地下の安息、声の隠れ家
ライナー先生の提案で、アリアの休息時間は午後7時まで延長されることになった。しかし、貴族院の宿舎にあるアリアの研究室は、放送局として常に多くの研究者や放送者が活動しており、静かに休むには適した環境とは言えなかった。
(アリア様が、心身を休めるためには、光や音の影響を受けず、完全に遮断された空間が必要だ……)
ライナー先生は、アリアの「声聞魔法」が、周囲の音や情報に敏感であること、そして多忙なスケジュールの中で、深い休息が必要であることを理解していた。彼は、研究室の敷地内を歩き回り、最適な場所を探した。
そして、彼の目に留まったのは、研究所の建物の一角にある、ほとんど使われていなかった「地下の物置スペース」だった。薄暗く、埃っぽい場所だが、その静寂さと、光や音の遮断性は、アリアの休息場所として理想的だと思われた。
ライナー先生は、すぐに建築家と魔導技師を呼び、その地下物置スペースの改築計画を立て始めた。
「この地下室を、アリア様と、他の放送者たちのための休息スペースに改築する。光や音の影響を完全に遮断し、心身を安らげられる空間とするのだ」
ライナー先生の指示に、建築家たちは驚いた。通常、休息スペースといえば、陽光が差し込む明るい場所を好むからだ。
しかし、ライナー先生は、アリアの能力の特性を説明した。
「アリア様の『声聞魔法』は、外界の音や情報に敏感です。そのため、外部からの刺激を最小限に抑えることが、彼女の深い休息にとって極めて重要となる。それに、アリア様の魔法は『思念の伝達』であり、窓がなくとも、アリアネットワークの鳥たちと心を通わせることに何ら支障はない」
ライナー先生の言葉に、建築家たちは納得し、改築作業に取りかかった。地下室は、まず徹底的に清掃され、魔力を使った防音・遮光の魔法陣が壁と天井に施された。空気は常に新鮮に保たれるよう、魔導具による換気システムが導入された。質素ながらも、温かい毛布が敷かれた寝台や、心身を落ち着かせるアロマを放つ魔香炉なども設置された。
数週間後、地下の休息スペースが完成した。そこは、地上の喧騒から完全に遮断され、光も音も届かない、穏やかな静寂に包まれた空間となっていた。
ライナー先生は、アリアを連れて、その地下の休息スペースへと案内した。
「アリア様。これからは、この場所で、お昼からの休息時間を過ごしてください」
アリアは、その空間に入ると、驚きに目を見開いた。
「わぁ……!なんて静かなんでしょう!本当に、何も聞こえません……」
アリアは、その静寂に、心から安堵した。日中、放送局の賑やかさの中で、心の奥底では常に緊張を強いられていた彼女にとって、この完璧な静寂は、何よりも貴重なものだった。ポルンも、アリアの肩で、その心地よさに満足げに小さく鳴いた。
「それに、この場所なら、誰にも邪魔されずに、ぐっすり眠ることができそうです。窓がなくても、私にはポルンがいるから、外の様子も分かりますし」
アリアは、ライナー先生の心遣いに、心から感謝した。自分の能力の特性まで考慮して、こんなにも完璧な休息の場を用意してくれたことに、アリアの心は温かい光で満たされた。
「先生……本当に、ありがとうございます」
アリアの言葉に、ライナー先生は優しく微笑んだ。
「貴女の健康と、貴女の『王国放送』が、この王国に永く希望の音色を響かせ続けることこそが、私の願いです。どうぞ、この場所で、心ゆくまで休息をお取りください」




