響く魔石、広がる声の糸
セレスティからの「媒介」というヒントは、アリアの思考に新たな扉を開いた。
これまで、自身の魔力だけで完結させようとしていた「声聞魔法」を、何か別のものを介して広げるという発想。
それは、前世の「ラジオ」が電波塔やアンテナを使っていたことと、無意識のうちに繋がり、アリアの胸を強く打った。
(魔力を流しやすい素材……? あるいは、魔力の流れを感知しやすい場所……)
アリアは、自室にこもり、昼夜を問わずノートにアイデアを書き連ねた。
ポルンは、そんなアリアの集中力に感化されるかのように、静かに見守っていたり、時にはアリアの肩でうたた寝をしたりしていた。
まずは、「魔力を流しやすい素材」について。
この世界には、様々な魔道具が存在する。
魔力結晶石は高価で魔力を貯蔵する用途が主であり、アリアの求める「増幅・伝達」とは少し違う。
しかし、もっと普遍的な、魔力を帯びやすい物質があるはずだ。
アリアは、図書室の隅に隠された、古い魔術書を読み漁った。
リンドバーグ家には、表向きは公開されていない、禁書に近い書物も少なからず存在していた。
それらはレオやセレスティのような優秀な魔術師でなければ触れることさえ許されないものだったが、アリアは夜中にこっそりと忍び込み、何とか持ち出しては自室で読み漁った。
ポルンは、アリアのそんな秘密の行動を、空から見守るかのように、部屋の窓から出入りしては、アリアの周りを飛び回った。
(アリア、ねむい? からだ、つかれる?)
ポルンの思念が届くたびに、アリアは顔を上げて微笑んだ。
「大丈夫だよ、ポルン。もう少し。この本の中に、きっとヒントがあるはずだから」
幾日も経ち、アリアの目は、無数の文字で埋め尽くされた古書の中で、ある一文に釘付けになった。
『古の時代、力の流れを司る者は、雷鳴石の共鳴を利用し、遠方の者へと想いを伝えたという……』
「雷鳴石……!」
アリアは、その言葉をノートに書き写した。
雷鳴石は、魔力の奔流が地脈と交差する場所で稀に発見される、強い魔力伝導性を持つとされる鉱石だ。
しかし、非常に希少で、めったにお目にかかれるものではない。
ましてや、その特性を解明している者も少ない。
(手に入らないなら、どうすれば……)
アリアは、がっくりと肩を落とした。
しかし、諦めるわけにはいかなかった。
セレスティのヒント、そしてポルンとの約束。
この「声」を届けるという夢は、彼女にとって生きる意味そのものだった。
「ポルン、雷鳴石って、どこにあるか知らない?」
思わず、ポルンに問いかけると、ポルンは首を傾げた。
(らいめいせき? ポルン、しらない。でも、ひかるいしなら、しってる!)
「光る石?」
(うん! よるになると、きらきら。いつもいる森の、もっとおく。たまに、とぶとき、みえる)
ポルンが言っているのは、森のさらに奥深く、魔獣が跋扈すると言われる領域のことだ。
普段アリアが行くような場所ではない。
だが、ポルンの言葉に、アリアの心臓が小さく高鳴った。
「ポルン、その場所まで、案内してくれる?」
(うん! アリアと、いっしょなら、こわくない!)
翌日、アリアはポルンを道案内に、森の奥深くへと足を踏み入れた。
魔獣の気配に怯えながら、慎重に進むアリアの頭上を、ポルンは時折旋回し、方角を示す。
そして、ポルンが示す場所にたどり着いたアリアは、息を呑んだ。
そこは、小さな泉のほとりだった。
泉の底からは、仄かに青白い光を放つ、いくつもの石が散らばっていた。
それは、雷鳴石というには少しばかり小さく、一般的な魔力結晶石とも違う、半透明の鉱石だった。
(これが、ポルンが言っていた「光る石」……?)
アリアは、そっと泉に手を伸ばし、一つの石を拾い上げた。
ひんやりとした感触。
そして、その石から、微弱ながらも確かな魔力の流れを感じ取った。
それは、まるで、魔力の「声」を吸い込み、そして反響させるような、不思議な特性を持っていた。
(もしかして、これ……!)
アリアは、その石を耳元に当て、ごく微量の魔力を乗せた「声聞魔法」を試した。
「……聞こえますか……」
すると、石が微かに震え、アリアの声が、拾い上げた時よりもわずかに大きく、澄んだ響きを伴って、周囲に拡散されるような感覚があった。
それは、特定の誰かに届くというよりは、薄く広く、しかし確実に「広がっていく」感覚だった。
「ポルン!」
アリアは、興奮してポルンを呼んだ。
(アリア、すごい! おとが、ひろがる!)
ポルンも、アリアの魔法の拡散を敏感に感じ取っているようだった。
これは、「雷鳴石」ではないかもしれない。
けれど、この石は、アリアの微細な魔力を「増幅」し、そして「拡散」させる効果がある!
アリアは、いくつもの「光る石」を拾い集めた。
それは、まさに、彼女が「声」を遠くまで届けるための、「媒介」となる可能性を秘めた、希望の石だった。
帰路の途中、アリアの心は期待に満ちていた。
この石を使えば、きっと、あの「ラジオ」を実現できるかも。
多くの人々に、自分の「声」を届けられる日が来るはずだ。
ポルンは、そんなアリアの興奮を共有するかのように、頭上で楽しそうに旋回していた。
アリアは、この「光る石」を「響鳴石」と名付けた。
これは、彼女の放送への道のりの、確かな第一歩となるのだった。




