最後の賭け、酒場の奇跡
アリアの「宣伝費」のアイデアは、ライナー先生によってすぐに王宮の財務省に提言され、その画期的な発想は、王室の経済担当者たちにも大きな関心をもって受け止められた。王国の新たな公共インフラである「放送」が、自ら収益を生み出し、持続可能な運営を目指すという提案は、彼らにとって非常に魅力的なものだったからだ。
しかし、実際に「宣伝」という概念がこの世界に根付くかどうかは未知数だった。誰もが、その効果に半信半疑だった。
そんな中、王都の城下町で細々と営業している小さな酒場「酔いどれ亭」の店主、ゴードンは、頭を抱えていた。最近は客足が伸び悩み、店の経営は火の車。このままでは、長年家族で守ってきた店を畳むしかないかもしれない。ゴードンは、これが最後の賭けだと、ライナー先生を通じてアリアの「王国放送」への広告依頼を決意した。費用は決して安くなかったが、藁にもすがる思いだった。
「お昼の情報放送で、30秒の宣伝をお願いいたします。当店の自慢は、他所では味わえない、秘伝のレシピで作った『黄金エール』です。どうぞ、これを飲みに来てくださるよう、皆様にお伝えください」
ゴードンは、震える声でライナー先生に依頼した。
そして、運命の「お昼の情報放送」の日。アリアの研究室では、王宮の財務省からも担当者が訪れ、宣伝放送の様子を固唾を飲んで見守っていた。アリアは、お昼の情報放送の最後に、ゴードンの酒場の宣伝を、心を込めて読み上げた。
「……さて、本日最後にご紹介するのは、王都の城下町、西通りにある小さな酒場、『酔いどれ亭』でございます。店主自慢の『黄金エール』は、秘伝のレシピで醸造された、他所では味わえない絶品です。一日の疲れを癒す一杯を、ぜひ『酔いどれ亭』でお楽しみください」
アリアの優しい声は、王国の隅々にまで響き渡った。
その日の午後、ゴードンの酒場「酔いどれ亭」には、開店以来、見たこともないほどの客が押し寄せた。
「おい、店主!『黄金エール』をくれ!王国放送で聞いたぞ!」
「こんなに近くに、そんなに美味い酒場があったとはな!まったく知らなかったぜ!」
客たちは、口々に「王国放送で聞いた」と言いながら、次々と注文をした。ゴードンは、殺到する客に、一人で対応しきれず、慌てながらも、その顔には、信じられないといった驚きと、そして深い感動の涙が浮かんでいた。
(まさか……本当に、こんなにも客が来てくれるなんて……!)
売り上げが伸び悩み、閉店寸前だった酒場が、わずか30秒の宣伝で、一瞬にして活気を取り戻したのだ。それは、まさに奇跡と呼ぶべき出来事だった。
その夜、ゴードンは、王宮のライナー先生の元へと、感謝の言葉を伝えるため、酒場を閉めて駆けつけた。彼の顔は、喜びと感動で紅潮していた。
「ライナー先生!本当に、本当にありがとうございます!まさか、たった30秒の宣伝で、これほどの効果があるとは!私の酒場は、救われました!アリア様にも、心からの感謝をお伝えください!」
ゴードンは、深々と頭を下げた。彼の目には、感謝の涙が光っていた。
ライナー先生も、ゴードンの感動的な報告に、深く頷いた。王宮の財務省の担当者も、その報告を聞き、宣伝放送の経済効果の大きさに、驚きを隠せない。
「アリア様……貴女の『放送』は、人々の生活に情報と癒しをもたらすだけでなく、王国の経済活動をも活性化させる、計り知れない力を持っている」
ライナー先生は、改めてアリアの才能と、その「放送」が持つ社会的な影響力の大きさを認識した。アリアの「声」は、一介の酒場の運命を変え、王国全体の経済に、新たな希望の光を灯し始めたのである。これは、「放送」が王国の公共インフラとしてだけでなく、経済活動の新たな担い手となる、その確かな一歩だった。




