故郷に響く「生」の声、リンドバーグ家の再会
アリアが王都の貴族院へ入学して以来、リンドバーグ家では、午後四時の「家内放送」は、アリアが事前に録音したものがライナー先生によって流されていた。それはそれで心地よいものではあったが、やはりどこか物足りなさも感じさせていた。子供たちのいない静かな屋敷の中で、使用人たちは、遠く離れたアリアの身を案じつつも、その成長を喜び、日々の業務に励んでいた。
しかし、その日は違った。午前七時、王都から遠く離れたリンドバーグ家の屋敷にも、アリアの「王国放送」が、クリアに、そして力強く響き渡ったのだ。
「午前七時になりました。リンドバーグのアリアがお届けする、『王国放送』を開始いたします」
その声は、これまで流れていた録音されたアリアの声とは異なり、微かな息遣いや、語り口の抑揚、そして何よりも、その声に込められた「今、ここで話している」という確かな生命感が宿っていた。
控えの間にいた老メイドのマリアは、その声を聞いた瞬間、思わず持っていた雑巾を取り落とした。
「……アリア様!?アリア様の、生の声だわ!」
マリアの目に、温かい涙が浮かんだ。幼い頃からアリアの世話をしてきた彼女にとって、その声は、まるで遠く離れた孫娘が、すぐ隣で話しかけてくれているかのように感じられたのだ。
厨房では、料理人のグレゴリオが、朝食の準備で忙しく包丁を動かしていた。受信機から流れてきたアリアの声を聞いた瞬間、彼の動きはぴたりと止まった。
「おや……こいつは、生の声じゃないか。やるな、お嬢ちゃん」
ぶっきらぼうな口調ながらも、グレゴリオの表情には、優しい笑みが浮かんでいた。アリアが伝える、王都の新しいパン屋の情報には、彼も興味津々といった様子だ。
広間で掃除をしていた若メイドのエミーリアは、歓喜の声を上げた。
「アリア様だわ!アリア様の生の声が、また聞けるようになったのね!本当に、王国中に届いているんだわ!」
エミーリアは、感動のあまり、掃除道具を放り出し、受信機に駆け寄った。アリアが伝える、王都の出来事や、各地のニュースは、彼女にとって、遠く離れた王都との繋がりを感じさせる、何よりも心躍る情報だった。
庭師のフィンは、庭の手入れ中に、屋外に設置された受信機から聞こえてくるアリアの声に、静かに耳を傾けていた。彼の無口な表情にも、わずかに安堵と喜びの色が浮かんでいる。アリアが伝える森の天気予報や、野生動物の情報の変化は、彼にとって、日々の仕事に役立つ、貴重な情報だった。
アレクサンダーとエリザベスは、食堂で朝食をとっていた。食堂に置かれた受信機から流れてくるアリアの生の声を聞き、二人は顔を見合わせ、深く頷いた。
「アリアの声だわ……」
エリザベスの目に、温かい涙が滲んだ。娘が、王都という遠い場所から、こんなにもクリアに、そして力強く、自分たちの元に「声」を届けてくれている。その事実に、母としての誇りと、深い愛情を感じていた。
「うむ……やはり、生の声は違うな」
アレクサンダーの言葉には、感嘆と、そして娘の成長への喜びが込められていた。彼の脳裏には、かつて「落ちこぼれ」と決めつけていた娘の姿と、今、王国全体にその声を響かせている娘の姿が重なり合った。
リンドバーグ家の人々は、アリアの「王国放送」を通じて、再びアリアの「生の声」と「心」に触れることができた。それは、遠く離れていても、家族や大切な人との絆が、決して途切れることはないという、温かいメッセージだった。アリアの「希望の音色」は、王国の隅々にまで響き渡り、故郷リンドバーグ家の人々の心にも、確かな光と喜びをもたらしたのである。




