中庭の幻影、二人の妖精
国王陛下との会談を終えた各国からの要人たちは、王国の新たな情報伝達の仕組みに深い感銘を受けつつも、その技術が持つ計り知れない可能性に、複雑な思いを抱いていた。彼らは、王宮の執事に案内され、次の会合へと向かうため、貴族院の敷地内にある通路を歩いていた。
その時、通路の窓から、ふと中庭に目をやった隣国の侯爵は、驚きに目を見開いた。
「あれは……!」
侯爵が指さした先に、他の要人たちも視線を集中させた。貴族院の美しい中庭の、古木の根元に、二人の若い少女が座っていた。一人は、珍しい黒髪と真っ赤な瞳を持ち、もう一人は、王族特有の気品を湛えた金色の髪を持つ少女。そして、その二人の少女の周囲を、数えきれないほどの小鳥たちが、まるで魔法のように飛び交い、彼女たちの頭や肩に止まっているのだ。
「あれは、リンドバーグ家のアリア殿と、フローラ王女殿下ではございませんか!」
外交官の一人が、その少女たちの正体に気づき、驚きの声を上げた。彼らは、王都の社交界で広まっている「アリアが森の精霊に愛された少女である」という噂は耳にしていたが、まさか、これほど明確な形でその光景を目の当たりにするとは、想像もしていなかった。
「信じられん……!あれほどの数の小鳥たちが、何の警戒心もなく、人間にこれほど懐くとは……!」
隣国の将軍は、その威厳ある顔に、驚愕の表情を浮かべた。彼らの国では、小鳥たちが人間を恐れ、決して近づこうとしないのが常識だったからだ。
二人の少女は、小鳥たちに優しく語りかけ、時には歌を口ずさんでいる。アリアの歌声は、風に乗って微かに聞こえてくるが、その声には、聞く者の心を穏やかにする、不思議な力が宿っていた。フローラ王女もまた、肩に止まった小鳥を愛おしそうに撫で、心からの笑顔を浮かべている。その光景は、あまりにも幻想的で、まるで絵本の世界から飛び出してきたかのような美しさだった。
「あれは……まさに、妖精ではないか……!」
侯爵が、感嘆の声を漏らした。彼らの目には、黒髪の少女と金髪の王女が、小鳥たちに囲まれて輝く姿が、まるで自然界の神秘そのものとして映っていた。
要人たちは、しばらくの間、言葉を失い、ただその奇跡のような光景に見入っていた。彼らは、アリアの「王国放送」が、いかに革新的な技術であるかという理性的な理解とは別に、彼女の持つ「心」と「生命」を繋ぐ、根源的な力に、深く心を打たれたのだ。それは、彼らの世界観を揺るがすほどの、神秘的な体験だった。
国王陛下との会談で、王国の「羅針盤」として語られたアリアの「王国放送」。そして今、その生みの親であるアリアが、王女と共に、貴族院の中庭で「妖精」として輝く姿。この光景は、他国の要人たちの間で、アリアの存在と、彼女の魔法が持つ計り知れない可能性を、より強く印象づけることになった。
アリアの「声」は、単なる情報伝達の手段に留まらず、その存在そのものが、王国全体に、そして世界に、新たな「物語」と「神秘」をもたらし始めていたのである。




