空に架かる声、希望の幕開け
アリアの「放送」を王国全体に届けるための壮大な計画は、王宮の承認を得て以来、驚くべき速さで実現へと向かっていた。王国全土に点在する魔力波塔の建築は、次々と完成を迎え、主要な中継局の設置も着々と進められていた。王都のグリフィン工房では、アリアが考案した小型ラジオ受信機の量産が急ピッチで進められ、ライナー先生の提言により、病院や役所といった公共の場所への無償配布も決定された。王国全体が、アリアの「声」がもたらす新たな時代を、心待ちにしていた。
アリアは、貴族院の宿舎にある自身の部屋で、最終調整を兼ねたリハーサルを行っていた。壁に並んだ黒板には、鳥たちから得た最新の情報が色分けして書き込まれ、放送の時間割が大きく表示されている。部屋の片隅にそびえ立つ魔力波塔のミニチュア版は、今や王国の通信網の象徴となっていた。
ライナー先生と研究室のメンバー、そして王宮から派遣された魔導技師たちが、最終的な魔力波長の調整や、受信機の感度テストに追われている。皆の顔には、期待と、そして歴史的な瞬間に立ち会う者としての緊張感が浮かんでいた。
「アリア様。最終テストは順調です。全ての魔力波塔が、貴女の声を受信し、増幅する準備を整えました。王国全土に、貴女の『放送』を届けることができます」
ライナー先生の言葉に、アリアは深く頷いた。彼女の心臓は、高鳴りを抑えきれない。
(もうすぐ……私の声が、王国中に届くんだ……!)
アリアは、自身の「声聞魔法」が、こんなにも大きな力を持つことになるとは、夢にも思っていなかった。幼い頃のコンプレックス、そして「落ちこぼれ」と蔑まれてきた日々が、今、王国全体の希望へと変わろうとしている。
そして、ついにその日が来た。王国の歴史に新たな一ページが刻まれる、最初の「放送」の日。
午前六時五十八分。アリアは、貴族院の宿舎にある自身の部屋で、特別な送信機の前に座っていた。部屋には、ライナー先生と、研究室のメンバー、そして国王陛下からの命を受け、この歴史的瞬間を見届けるために訪れた数名の王宮関係者が、固唾を飲んで見守っていた。ポルンは、アリアの肩に止まり、その頬に頭を擦りつけ、励ますように小さく鳴いた。
アリアは、ゆっくりと目を閉じ、深呼吸をした。心の中には、故郷リンドバーグ家で待つ両親、王都で学ぶ姉と兄、そして遠く離れた王宮にいるフローラ王女、そして、まだ見ぬ新しい弟か妹の顔が、次々と浮かんでくる。そして、王国中の、まだ見ぬ多くの人々の顔も。
午前六時五十九分。ライナー先生が、最終の合図を送った。
アリアは、そっと目を開け、送信機に向かって、自身の「声聞魔法」を込めた声を、優しく、しかし力強く響かせた。
「夜の帳が静かに明け、朝ぼらけの光が世界を包み込む。
遠い丘の向こうに、新しい一日の息吹が芽生え、
名もなき花が、そっと露を宿すこの朝に。
心に希望を抱き、新たな歩みを始める、
王国全ての尊き人々へ、この声が届かんことを。」
アリアの詩的な声が、魔力波塔を通じて、王都の空へ、そして王国全土へと、優しい波紋を広げていく。
そして、詩を読み終えると、アリアは一呼吸置き、澄んだ声で告げた。
「午前七時になりました。リンドバーグのアリアがお届けする、『王国放送』を開始いたします」
その瞬間、王国全土に設置された魔力波塔と中継局から、アリアの「声」が、クリアに、そして力強く響き渡った。
王都の城下町では、早朝から働く商人たちが、店の軒先で耳にしたアリアの声に、驚きと期待の表情を浮かべた。辺境の村々では、目覚めたばかりの村人たちが、役場の受信機から聞こえてくる優しい声に、戸惑いつつも、耳を傾けた。貴族院では、フローラ王女が、自室の受信機から聞こえてくるアリアの声に、満面の笑顔を浮かべ、虹色の響鳴石を胸に抱きしめていた。




