女王の譲歩、王女の一夜限りの夢
フローラ王女の、放送局の地下休憩スペースで寝泊まりしたいという願いは、女王陛下にとって、容易に受け入れられるものではなかった。王女の安全、そして王族としての体裁。それらは、王国の安定を司る女王にとって、何よりも重要なことだった。
しかし、フローラ王女の願いは、単なるわがままではなかった。彼女の瞳には、アリアへの友情と、国民に寄り添いたいという王族としての使命感、そして、アリアの「放送」を通じて、自分自身がもっと成長したいという、強い決意が宿っていた。その純粋な熱意は、女王の心を深く揺さぶった。
「お母様。アリア様は、あの場所で、王国のために、どれほどの情報を集め、どれほどの思いを込めて、国民の皆様に声を届けていらっしゃるか。わたくしも、その一端に触れたいのです」
フローラ王女は、懇願するように女王に訴えかけた。その言葉には、王族としての義務感だけでなく、一人の少女としての、純粋な憧れが込められていた。
女王は、静かに目を閉じ、深く考え込んだ。アリアの「王国放送」が、フローラにこれほどの変化をもたらしたことは事実だ。娘の成長を願う親として、この願いを完全に無視することはできない。そして、アリアの魔法が、王宮の危機を救い、王国に希望をもたらしていることも、女王は深く理解していた。
やがて、女王はゆっくりと目を開き、厳かでありながらも、優しい声で告げた。
「……フローラ。貴女の熱意は理解しました。しかし、王女たる貴女の安全は、王国の最優先事項です。無許可で王宮を離れることは、決して許されません」
女王の言葉に、フローラ王女は、残念そうな表情を浮かべた。
「ですが、お母様。どうしても……」
フローラ王女が、さらに食い下がろうとすると、女王は静かに言葉を続けた。
「……ただし。もし、護衛騎士団が万全の警備体制を敷き、ライナー・グレンジャー教授が責任をもって貴女の安全を保証できるのであれば。そして、一晩限りという条件であれば……」
女王の言葉に、フローラ王女は、驚きに目を見開いた。
「本当でございますか、お母様!」
「ええ。一晩限りのお試しです。もし、貴女がそこで十分に休息を取り、新たな学びを得られると判断すれば、今後のことについても、改めて検討いたしましょう」
女王の言葉には、娘への深い愛情と、そしてアリアの「王国放送」が持つ、未知の可能性への、かすかな期待が込められていた。
フローラ王女は、感動のあまり、女王に駆け寄り、力強く抱きついた。
「お母様!ありがとうございます!本当に、ありがとうございます!」
女王は、そんな娘の純粋な喜びに、優しく微笑んだ。
その日のうちに、王宮騎士団は、放送局の地下休憩スペースの警備体制を強化するための調査を開始した。ライナー先生も、王女の安全確保のため、地下休憩スペースの魔導具の安全性を再確認し、万全の体制を整えるべく奔走した。そして、アリアにも、フローラ王女が一晩だけ地下の休憩スペースで過ごすことになった旨が伝えられた。アリアは、王女が自分の大切な場所で休息を取ってくれることに、心から喜びを感じていた。




