9.発見しました
団長とフクロウの声を辿る。異世界を感じる石畳の街並みを先ほどとは違う緊張感で慎重に歩く。
「助けて……いたいの、やだよ……」
少しずつ声が聞きやすくなっているから近づいているはず。声を頼りにして、ある赤レンガ造りの建物の床下に付いた小さな通気口から声が聞こえることがわかった。
「団長、ここから聞こえてきます」
「シュエット薬屋か」
団長が建物を見渡し呟いた。シュエット薬屋は最近オウル王国に進出してきた隣国の薬屋で、効果が高く人気のある店だと教えてもらう。そう言われれば、なんとなく通気口からハーブみたいな独特の薬っぽい草の匂いがする。たぶん。
「団長! 今すぐフクロウを助けましょう!」
「少し落ち着け」
「何言ってるんですか? フクロウが助けを呼んでるんですよ……っ!」
興奮して大きな声を上げた途端、団長に腕を引っ張られた。ぼすん、と鼻先に布の感触がぶつかる。
「っ!? なっ、なっ……?」
目の前に胸板しかない。背の高い団長に抱きしめられている状況が意味不明すぎて、言葉にならない声をあげる。
「騒ぐな。ヒナタがフクロウの言葉が分かるのは、ごく一部の者しか知らない。フクロウが助けを求めてると言っても確証がない」
「そんな! で、でも、声が……今だって助けを求めてるんですよ……!」
「ヒナタの言葉を疑っているわけではない。ただ確証もなく店に押し入って捜索するわけにはいかない。それは分かるだろう?」
団長の低い声が、耳元でゆっくり言葉を落とす。
「うう、はい……。でも、……っ」
落ち着け、というように背中をぽんぽんと叩かれて、あやされる。口をつむいだけれど、やっぱり納得できなくて目の前の洋服をぎゅっと握ってしまう。
「ううっ、でも、それじゃあ助けられないってことですか……?」
「フクロウ騎士団長として、その選択肢もないな。ここにフクロウの言葉がわかる相棒がいれば、店を確認するくらいは問題ないだろうな」
「っ! フードル……!」
「ああ、そうだ」
パッと顔を上げると、団長が大きくうなずく。
「店を出る時に、オリバーに伝言を出しておいた。ミミーがフードルに伝えに飛んでいるはずだから、そろそろ来る頃だろう。フクロウ騎士団が相棒フクロウと意思疎通できることを知らない者は、オウル王国にも隣国にもいないからな」
いつの間にそんなことをしていたんだろう。口の端を上げた団長は凶悪な鬼みたいなのに、味方だとこんなに心強いなんて。すごい、団長。そんな私を見た団長がもう一度うなずき、私から離れて片腕を伸ばした。
「来たぞ」
すう、と無音でフードルが団長の腕に止まった。流石『森の忍者』と呼ばれることもあるフクロウ。大きな羽を動かしてるのに本当に無音で気配すらしなかった。フードル格好いい……!
『ルーカス、待たせたな。ミミーももうすぐ着くと思う』
「いや、早くて助かった。この薬屋に入るから頼む」
『うむ、任せておけ。我の仲間を傷つけるなど許せぬからな』
二人が会話するのを聞き、私も腕をまくる。
「うん、私も一緒にいく……っ!」
「「駄目だ」」
フードルと団長に即座に否定されて目をぱちくりさせた。
「な、なんでですか……? 私だってフクロウを助けたいです」
「ヒナタは足手まといになるだけだ」
「っ……」
団長にハッキリ告げられてしまえば言い返すことができない。それはそうかも知れないけど、私だって役に立つかもしれないのに。
眉間にシワを寄せてしまったら、フードルが団長の腕から飛んできて私の肩に止まり、頬ずりをする。
「ヒナタ、必ず同胞を助けると約束しよう。ここは我とルーカスに任せてほしい。我とルーカスでは頼りないか?」
上目遣いで見つめられる。イケメンなのに小首を傾げて見てくるなんて反則。私がこのイケメンかつ可愛い表情に弱いって分かってて絶対にやってる! 確信犯でしょう、もう、このイケフクロウめ……好き!
「ううん、そんなわけない。フードル、フクロウの子をお願いね」
「うむ。いい子だ、ヒナタ」
とんでもなく優しく鼻を甘噛みされる。どうしよう、こんな時なのに、フードルのイケメンさに胸がきゅんとして胸を手で押さえた。心臓が飛び出るところだったよ。
「ヒナタ」
「はっ、はい……っ!」
惚けた心に鬼の声。抜群のクールダウンをありがとうございます、団長。ピッと背筋を伸ばして団長に視線を向けた。
「ミミーがまもなく到着する。合流したら先ほどの店に戻り、店主に俺の名前を出して、迎えの馬車を寄越してもらえ」
「はい、わかりました」
『ルーカス、行くぞ』
団長とフードルがシュエット薬屋に入ってすぐにミミーが飛んできた。団長に言われた通りに行動して馬車が出発してから、ドカンっと地面を揺らすような大きな衝撃が走る。
「ひゃあ……っ!」
『ヒナタ、あれを見て』
ミミーの頭の羽角がピンと立つ。馬車の窓から見えたのは、シュエット薬屋から黒煙が上がっている様子。きっと今の大きな揺れの原因だろう。
「ええっ!? ミミー、フードルと団長は大丈夫かな?」
『壊している張本人とフクロウだから平気だと思うわよ。雷魔法は物騒なんだから、水魔法で顔を覆って拷問しちゃえばよかったのに。オリバーなら絶対建物を壊さないのに、まったく大雑把なんだから」
「はは……はっ」
話している間にも同じ衝撃が繰り返される。馬車が進み、シュエット薬屋が見えなくなる直前、煉瓦造りの壁が崩れ落ちたのが見えた。鬼だと思ってたけど、もしかして魔王だったりする……?
私がいたら本当に足手まといになっただろうなと思うと、乾いた笑いしか出てこなかった。
読んでいただき、ありがとうございます♪
ストックがなくなりました;( ;´꒳`;):頑張ります……!
ここまでが第一章(次話に顛末は書きますけどね)
次は第二章『聖なる星の降る夜に』に進みます♩
引き続き応援してもらえたら嬉しいです!












