侍従長の焦燥、女王の秘め事
翌朝、女王の執務室にいつものように早朝から詰めていた侍従長は、女王の姿が見えないことに、慌てふためいていた。執務室の椅子は空のままで、女王がいつも朝食前に目を通す書類にも、手はつけられていない。
「女王陛下!女王陛下!」
侍従長は、必死に女王の名を呼んだが、返事はない。王宮の警備は厳重であり、外部からの侵入は考えられない。では、女王は一体どこへ?不穏な想像が、侍従長の脳裏を駆け巡る。
(まさか、昨夜の遅くまで公務に追われ、過労で倒れられたのでは……!?)
侍従長は、王宮の危機管理体制における自身の責任を思い、冷や汗が背中を伝うのを感じた。彼は、慌てて他の侍従たちにも声をかけ、王宮中に女王の行方を捜索させようとした。
その時、執務室の壁に飾られた大きな絵画の裏から、微かな物音が聞こえた。侍従長は、驚きに目を見開いた。
「誰だ!そこにいるのは!」
侍従長が、警戒しながら絵画の方に近づくと、絵画がゆっくりと横にスライドし、その奥から、女王陛下が姿を現したのだ。女王の顔には、深い休息を得た後のような、穏やかな表情が浮かんでいた。しかし、その瞳の奥には、わずかながら、見られたことへの戸惑いの色も見て取れた。
侍従長は、女王がその奥の小さな空間から出てきたことに、驚愕のあまり言葉を失った。まさか、女王の執務室に、このような隠し部屋があったとは。
女王は、侍従長の焦燥した顔を見て、静かに、しかし有無を言わせぬ威厳を込めて命じた。
「……何事ですか、侍従長。朝から、そんなに騒がしくして」
女王の言葉には、まるで何事もなかったかのように振る舞うよう、暗に促す意味が込められていた。侍従長は、女王の意図を瞬時に察した。王国の最高権力者である女王が、このような個人的な隠し部屋で休息を取っているなど、決して外部に知られてはならない「秘密」なのだと。
侍従長は、すぐに冷静を取り戻し、深々と頭を下げた。
「女王陛下。大変申し訳ございません。女王陛下のお姿が見当たらず、万が一の事態かと、不肖の身ながら、心配のあまり……」
侍従長は、そう言うと、女王が隠し部屋から出てきたことを悟られないように、素早く絵画を元の位置に戻し、隠し部屋の存在を隠蔽した。
女王は、侍従長の機転の速さに、わずかに口元に笑みを浮かべた。
「ご苦労様でした、侍従長。わしは、ここで少しばかり瞑想をしておりました。貴族院の者たちには、この件について、決して話すことのないように」
女王の言葉は、この秘密を厳守することへの、強い念押しだった。
「かしこまりました、女王陛下。この侍従長、命に変えても、この秘密は守り通します」
侍従長は、力強く誓った。彼自身も、女王のこの秘密の休息が、女王の心身の健康にとって、いかに重要であるかを理解していたからだ。
女王は、静かに執務室の椅子に座り、書類仕事に取りかかった。しかし、彼女の心の中では、アリアの「王国放送」がもたらした、王女の、そして自分自身の心の変化に、深く思いを馳せていた。




