密室の音色、最初の聴衆
アリアは、自作の木箱型ラジオで自分の声が「広がる」ことを確認し、さらに試行錯誤の末、四つの「ラジオ受信機」を完成させた。それは、手のひらサイズの小さな木箱で、イヤホンを耳に装着することで、アリアの歌声を聞くことが出来る。
(これで、より遠くまで私の声が届くはず……!)
アリアは、完成した受信機を前に、胸を高鳴らせていた。しかし、すぐに新たな課題に直面する。イヤホンを装着しなければ聞けないのでは、セレスティが常に耳に当てているわけにはいかない。もっと、自然な形で、部屋中に「声」を響かせることができれば……。
(そうだ……! スピーカーだ! 前世のラジオには、スピーカーがあった!)
アリアの脳裏に、前世の「スピーカー」の概念が鮮明に蘇った。音を空気中に解放し、部屋中に響かせるための装置。この世界の魔力で、それをどう再現するか。
アリアは、再び響鳴石の特性について深く考察した。響鳴石は、魔力の振動を増幅させるだけでなく、特定の波長の魔力を「音」として空気中に放出する特性も持っているはずだと、アリアは直感した。彼女は、響鳴石の配置と、魔力回路の構築を工夫することで、受信機に「スピーカー」のような機能を持たせられないかと試行錯誤を始めた。
数日後。アリアは、スピーカー機能を組み込んだ、新たな受信機を完成させた。それは、以前の受信機よりも一回り大きく、表面には、音を放出するための、小さな穴が開いている。
アリアは、緊張と期待で胸を高鳴らせながら、受信機を机の上に置いた。そして、自作の木箱型ラジオから、自分の声で歌を歌い始めた。
「♪~星の光よ、遠くまで届け~♪」
その瞬間。
受信機の小さな穴から、微かに、しかし確かにアリアの歌声が聞こえてきた。それは、イヤホンで聞くよりも、はるかに自然で、部屋中に響き渡るような、心地よい響きだった。
「ポルン……! できた……! スピーカーだ……!」
アリアは、感動で声を震わせた。ポルンも、アリアの成功を祝うかのように、「ホーッ!」と力強く鳴いた。
アリアは、完成した受信機を手に、セレスティの部屋へと向かった。レオが不在になったことで、以前よりも自由に、そして大胆に実験を続けることができる。
その日の夕方、アリアがセレスティの部屋を訪れると、セレスティは自室で本を読んでいた。
「セレスティ姉様! 見て! これ!」
アリアは、完成した受信機をセレスティに差し出した。セレスティは、その見慣れない木箱に、興味深げな視線を向けた。
「アリア、これは一体……?」
セレスティが尋ねると、アリアは、興奮気味に説明した。自分の「声聞魔法」を送信する木箱型ラジオと、その声を受信するこの受信機のこと。そして、この受信機には、部屋中に音を響かせる「スピーカー」のような機能があること。
「まさか……! アリアの『声』が、この箱から聞こえるというの!?」
セレスティは、驚きを隠せない。アリアは、力強く頷いた。
「うん! だから、セレスティ姉様。今から、私の部屋から、姉様のために、歌を歌うね! この受信機を、部屋の隅に置いておいて!」
アリアは、そう言うと、セレスティの部屋の隅に受信機を設置し、自分の部屋へと戻った。セレスティは、半信半疑ながらも、アリアの言葉を信じ、受信機を見つめていた。
数分後。セレスティの部屋に、微かな、しかし澄み切ったアリアの歌声が響き渡った。
「♪~森の木々のささやき、風の歌が聞こえる~♪」
それは、アリアが心を込めて歌う、穏やかなメロディの童謡だった。セレスティは、その歌声に、雷に打たれたような衝撃を受けた。彼女の顔には、驚きと、そして、深い感動が浮かんでいる。
(アリアの声が……! 本当に、この部屋に響いている……!)
セレスティの目から、大粒の涙が溢れ落ちた。それは、妹の才能への感動と、そして、遠く離れた妹の「声」が、自分の心を温かく包み込んでくれたことへの、安堵の涙だった。
アリアの歌声は、セレスティの心の奥底に、忘れかけていた故郷の温かさと、妹への深い愛情を呼び起こした。セレスティは、静かに目を閉じ、アリアの歌声に聞き入っていた。
歌が終わると、セレスティは、すぐにアリアの部屋へと駆け込んだ。
「アリア……! 本当に、届いたわ……! あなたの声が、私の部屋に響いていたわ……!」
セレスティは、感動で声を震わせながら、アリアを強く抱きしめた。アリアも、姉の感動に、胸がいっぱいになった。ポルンも、アリアの肩で、二人の姉妹の絆を祝うかのように、「ホーッ!」と力強く鳴いた。
この日、アリアの小さな木箱から放たれた「声」は、初めて、自分以外の「聴衆」の心に届いた。そして、その「声」は、アリアの夢が、決して絵空事ではないことを、確かな形で証明したのだった。アリアは、この「最初の聴衆」の存在を胸に、さらに広い世界へと、その「声」を届けるべく、新たな決意を固めていく。




