伝説の邂逅、妖精たちの舞
アリアが貴族院の3年生になったある日、レオが、珍しくアリアの研究室へと顔を出した。レオは、いつになく真剣な表情をしていた。
「アリア。お前、貴族院の宿舎にはほとんど戻らず、研究室か地下にばかり籠っていると聞いたぞ」
レオの言葉に、アリアは少し戸惑った。兄が、自分の生活を心配してくれているのだろうか。
「はい、レオ兄様。その方が、集中できますから」
アリアが答えると、レオは深くため息をついた。
「お前が研究に熱心なのは良いことだ。だが、おかげで貴族院の下級生の間では、お前が『黒髪の妖精』だという、妙な噂が広まっているぞ」
レオの言葉に、アリアは目を丸くした。「黒髪の妖精」という噂は、セレスティから聞いて知っていたが、それが兄の耳にまで届き、しかも兄が「妙な噂」として、わざわざ自分に伝えに来るとは思わなかった。
「妖精、ですか……?」
アリアが不安げに尋ねると、レオは腕を組み、真剣な顔で言った。
「ああ。姿を見せない神秘的な存在で、中庭に無数の小鳥たちを集める、とかなんとか。王宮の危機を救ったのも、その妖精の力だとまで言われている。確かに、お前の魔法は特別だが、あまりにも現実離れした噂が広まるのは、後々面倒なことになるかもしれん。たまには、貴族院の本館にも顔を出すといい」
レオの言葉には、アリアを心配する兄としての愛情と、貴族としての体裁を重んじる現実的な視点が込められていた。
「はい、レオ兄様。分かりました。たまには、本館にも顔を出すようにします」
アリアは、兄の助言を受け入れた。
そして数日後。アリアは、ライナー先生との午前の研究を終え、レオの助言に従って、少し緊張しながら貴族院の本館へと足を向けた。本館は、多くの授業が行われ、生徒たちが活発に行き交う場所だ。アリアにとっては、普段ほとんど足を踏み入れない、見慣れない空間だった。
廊下を歩いていると、突然、向こうからフローラ王女が、数名の友人たちと共に歩いてくるのが見えた。フローラ王女は、アリアの姿を見つけると、目を輝かせ、駆け寄ってきた。
「アリア様!ごきげんよう!貴族院の本館でお会いできるなんて、珍しいですわね!」
フローラ王女は、アリアの手を握り、心からの笑顔を見せた。アリアも、王女との再会に、安堵の表情を浮かべた。
「フローラ王女殿下。ごきげんよう。レオ兄様に言われて、少し本館に顔を出してみようかと」
二人が談笑していると、中庭の方から、一羽、また一羽と、小鳥たちが舞い降りてきた。アリアの「声聞魔法」が、無意識のうちに小鳥たちを惹きつけているのだ。小鳥たちは、恐れることなく、アリアの周りに集まり、彼女の頭や肩、腕に止まる。そして、フローラ王女の周りにも、次々と舞い降りてきた。
その光景は、本館の廊下を行き交う多くの生徒たちの目を奪った。彼らは、驚きに目を見開き、アリアとフローラ王女の周りに集まる小鳥たちの群れを、ただ呆然と見つめていた。
「あれは……!噂の『黒髪の妖精』と、フローラ王女殿下だ!」
「本当に、小鳥たちが集まってくるなんて……!まさしく、妖精のようではないか!」
下級生たちは、その幻想的な光景に、興奮と、そして畏敬の念をもって語り合った。彼らにとって、アリアは、まさに「伝説の黒髪の妖精」そのものだった。王女と共にあるその姿は、伝説にさらなる神秘性を加えていた。
アリアは、周囲の生徒たちの視線に気づき、少し照れくさそうに微笑んだ。フローラ王女も、小鳥たちに囲まれ、心からの笑顔を浮かべている。
レオの助言で、たまには本館に顔を出すことにしたアリアの行動は、皮肉にも、彼女に関する「黒髪の妖精伝説」を、貴族院の生徒たちの間で、さらに加速させる結果となった。アリアの「声」と、その魔法がもたらす神秘は、王国の学術界だけでなく、人々の心の中にも、深く、そして永遠に刻み込まれていくことになったのである。




