表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/173

女王の憂慮、秘密の安息

フローラ王女は、自室に設けた「秘密の隠れ家スペース」に、すっかり夢中になっていた。夜の『夕焼け物語』の放送を終え王宮に戻ると、そのまま隠れ家スペースへと直行し、そこでリスナーからのお便りを読み、アリアとの文通を綴り、そして深い眠りにつくのが日課となっていた。


王女の心身は、そのおかげで驚くほど健やかだった。以前のような、王宮生活のストレスからくる気分の落ち込みもなくなり、学業にも公務にも、以前にも増して意欲的に取り組んでいた。しかし、その変化は、侍従たちにとっては、新たな心配の種となっていた。


ある日の朝、フローラ王女の侍従長は、女王陛下の執務室を訪れ、恐る恐る報告した。


「女王陛下。誠に恐縮ではございますが、フローラ王女殿下のことで、ご報告がございます」


「フローラが?何か問題でも起こしたのか?」


女王が、わずかに眉をひそめて尋ねると、侍従長は、さらに恐縮した様子で言葉を続けた。


「いえ、問題、というわけではございませんが……実は、フローラ王女殿下は、このところ、ほとんどご自身のベッドでお休みになられていないようでございます」


「なんですって!?」


女王は、驚きに目を見開いた。フローラがベッドで寝ていない?それは、王女の健康に関わる重大な問題だ。


「昨夜も、明け方近くに部屋を訪れたところ、ベッドは全く手つかずでございました。しかし、王女殿下は、いつも以上に顔色も良く、お元気なご様子でございますので、一体どこで休息を取られているのかと、侍従たちも困惑しております」


侍従長の報告に、女王の心には、深い憂慮と、そして僅かながら違和感が広がった。娘の体調が良いというのなら、一体どこで休んでいるのか。そして、王女がこんな秘密を抱えているとは。


その日の午後、女王は、誰にも告げることなく、一人でフローラ王女の自室を訪れた。王女の部屋は、普段と変わらない豪華な調度品で飾られているが、ベッドは確かに手つかずのままだった。


女王は、部屋の中を見渡し、やがて、部屋の一角にひっそりと設けられた、小さな木の壁で仕切られた空間に気づいた。周囲の豪華な調度品とは明らかに異なる、質素な「隠れ家スペース」。それが、フローラがベッドで寝ない理由なのか。


女王は、そっとその隠れ家スペースに足を踏み入れた。中には、薄暗い電球色の照明が灯り、体に優しくフィットするリクライニングシートが置かれている。隣の小さなテーブルには、リスナーからのお便りの束と、アリアから贈られた虹色の響鳴石が飾られていた。


女王は、静かにリクライニングシートに座ってみた。すると、外界の喧騒が、まるで魔法のように遮断される。光も音も届かない、完璧な静寂。そして、リクライニングシートが、女王の体を優しく包み込み、日々の公務で凝り固まった女王の心身を、ゆっくりと解きほぐしていく。


(これは……!)


女王は、驚きに目を見開いた。王宮の豪華な寝台でさえ得られない、この深い安堵感。そして、この空間がもたらす、完璧なプライベートな感覚。女王は、フローラがこの場所を愛する理由を、その身をもって実感したのだ。


女王は、リクライニングシートに身を沈め、目を閉じた。王宮の重責から解放され、心ゆくまで自分自身と向き合えるこの空間は、王女にとって、そして今、女王にとってさえも、かけがえのない安息の場所だった。彼女は、フローラが、この場所で休息を取ることで、王女としての責務を、より意欲的に果たせるようになっていることを理解した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ