賢者の懸念、魔女の休息
アリアの「王国放送」は、その番組表が示す通り、朝から夜中まで多岐にわたるコンテンツを国民に届け、王国全土の情報と文化の中心となっていた。アリア自身は、『王国モーニングニュース&天気予報』の統括と特別解説、そして『森のささやき』、『小さな精霊たちの声』、『眠れぬ夜に、君に寄り添う声』、『また明日』といった自身の担当番組をこなし、さらに「アリアネットワーク」の全ての情報を管理していた。早朝の鳥たちからの情報収集から始まり、各省庁への情報伝達、他の放送者との打ち合わせ、ライナー先生との研究……。彼女の毎日は、まさに分刻みのスケジュールで埋め尽くされ、休む間もなかった。
そんなアリアの姿を、ライナー先生は常に心配そうに見守っていた。アリアの瞳は、知的好奇心に満ちて輝いていたが、その目の下には、わずかながら疲労の影が見て取れた。彼女の魔力消費は微量とはいえ、精神的な集中力と肉体的な疲労は、確実に蓄積されているはずだった。
ある日の午後、アリアが自身の担当番組を終え、次の研究の準備に取りかかろうとしていた時だった。ライナー先生が、静かにアリアの前に歩み寄った。
「アリア様。少し、お話ししてもよろしいでしょうか」
ライナー先生の、いつもより真剣な声に、アリアは少し驚いたように顔を上げた。
「はい、先生。何でしょうか?」
「アリア様。貴女は、この『王国放送』の心臓であり、その中心で王国全体を支えていらっしゃいます。貴女の情熱と努力には、ただただ頭が下がるばかりです。しかし、このままでは、貴女様の体力が持たない」
ライナー先生の言葉に、アリアは首を横に振った。
「いえ、先生。私は大丈夫です。私の魔法は、ごく微量の魔力しか使いませんから」
しかし、ライナー先生は、アリアの目を見て、優しく諭した。
「魔力消費が微量であることは、承知しております。しかし、アリア様。貴女は、毎日の情報収集から放送の統括、研究、そして王女殿下との交流まで、精神的な集中力を極限まで高めて活動されています。肉体的な疲労も、確実に蓄積されています」
ライナー先生は、黒板に書き出されたアリアの細かなスケジュールを指さした。そこには、休憩の時間がほとんどない。
「貴女は、この王国にとってかけがえのない存在です。貴女が倒れてしまっては、『王国放送』は滞り、王国の情報網は寸断されてしまう。それは、この王国にとって、大きな損失となります」
ライナー先生の言葉は、アリアの心に重く響いた。自分の体調が、王国全体の運命にまで関わっている。その責任の重さを、改めて痛感した。
「そこで、アリア様。私から一つ提案がございます」
ライナー先生は、そう言うと、黒板の放送スケジュールに、新たな時間を書き加えた。
「午後1時00分~3時00分:『アリア様の休息時間(仮)』
内容: 睡眠、あるいは静養。この時間は、アリア様は一切の業務から離れ、心身を休めることとする」
「お昼の情報放送と、午後の番組の間に、数時間の睡眠時間を確保しましょう。この時間帯は、他の放送者たちに交代で担当してもらい、アリア様は一切、業務に携わらないこととするのです。貴女様の精神と肉体を休ませることは、貴女の『声聞魔法』を維持し、さらに発展させるためにも、極めて重要なことです」
ライナー先生の提案は、アリアにとっては、予想外のものだった。自分が休むことで、放送に穴が開くのではないか、他の人に負担をかけてしまうのではないかという不安が、アリアの心に浮かんだ。
しかし、ライナー先生は、そんなアリアの不安を察したように、優しく付け加えた。
「ご心配なさる必要はありません。他の放送者たちも、貴女の貢献を理解し、喜んで協力してくれるでしょう。そして、この休息こそが、貴女の『王国放送』を、より長く、より強く、王国全体に響かせ続けるための、大切な要素となるのです」
アリアは、ライナー先生の真剣な眼差しと、その心からの気遣いに、深く感動した。自分の体調までを気遣ってくれる先生と、支えてくれる仲間たちがいる。その温かさに、アリアの心は温かい光で満たされた。
「はい、先生。私、そのお時間、しっかりと休ませていただきます。そして、もっと、良い『王国放送』を届けられるように、頑張ります」
アリアは、力強く頷いた。




