貴族院の熱狂、妖精を見たか?
アリアが貴族院の本館に姿を現し、フローラ王女と共に小鳥たちに囲まれた翌日。貴族院の学内は、前日以上に、異様な熱気に包まれていた。授業が始まる前の談話室、昼食時の食堂、休憩時間の廊下。どこもかしこも、「黒髪の妖精」の話題で持ちきりだった。
「ねえ、昨日、貴族院の本館で、『黒髪の妖精』を見たって本当!?」
1年生の女子生徒が、目を輝かせながら、友人に詰め寄った。
「ああ、見たさ!俺は、廊下の窓から見たんだ!まさか、本当にあんな光景があるとはな……!」
別の1年生の男子生徒が、興奮気味に語った。
「本当に、たくさんの小鳥たちが集まってきて、リンドバーグ様とフローラ王女殿下の周りを、まるで歌い踊るように飛んでいたんだ!あれは、まさに奇跡だった!」
その話を聞いた生徒たちは、口々に感嘆の声を上げた。昨日、その光景を直接目撃できた生徒は、貴族院のヒーローのように羨望の眼差しを向けられ、目撃談を語るたびに、周囲から熱い視線を浴びていた。
「黒髪の妖精は、本当に黒髪だったの!?どんなお顔をしていらっしゃったの!?」
「それがな、小鳥たちがたくさん集まっていて、遠くてよく見えなかったんだが……確かに、黒い髪が見えた!そして、フローラ王女殿下の隣で、心からの笑顔を浮かべていらっしゃった!あの笑顔は、本当に神秘的だったぞ!」
目撃者の証言は、さらに伝説に拍車をかけた。アリアの容姿が明確に語られないことで、かえって生徒たちの想像力を掻き立て、神秘性が増していく。
2年生の生徒たちの間でも、その話題は熱を帯びていた。
「まさか、あの『黒髪の妖精』が、本当に貴族院にいたとはな……。しかも、フローラ王女殿下とご一緒だったなんて!」
「噂では、リンドバーグ家のお嬢様だという話だったが、これほどの力を持つとはな……。やはり、王宮の危機を救ったという噂も、本当だったのかもしれないぞ」
彼らは、アリアの存在を、単なる伝説としてではなく、貴族院に実在する「神秘的な力」の象徴として捉え始めた。アリアの「王国放送」を毎日聞いている彼らにとって、その「声」の主が、これほどまでに神秘的な存在であったという事実は、放送への畏敬の念をも高めた。
セレスティは、友人たちと昼食をとっている最中、周囲の生徒たちの会話に耳を傾けていた。下級生たちが「黒髪の妖精を見たか?」という話題で大いに盛り上がっている様子を見て、セレスティは、少しばかり複雑な笑みを浮かべた。
(アリアは、やはり、表舞台に立つのが苦手なようね……。でも、貴族院の皆が、こんなにも貴女の存在に魅了されている)
セレスティは、妹の才能が、単なる学術的な評価に留まらず、多くの人々の心に、深い神秘と感動を与えていることに、改めて深く感動していた。
レオもまた、訓練場に向かう廊下で、後輩たちが「黒髪の妖精を見たか?」という話題で盛り上がっているのを聞き、小さくため息をついた。
(全く……あいつは、本当にどこまで私の予想を超えていくのだか……)
レオの言葉には、呆れと共に、妹への深い愛情と、そして誇らしさが込められていた。
貴族院全体が、「黒髪の妖精を見たか?」という話題で熱狂する中、アリアは、自身の研究室で、ライナー先生と共に、次の放送の準備に没頭していた。彼女自身は、自分の「魔法」が、こんなにも多くの人々の心に、深い物語を紡いでいるとは、夢にも思っていなかった。
貴族院で語られる「黒髪の妖精伝説」。それは、アリアの「声聞魔法」が、この世界の常識や認識を揺るがし、人々の心に深く、そして永遠に刻み込まれていく、その確かな証だった。




