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夜の隠れ家、魔女の揺り籠

アリアの「王国放送」は、朝早くから夜遅くまで、王国全土にその「声」を届け続けていた。午後9時10分から始まるアリア自身の担当番組『眠れぬ夜に、君に寄り添う声』は、多くの国民にとって、一日の終わりの大切な癒しの時間となっていた。アリアの声は、リスナーの不安に寄り添い、希望を与え、安らかな眠りへと誘う。


深夜0時。『また明日』の放送を終え、その日の「王国放送」は幕を閉じる。他の放送者たちがそれぞれの宿舎へと戻っていく中、アリアは、ポルンを肩に乗せ、地下の休息スペースへと向かった。


しかし、この頃のアリアは、ライナー先生が設定した午後の休息時間だけでなく、深夜の放送を終えた後も、そのまま地下の個室に居座ることが多くなっていた。


「(ポルン……今日の放送も、みんなの心に届いたかな?)」


アリアは、リクライニングシートに身を沈め、静かにポルンに語りかける。ポルンは、アリアの心の声に答えるように、小さく鳴いた。個室の小さなラジオ受信機からは、微かにノイズが聞こえるばかりで、外界の音は一切届かない。


この深夜の時間は、アリアにとって、自身の「王国放送」を振り返り、リスナーからの便りに深く思いを馳せる、大切な時間となっていた。彼女は、手元の小型黒板に、今日寄せられたリスナーの悩みや、番組への感想を書き出す。そして、明日の放送で、彼らにどんな言葉を届けられるだろうか、と深く考え込んだ。


(この、辺境の村のおばあちゃん……娘さんの病気のことを心配しているのね。私の歌声で、少しでも元気になってくれたらいいな……)


(この貴族の若者、自分の居場所が見つからないって。私も、昔はそうだったな……)


アリアは、リスナー一人ひとりの顔を想像し、彼らの心に寄り添うための言葉を探した。時には、前世の記憶が、思わぬヒントを与えてくれることもあった。深夜ラジオのパーソナリティたちが、どのようにリスナーと心を通わせていたのか。その記憶が、アリアの「放送者」としての資質を、さらに磨き上げていく。


ライナー先生も、アリアが夜の放送後も地下に居座っていることに気づいていた。しかし、彼はそれを咎めることはなかった。むしろ、その行動を静かに見守っていた。


(アリア様にとって、あの場所は、単なる休息の場ではないのですね。彼女自身の『声聞魔法』と深く向き合い、内なる声を聞き、そして、王国の全ての人々の心と繋がるための、特別な場所……)


ライナー先生は、アリアの才能が、休息だけでなく、静寂の中でこそ、さらに深く、豊かに育まれていくことを理解していた。地下の個室は、アリアの魔力を枯渇させることなく、むしろその「質」を研ぎ澄まし、彼女の「放送者」としての感性を磨き上げていたのだ。


朝4時、アリアネットワークの鳥たちが、情報を届けに集まってくる時間になると、アリアは地下の安息の場所から、再び地上へと姿を現す。彼女の瞳は、疲労の色を全く見せず、むしろ新たな探求への喜びと、深い洞察に満ちて輝いていた。


地下の休息スペースは、アリアにとって、心身を休ませる場所であると同時に、自己と向き合い、リスナーと深く繋がり、そして自身の「声聞魔法」をさらに高めていくための、「声の隠れ家」であり、「魔女の揺り籠」となっていた。アリアの「希望の音色」は、この地下の静寂の中で、深く、深く、その根を張り、王国全体に、永遠に響き渡るための準備を着々と整えていたのである。

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