4.異世界に鬼がいました
「ひっ……! な、なんでルーカス団長がいるんですか?」
「早く終わったからだ」
背の高いルーカス団長に上から見下ろされると圧が凄くて、めちゃくちゃ怖いんですけど?! フクロウみたいに音がしなくて気付かなかったけど、いつの間に来たんだろう? どうせ来るならフードルがよかったよぉ。
「さっきから手が全く動いてないな。早く捌いてやらないと、あいつら腹空かせて暴れ始めるぞ──何でもやるんだろう? それともフクロウが大好きと言うのは嘘だったのか?」
フッと鼻で笑ったルーカス団長をキッと睨む。
「嘘じゃありません!」
「別に無理しなくてもいい。マウスが捌けないなら他所の部署でフクロウとまったく関係ない仕事を見つけてやるから、心配するな」
「へっ? で、できます! 初めて見たからちょっと驚いただけで、マウスもヒヨコもウズラも捌けますから!!」
なんてこと! なんてことなの?! あんな可愛いフクロウの赤ちゃんのお世話係を外そうとしてくるなんて、信じられない。
「そうか。それなら問題ないな」
やれるもんならやってみろみたいな顔で見られて、完全に頭にきた。
大丈夫、これはみんなのご飯だし、オリバー副団長の捌いたマウスはもう肉にしか見えない。それに、扉の向こうからお腹空いたとピーッピーッビィーッビィーッと鳴く声が聞こえてくる。大丈夫、これはマウスじゃなくて肉。
マウスを捌いて、赤ちゃんフクロウのお世話係に私はなる──!
「おいちい〜!」
「もっともっとちょうだい」
「ん〜おいしいの」
ピンセットで肉をつまんで口元に運ぶとぱくぱく嬉しそうに食べていく。みんなのニコニコ顔を見ていると、マウスを捌くことなんて大したことないって思えないこともないような気もする。
ルーカス団長がこれも捌け、あれも捌けってヒヨコとウズラの他に大きなマウスも持ってきて白目を剥いた。異世界には鬼がいます。
「なんだ?」
チラッと窺っただけなのに、すぐに気づかれて肩が跳ねた。鬼だなんて思ってません。
「い、いえ……なんでもありません」
「そうか。明日からもしっかり捌いてくれ」
やっぱり鬼でした。
鬼から速攻で視線を晒して、日光浴をして目がとろんと眠たそうな赤ちゃんフクロウを見つめる。ああ、癒される。本当に可愛い。異世界の鬼団長に言われたからじゃなくて、私はこの子たちの為にがんばるからね──!
翌朝、やる気満々でフクロウ舎の扉をひらいた。言われていた時間より早く着いたけど、新人は早く着いて丁度いいからね。
「……う、そ……死んで、る…………?」
メンとホーリーとワッシの三匹が、うつ伏せで死んでいる。目の前の光景が信じられなくて、信じたくなくて、頭が真っ白になった。
「うそ、なんで……? うそだよね……?」
ぴくりとも動かない三匹に目の前がにじむ。どうしよう、昨日まであんなに元気だったのに、何かの病気? 食中毒の可能性もあるよね。オリバー副団長もサルモネラ菌がどうのこうの言っていたし、私が捌くのにモタモタしていたから雑菌が繁殖したかもしれない。
「ど、どうしよう」
まずルーカス団長に報告して、いや、先に三匹の状態を確認した方がいいのかな? 触らない方がいいのか判断ができない。私、フクロウが好きなだけで、フクロウのこと何にも知らない──…
「ヒナタ、どうしたのだ?」
「フ、フードル、メンとホーリーとワッシが死んでるの……」
音もなく突然現れたフードルに今の状況を話すと、三匹に視線を向けた。
「ヒナタ、心配するな。三匹は死んでおらぬぞ」
「えっ?」
「幼いフクロウは、頭が重すぎて体重を支えきれぬ。ああやって、うつ伏せになって寝るのだ」
「へ? 酔っ払いが行き倒れたみたいに寝るのが赤ちゃんフクロウの普通なの……? フードル、本当に本当?!」
「むむ、我は嘘などつかぬぞ」
ちょっと拗ねたようなフードルを見て、思わず笑ってしまうと、抗議するみたいに指を甘噛みされた。
「フードル、教えてくれたのに笑って、ごめんね」
「うむ。死んだと思っても泣きじゃくった者もいたからな。気にするでない」
「うん、ありがとう」
フードルの言葉に安心した。私もフードルがいなかったら絶対泣いていたから。ありがとうの気持ちを込めて撫でると頭でスリスリされた。もう、大きいのに甘えてくるとか可愛すぎだからね!
「──うむ、泣きじゃくった者もヒナタが心配で来たみたいだな」
誰だろうと思って振り返って、扉から入ってくる人を見て固まった。
「えっ、ルーカス団長が泣きじゃくったの? 本当に?!」
「むむむ。我は嘘などつかぬと言ったであろう」
「ううう、そうなんだけど……想像ができないというか、できないの……っ!」
「幼き頃のルーカスは、泣き虫だったからな」
小声でフードルに話しかける。全然想像ができなくて、近づいてくるルーカス団長の顔をじろじろ遠慮なく見つめてしまった。ルーカス団長にも可愛いところがあったなんて、にやにやしちゃう。
「なんだ?」
「い、いえ……ちょっと意外だなと思っただけです」
眉を寄せるルーカス団長が泣くところなんて本当に想像がつかない。ルーカス少年可愛かったのに、可愛さはどこに旅立ったんだろう?
「なにがだ?」
「あわわわ、な、なんでもありません」
慌てて首を振って否定していると、朝を告げる目覚まし音がフクロウ舎に鳴り響いた。よかった、目覚まし時計ありがとう。
フクロウといえば夜行性が多いけど、フクロウ騎士団のフクロウは相棒騎士と行動を共にできるように生活リズムを整えていると聞いていた。
「ん〜朝なの?」
「……おは、よう……」
「もうちょっと眠りたいの……」
行き倒れて寝ていた赤ちゃんフクロウ達がもぞりと起き上がった。本当に生きてた……よかった。三匹の元気な姿に感動していたのに、気づいたらルーカス団長に解凍マウスたちを山盛りに積まれていて。
「今日も張り切って捌けよ」
「は、はいいいぃぃぃ!」
もおお、やっぱりルーカス団長は鬼でした──!
読んでいただき、ありがとうございます♪
フクロウの雛の寝ている画像を検索してみてほしい( *´艸`)
衝撃映像なのに笑っちゃうと思いますꉂ꒰笑꒱