王女の秘密、自室に生まれた安息
フローラ王女は、放送局の地下休憩スペースでのひとときを、何よりも大切な時間として過ごすようになっていた。午後7時には王宮の自室に戻るものの、その心地よさは、王宮の豪華な私室では決して得られないものだった。特に、体に優しくフィットするリクライニングシートと、外界から完全に遮断された2畳ほどの個室空間が、王女のお気に入りだった。
(あのリクライニングシートは、本当に素晴らしいですわ……!まるで雲の中にいるかのような心地よさ。そして、あの静かで小さな空間は、誰にも邪魔されずに、自分だけの世界に没頭できる……!)
フローラ王女は、王宮の自室に戻るたびに、地下休憩スペースの快適さを思い出し、ため息をついていた。王宮の自室は広々として豪華だが、常に侍女や護衛の気配が感じられ、完全なプライベートな空間とは言えなかった。何をするにも王族としての規則と、他者の視線がつきまとう。
そんなある日の午後、フローラ王女は、ライナー先生が放送局の改築計画の際に使った設計図を偶然目にした。そこには、地下休憩スペースの個室の詳しい構造や、リクライニングシートの設計図までが描かれている。フローラ王女の顔に、一つの閃きが浮かんだ。
その日のうちに、フローラ王女は、侍女長を通じて、王宮に仕える腕利きの職人たちを秘密裏に呼び出した。
「皆に頼みがある。わたくしのこの部屋の一角に、小さな空間を造ってほしい。外界の光と音を遮断し、心地よい椅子と、手元を照らす小さな照明器具が置けるような、そのような場所を」
フローラ王女の突然の依頼に、職人たちは戸惑った。王宮の部屋を改造するなど、前代未聞のことだ。しかし、王女の強い要望と、女王陛下の信頼を得ている王女の頼みとあっては、逆らうことはできない。
職人たちは、王女の指示に従い、彼女の自室の一角に、密かに「王女版隠れ家スペース」の制作に取りかかった。王宮の厳格な規則を破らないよう、周囲の調度品と調和させながら、しかし機能は地下の休憩スペースの個室を忠実に再現するよう、細心の注意が払われた。
数日後、フローラ王女の自室の一角に、小さな「隠れ家スペース」が完成した。それは、周囲の豪華な調度品とは対照的な、質素ながらも温かみのある木の壁で仕切られた2畳ほどの空間だった。薄暗い電球色の照明魔術具が設置され、中には、特別に作らせた体に優しくフィットするリクライニングシートと、小さなテーブル、手元用照明器具が置かれている。もちろん、アリアから贈られた虹色の響鳴石を飾る場所も用意されていた。
フローラ王女は、その隠れ家スペースに足を踏み入れた瞬間、感動に打ち震えた。
「素晴らしい……!これなら、いつでも、アリア様の休憩スペースと同じように、心ゆくまで休息し、自分だけの時間を過ごすことができますわ!」
フローラ王女は、リクライニングシートに身を沈め、ふかふかの毛布にくるまった。外界の喧騒が遮断され、完璧な静寂が王女を包み込む。王宮の自室にいながらにして、地下の安息を得られる。それは、まさに王女の長年の夢だった。
この日から、フローラ王女は、夜の放送を終えて王宮に戻った後、この「秘密の隠れ家スペース」で、リスナーからのお便りを読んだり、アリアとの文通をしたり、あるいはただ静かに休息を取ったりするようになった。
女王陛下も、娘の自室にこのような空間ができたことを知ると、最初は驚きと戸惑いを覚えた。しかし、王女がそこで過ごすことで、王女の表情がより穏やかになり、学業や公務にも以前より意欲的に取り組むようになったのを見て、その効果を認めるようになった。
アリアの「声聞魔法」は、王国の情報化を推進するだけでなく、その発想一つで、王族の生活スタイルにまで、静かに、しかし確実に変化をもたらしていた。フローラ王女の自室に生まれた「秘密の隠れ家スペース」は、アリアの自由な発想が、王宮の壁を越え、王族の心に、新たな安息と喜びをもたらしたことを象徴していたのである。




