王女と魔女、温かな貴族院の午後
アリアの「王国放送」は、今や王国全体を動かす大きな力となっていた。放送者たちへの破格の給与支給は、彼らに新たな希望と生きがいを与え、アリアの研究室は、活気あふれる「放送局」として機能していた。フローラ王女もまた、正式に『夕焼け物語』の放送者として、その声を国民に届ける喜びを感じていた。
ある晴れた日の午後、貴族院の授業の合間の休憩時間。アリアとフローラ王女は、人目につきにくい中庭の片隅で、二人きりで向かい合って座っていた。フローラ王女は、アリアが贈ってくれた虹色の響鳴石を、胸元に下げたペンダントとして身につけている。
「アリア様。貴女様の『王国放送』に参加できて、わたくし、本当に幸せですわ!」
フローラ王女は、目を輝かせながらアリアに話しかけた。
「国民の皆様が、わたくしの物語に耳を傾けてくださっているのだと思うと、胸がいっぱいになりますの。王宮での厳格な生活の中では、決して味わうことのできなかった喜びですわ」
王女の言葉は、偽りのない、心からのものだった。アリアも、王女が自分の「放送」にこれほど熱意を持って参加してくれていることに、心から感動していた。
「フローラ王女殿下が、そう仰ってくださって、私もとても嬉しいです。王女殿下の声は、とても優しくて、温かいから、きっとたくさんの人たちが、王女殿下の物語に心を癒されていると思います」
アリアが優しく答えると、フローラ王女は、はにかんだように微笑んだ。
「まあ、アリア様にそう言っていただけると、とても励みになりますわ。わたくし、次に語る物語のために、おじい様から、王宮に伝わる古い伝説について、いくつかお話を聞かせていただいたのですよ」
フローラ王女は、嬉しそうに、次の『夕焼け物語』の構想をアリアに語り始めた。王宮の歴史書には載っていない、先代の王から口伝された、小さな愛の物語。アリアは、その話に真剣に耳を傾けた。王女が、自分の放送のために、こんなにも熱心に準備をしていることに、改めて感銘を受けたのだ。
「王女殿下の物語、今からとても楽しみです」
アリアが言うと、フローラ王女は、さらに笑顔を深めた。
「そういえば、アリア様。貴女様の弟君は、お元気でいらっしゃいますか?わたくし、アリア様が弟君のために歌われるという子守唄、いつか聞いてみたいですわ」
フローラ王女は、アリアの家族のことも気遣う。アリアは、生まれたばかりの弟アルバスが、自分の歌声や「放送」の音色に、特に敏感に反応すること、そしてライナー先生がその現象について興味深い研究をしていることなどを、王女に話した。
二人の間には、王族と貴族という身分の隔たりは一切なく、ただ純粋な友情と、共通の情熱で結ばれた、温かい空気が流れていた。ライナー先生が、少し離れた場所からその様子を見守っていたが、彼らの間にある、その尊い絆に、深く心を打たれていた。
「フローラ様。アリア様」
呼びかけられた二人は、ライナー先生に目を向けた。
「貴女方の友情と、貴女方の声が、この王国全体に、真の希望の光をもたらすことでしょう。貴女方は、この世界の未来を創る、かけがえのない存在です」
ライナー先生の言葉に、フローラ王女とアリアは、顔を見合わせ、にこやかに微笑んだ。




