3.赤ちゃんフクロウに会いに行きました
流れ人の報告をするルーカス団長と別れ、オリバー副団長とフクロウ舎に向かった。
「ヒナタに頼みたいのは、赤ちゃんフクロウの世話なんだ」
「赤ちゃん……っ」
フクロウだけでも心が踊るのに、赤ちゃんというパワーワードが付くなんて、なんてこと?! ときめきすぎてクラクラする。ふうう、と爆発しそうなくらいに溜まりすぎたときめきを吐き出した。
「今は、フクロウ騎士たちが交代で赤ちゃんの世話をしてるから、専任で任せられる人を探してたんだよね」
「赤ちゃんのお世話ができるなんて嬉しいです……っ」
あ〜、と困ったようにオリバー副団長が眉を下げる。
「ごめん、まだ決まったわけじゃ無いんだ」
「え?」
「赤ちゃんフクロウはストレスに弱くて世話を嫌がる場合も多くてね。ヒナタにお願いするかどうかは、今からフクロウ達に決めてもらうつもりなんだ」
うう、可愛い赤ちゃんフクロウたちに嫌われたら落ち込んじゃうよ。もふもふの加護があるから大丈夫だって思うけど、保証があるわけじゃないし。それに気になっていることもあって。
「あの、オリバー副団長。私、フクロウのことは大好きなんですけど、飼ったことはなくて……お世話の仕方が全然わからないんです」
「フクロウ達に選ばれたら教えるから心配しなくていいよ。さあ、着いた」
扉を開けられてフクロウ舎の赤ちゃん部屋に入ると、もふもふ。ひなた・ミーツ・三匹のもふもふ。
「ねえねえ、だあれ? いっしょにあそべる?」
「あっ、おりばーだ。おなかすいたー」
「おなかすいたのーぺこぺこなのー」
オリバー副団長が近づくともっふもふな赤ちゃん達がワタワタ寄ってくる。
「〜〜〜っっ!」
成鳥のフクロウも可愛いけど、もっふもふのふわふわの赤ちゃんの可愛さに胸を撃ち抜かれる。異世界は、可愛いで私をきゅん死にさせようとするのをやめてほしい。
「みんな、今日からご飯を用意してくれる予定のヒナタだよ。ヒナタ、メンとホーリーとワッシだよ」
オリバー副団長の言葉に白いほわほわ、灰色のもふもふ、茶色のふわふわ三匹がくりくりの瞳で私を見ている。これは、きゅんです。
「か、か、かわ、可愛い……っ」
「そうだね、完全同意しかないよ」
「あ、あの、この可愛い子達は、何フクロウなんですか?」
白いふわふわをオリバー副団長の指でこしょこしょしてる。わ、私もそれ、やりたい。
「メンはメンフクロウの男の子だよ。今は真っ白だけど、もう少し大きくなると顔にハート型の模様が出てくるんだ」
「はあ、ハートなんて百パーセント最高ですね」
「百パーセント間違いないね」
うんうん、頷きながらオリバー副団長の手が灰色のもふもふに伸びる。足がちょっと長いからワタワタ動き回るのが素早い。
「ホーリーは女の子で、アナホリフクロウになる。ホーリーは足が長いでしょ? アナホリフクロウは大きくなっても地面を走るんだよね、それなのに空中で停止するように飛べるようになる」
「陸と空の二刀流ってめっちゃ格好いいですね」
「ホバリングは何度見ても痺れるよ」
羽ばたきながら空中で停止するのはホバリングと言うらしい。ホーリーがホバリングするところ見てみたいな、お世話係になれたら見れるかな。
「ワッシはワシミミズクの男の子ね。大型フクロウだから三匹の中で一番大きくなるな。ワッシはとにかく食いしん坊だな」
「食いしん坊キャラ、可愛い……っ」
夢中で話していたら視線を感じた。はわわ、三匹にきゅるんと大きな瞳で見つめられています。おかわりきゅんです。
「メン、ホーリー、ワッシ。初めましてヒナタです。みんなのご飯やお世話をこれからしてもいいかな?」
こてりと首を傾げた三匹と見つめ合うこと三十秒、口をぱくぱくさせはじめた。
「ひなたーおなかすいたー」
「おなかすいたー」
「すいたーひなたーはやくー」
オリバー副団長に「合格みたいだね」とにっこり笑いかけられる。よかったあ、嬉しい。安堵と喜びが身体中を駆けめぐっていく。
「ありがとう。もう、みんなもふもふすぎて、可愛すぎるから……っ」
ワタワタ私のところに集まってくれるのに感激。もふもふな三匹を指でこしょこしょ撫でてから、オリバー副団長に調理場に案内してもらった。
「基本は一日二回、朝と晩にマウスとヒヨコとウズラを与えているよ。前日に使う分だけ解凍させて、食べやすいように一口サイズにカットするだけ。簡単でしょ?」
「はい、それなら出来そうで安心しました」
「よかった。注意するのは、ヒヨコとウズラはサルモネラ菌を持っててお腹を壊しやすいから、マウスを多めにするくらいかな。初めの内は配合の指示もするから大丈夫」
説明が終わると、オリバー副団長が巨大な冷蔵庫からネズミ、ヒヨコ、ウズラを取り出して目の前に置いた。
「っ〜〜!!」
ネズミもヒヨコもウズラもそのまんまな姿で、声にならない悲鳴が漏れた。フクロウカフェの餌やり体験したときも餌はすでにカット済みの肉だったから、リアルな姿で出てくるなんて想像もしてなかった。
「じゃあ見ててね、次にやってもらうから」
どうしよう、オリバー副団長がハサミでちょきちょきと切り刻むのを薄目でしか見れない。
うう、控えめに言っても絵面がとんでもなくグロい。マウスの首をアレして……ヒヨコの身をソレして……ウズラの毛をコレして……えっ、今から私もやるの?
「あ、あっ、あの……これって切れてるものはないんですか?」
「うん、ない。切れてるのは雑菌が付きやすいし、栄養価が落ちるからフクロウ騎士団には置いてないよ。やっぱり捌き立てが一番新鮮で美味しいからね」
「そ、そうなんですね……」
どうしよう終わった。ダメ元で聞いたけどダメだとわかったところに追い討ちがかかる。
「じゃあ、ヒナタもやってみて。初めてならマウスがやりやすいかな」
「は、はいいぃ……っ」
オリバー副団長からハサミを受け取った。ずっしり重たいハサミと解凍されているマウス。ひなた・ミーツ・解凍マウスは望んでないんだよお。
うう、どうしよう、どうしよう、こんな見た目がまんまなマウスなんてハサミで切れないし、それ以前にマウスを触るのにも抵抗しかない。息を深く吸って大きく吐いて、いざ出陣と思っても手がまったく動かない。どうしよう、どうしよう、どうすればいい?
「いつになったら始めるんだ」
いきなり後ろから掛けられた低い声に心臓が飛び跳ねた。恐る恐る振り返ると眉を寄せたルーカス団長が腕組みして立っていた。