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好奇心の芽生え、チョークを追う瞳

アリアの「王国放送」が王国全土を巡り、王都で姉や兄、そしてフローラ王女がそれぞれの活躍を見せる中、リンドバーグ家では、新たな生命の息吹が、日ごとに力強くなっていた。アリアの末弟、アルバス・リンドバーグは、初放送から10日後に生まれ、今では生後数ヶ月が経ち、すっかり大きくなっていた。


アルバスは、幼いながらも、兄姉とは異なる柔らかな栗色の髪と、見る者全てを魅了する澄んだ瞳を持つ、愛らしい男の子だった。彼は、非常に好奇心旺盛で、目が覚めている間は、常に何かを探すように、部屋中を動き回っていた。ハイハイができるようになると、部屋の隅々を探検し、つかまり立ちができるようになると、周囲のものを全て手にとって、その感触を確かめようとした。


リンドバーグ家の人々は皆、アルバスの成長を温かく見守っていた。マリアは、昔を思い出すように優しく世話を焼き、グレゴリオは、アルバスのために特別な離乳食を用意した。エミーリアも、アルバスの可愛らしい仕草に、いつも心を和ませていた。


特に、アルバスが最も興味を示したのは、アリアの部屋の壁にずらりと並んだ、あの大きな黒板だった。アリアが王都にいる間、部屋は空き部屋となっていたが、黒板にはアリアが書き残していった情報や、ライナー先生が滞在していた時に使った図などがそのまま残されている。


アルバスは、ハイハイで黒板の前にたどり着くと、その大きな板をじっと見つめ、小さく手を伸ばした。特に、黒板に書き残された色とりどりのチョークの跡に、強い興味を示した。


ある日の午後、エリザベスがアルバスを連れてアリアの部屋を訪れた時のことだった。ちょうど部屋の掃除をしていた若メイドのエミーリアが、その場に居合わせていた。アルバスは、エリザベスの腕の中から身を乗り出し、黒板のチョークの跡に、小さな指を伸ばした。そして、黒板の縁に置かれていた、色鮮やかなチョークを見つけると、それを掴もうと必死になった。


「あらあら、アルバス。チョークが欲しいのかしら?」


エリザベスが優しく声をかけると、アルバスは、掴んだチョークを小さな口元に運び、かじろうとした。


「まあ、だめよ、それは食べられないわ」


エリザベスは、慌ててアルバスの手からチョークを取り上げた。しかし、アルバスは、チョークを取り上げられたことに不満を示し、小さく泣き始めた。


その様子を見ていたエミーリアは、驚きに目を丸くした。


「アルバス様、チョークがお好きなんですね!アリア様も、小さい頃は黒板とチョークに夢中でしたわ」


エミーリアは、アリアの子供時代を思い出しながら、微笑んだ。彼女の記憶には、いつも黒板の前に座り、小さなノートに何かを書きつけていたアリアの姿があった。


アルバスは、エリザベスの腕の中で、それでもなお、黒板とチョークに視線を向けている。彼の小さな手は、何かを掴み取ろうとするかのように、空を切っていた。


(アリア様と、アルバス様……何か、通じるものがあるのかしら?)


エミーリアは、その可愛らしい光景に、不思議な縁を感じていた。アリアの「王国放送」が王国全体に響き渡る中、リンドバーグ家には、新たな「声」の可能性を秘めた、幼い生命が育まれていた。アルバスが示す、チョークへの強い興味は、彼が将来、アリアと同じように、この世界の「知」の探求に深く関わっていくであろうことを予感させる、小さな兆しだった。

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