8.王都に出掛けました
団長と二人きりで王都で買い物なんて息が詰まりそうだなあと思っていたけれど、初めて乗る馬車からワクワクが止まらない。さらに王都の中心部に到着したら──
「だ、団長! フクロウグッズがあります! かわいい! えっ、待って、あそこにもこっちにもフクロウの置物や飾りがありますよ! えっ、ええっ、すごいです!」
「ヒナタ、落ち着け」
「む、無理です! こんなにフクロウがあるなんて落ち着けません……っ!」
さすがホワイト君の国だよ、オウル王国のフクロウ推し恐るべし。日本にもフクロウグッズはあったけど、フクロウフェアに来たみたいなフクロウ尽くしにテンションが上がりっぱなしになった。
ホワイト君が異世界の視察をするおかげなのか、オウル王国は少しレトロなヨーロッパみたいな生活水準で、不便がない。大きな違いといえば、電気ではなく魔力が動力であることや、車の代わりに馬車を使う。魔法があるから科学とは違う発展の仕方をしているのだと思う。私は数学も科学も苦手な文系なので、その辺りは詳しくわからないけどね。
「次はこの店だ。ヒナタ、見てこい」
「はっ、はいいい……っ!」
フクロウグッズを目にする度に、ふらふら吸い寄せられそうになる私の首根っこを掴み、日用品を売る店に放り込んでいく団長。うう、確かに日用品が欲しいって言ったけど、フクロウのグッズが見たいよ〜〜!
異世界からやってきた私のような『流れ人』にはオウル王国から支援金が出るらしく、お金の入った財布を団長から渡されている。お給料をもらう前に色々買えるなんて有り難い制度だと思う。ちなみに物価は日本と同じくらいで、単位は円ではなくて『ロウ』だった。フクロウのロウ、うん、秒で覚えた。
「大体買えたな。他に必要なものはあるか?」
「いっ、癒しになるものがほしいです……っ!」
「癒し?」
なんだそれは? というように眉を寄せる団長にひえええ、恐ろしや〜と思うけど、フクロウグッズを買わないで帰るなんてありえない。
「そ、そうです! 団長はフードルに仕事が終わった後にも会えるけど、私はフードルにも三匹にも会えないんですよ! フクロウグッズを買って、自室に戻ってもフクロウを感じたいんです。癒されたいんです……っ!」
「なるほど、そうだな」
団長の眉間のシワが和らぐのを見て、イケると踏んだ私はフクロウの素晴らしさについて切々と説いた。主にフードルの格好良さと素晴らしさと可愛さについて。
「わかったから落ち着け、ヒナタ。今からフクロウの商品を販売している店に連れて行くから、そこで好きなものを買え」
「ええっ、本当ですか?!」
「ああ」
うきうきしながら団長について行く。女性もひとりで歩いているので治安はよさそう。今度お給料をもらったら散策してみるのもいいなあと思っていると、お店についていた。店内に入るとそこはフクロウパラダイス。
「だ、だ、団長! ど、ど、どうしましょう……?」
「なんだ。どうした?」
感激に打ち震える私は団長の洋服の裾をぎゅううと掴んだ。震えが止まらないし、動悸と息切れがする。団長を見上げて救いを求めた。
「フクロウが可愛すぎて、全部欲しいです……選べそうにありません……っ」
「選べないなら、帰るぞ」
「そ、そんな……っ! ちゃんと選びます!」
「そうしてくれ」
団長なら本当に帰りかねないと即座に判断した私は真剣に店内を物色する。お財布のお金はそれなりに残っているけれど、あんまり無駄遣いするのはよくない。日常生活でも使えて、尚且つ私を癒してくれるものに絞っていく。
「……けて」
折角ならフードルか三匹に似てるものがいいよなあ、と選んでいたら声が聞こえて顔を上げた。
小さな声が聞こえたような気がするけど、周りを見渡しても話しかけてきた人はいなそう。オウル王国の知り合いはフクロウ騎士団の人だけなので、気のせいかと思い直したのに、やっぱり声が聞こえる。
「……た、すけて」
「えっ」
「なんだ、今度はどうした?」
「えっ?」
驚いて顔を上げれば、カゴいっぱいにフクロウグッズを詰め込んだ団長と目が合った。いやいや、どうした? は私の台詞ですよ。旅先のお土産買う人もここまでカゴを山盛りにしないような気がする。
「えっ!!」
「だから、ヒナタどうした?」
「ちょ、えっ、これ、すごくフードル! えっ、すごいびっくりするくらいフードルにそっくりですね! 私も同じ物が欲しいです。どこにありましたか??」
団長のカゴに入っていた木にとまるフードル柄のマグカップを指差した。ちなみに団長はマグカップだけで三個も入れてるし、カゴを見たら全部フードル柄の物ばかり。ずるい。
「これは一点ものだから、もうないな」
「えええ……そんなあ……」
あまりに非情な宣告に肩を落とした途端に、また声が聞こえた。
「助けて……」
「あ、あの、団長……」
「これは俺のだからやらんぞ。他の柄のマグカップも色々あったから見てみたらいいだろう」
「いえ、あのマグカップじゃなくて、先ほどから助けてって声が聞こえてる気がして……団長は聞こえてませんか?」
団長の顔が一気に引き締まる。
「俺はなにも聞こえていないが……フクロウか?」
「っ!」
私はもう一度耳を澄ます。フクロウの声なら私にしか聞こえてない。
「……助けて、助けて……いたい、助けて」
弱々しいけど小さな声が助けを読んでいる。下から聞こえるような気がするけど、よく分からなくて耳に手をあてて声のする方向に歩いていく。
団長も黙って一緒についてきてくれた──