前になら、きっとできるだろうて」
少女は、疑うこともなく、老婆の頼みを快く引き受けました。病で苦しむ人を助けられるなら、どんな危険な場所へでも行こうと、薬草かごを手に山へと向かいました。カラスの王は、少女の出発を見送りながら、不穏な影を感じ取り、密かに少女の後を追いました。
少女が月光草を見つけ、喜んで摘み取っているその時、背後から忍び寄った意地悪な老婆が、少女を無慈悲に突き飛ばしました。少女は、声も出せずに、深い崖底へと落ちていきました。
カラスの王が、崖下で見たものは、冷たくなった少女の小さな体でした。少女の手には、摘み取られたばかりの月光草が、まだしっかりと握られていました。カラスの王の心は、激しい怒りと悲しみで満たされました。
「(人間どもめ……!我が愛しき少女を奪いし罪、決して許さぬ……!)」
カラスの王は、夜空に向かって、怒りの咆哮を上げました。その声は、森の全てのカラスに響き渡り、王国中のカラスたちを呼び集めました。
そして、夜が明けた時。意地悪な村人たちが住む村は、忽然と姿を消していました。村のあった場所には、ただ、荒れ果てた大地が広がるばかり。村人たちの姿は、どこにもありませんでした。
それ以来、王国では、奇妙な噂が囁かれるようになりました。
「人が死んだ場所には、必ずカラスが集まってくる……あれは、カラスの王が、生きた人間を探しているのだ」
「森の奥で、カラスが動物たちの死骸を運んでいるのを見たぞ……あれは、体を、カラスの王が復活させようとしているのだ」
カラスたちは、人里近くを飛び回り、人間たちの死の匂いを嗅ぎつけます。そして、亡くなった動物たちの遺骸を、せっせと森の奥へと運んでいきます。人々は、その光景を見て、カラスの王が、今もなお、愛しき少女を蘇らせようとしているのだと、恐れと畏敬の念をもって語り継ぐようになりました。
そして、その村のあった場所には、今もなお、不気味なカラスの鳴き声が響き渡ると言われています。
おしまい。




