姉の憂慮、妹の輝き
姉セレスティ・リンドバーグは、日々の勉学に励む傍ら、妹アリアのことも常に気にかけていた。アリアは、特別研究科生として貴族院の宿舎に部屋を与えられていたが、最近、ほとんど自室に戻ってきていないという話を、宿舎のメイドから耳にすることが増えていた。
(アリア、一体どこで寝泊まりしているのかしら……?ライナー先生の研究室に泊まり込んでいるのかしら、それとも……)
セレスティは、アリアの多忙なスケジュールを心配していた。アリアネットワークの統括、放送の解説、ライナー先生との研究、そして夜の『眠れぬ夜に、君に寄り添う声』の担当。いくらアリアの魔法が微量の魔力消費で済むとはいえ、その集中力と体力的な負担は計り知れない。
数日後、セレスティは、アリアの研究室へと向かう途中で、偶然にも廊下でアリアとすれ違った。アリアは、ライナー先生や研究室のメンバーと共に、午前中の打ち合わせを終えたところだったようだ。
「アリア!」
セレスティが呼びかけると、アリアは、驚いたように振り返った。彼女の肩には、いつものようにポルンが止まっている。
「お姉様!ごきげんよう!」
アリアは、満面の笑顔でセレスティに挨拶した。その時、セレスティは、アリアの顔を見て、驚きに目を見開いた。
(アリアの顔色が……まるで違うわ!)
セレスティが最後にアリアの顔を見たのは、数週間前のことだった。その時も、アリアは元気ではあったが、やはり目の下には、わずかな疲労の影が見て取れた。しかし、今のアリアの肌は、以前にも増して艶やかで、目の輝きも一層澄んでいる。まるで、深い休息と、満ち足りた日々を送っているかのように、全身から活力が漲っているのだ。
「アリア……貴女、最近、どこで休んでいるの?宿舎の部屋には、ほとんど戻ってきていないと聞いたけれど」
セレスティは、心配と、そして妹の変化への驚きが混じった声で尋ねた。
アリアは、少し照れくさそうに微笑んだ。
「はい、お姉様。私、最近は、放送局の地下にある休憩スペースで休ませていただいているんです。ライナー先生が、私のために作ってくださった場所で……」
アリアは、地下の休憩スペースが、外界の光も音も完全に遮断された、完璧な安息の場であることを説明した。夜の放送後も、そこでリスナーからの便りを読んだり、明日の放送の構想を練ったりしていることも話した。
「そう……地下の休憩スペースで……」
セレスティは、その言葉に納得した。ライナー先生がアリアの体調を気遣い、特別な休息の場を用意してくれたのだろう。そして、アリアがそこで心身を休めているだけでなく、自身の魔法と向き合い、探求を深めていることも、セレスティには理解できた。
(アリアは、もう私が心配する必要もないくらい、立派に自分の道を見つけて、輝いているのね……)
セレスティの心には、妹の成長に対する、深い喜びと、そして誇らしさが満ちていた。かつて「落ちこぼれ」と蔑まれていた妹が、今や王国全体を動かす「希望の音色」の源となり、その顔は、以前にも増して輝きを放っている。それは、アリアが、自分の居場所を見つけ、心から充実した日々を送っていることの証だった。
「アリア。貴女の顔色が、以前よりもずっと良くなったわ。本当に、良かった」
セレスティは、優しい笑顔でアリアの頭を撫でた。
「はい、お姉様。この場所で休ませていただいているおかげで、毎日、元気いっぱいです!」
アリアは、力強く頷いた。
姉妹の会話は、貴族院の廊下に温かい光を灯していた。アリアの「王国放送」は、王国の未来を築く大きな力となっていたが、その根源には、家族の温かい支えと、アリア自身の、純粋で揺るぎない「声」が、常に存在していた。そして、その「声」は、アリア自身を、そして周囲の人々を、さらに輝かせ続けていくのである。




