16.考えてはダメでした
ワッシの相棒候補は、騎士団に入団したばかりのマックス。突然ワッシに相棒候補がいると告げられた後は、団長のところに慌てて戻り、当然大騒ぎになった。
「えええっ! マックスの実家はマジックミートなの?」
「そうなんです──いつもご購入ありがとうございます」
マジックミートは、フクロウ騎士団で使用するひよこやウズラを仕入れているお店。うちの可愛いフクロウたちはマジックミートのお肉が大好きだ。マジックミートと繋がりのある人を相棒に選ぶなんて、流石食いしん坊のワッシと感心してしまう。
「相棒になる為の訓練は順調なの?」
「そうっすね、相棒になれるのはもう少しかかりそうです。まだ、基礎の基礎の体力作りからなので……でも、オレ、ワッシの相棒になりたいんで頑張ります!」
「応援してる、頑張ってね!」
「うっす、ありがとうございます!!」
ニカっと笑うマックスは、ワッシと同じで身体も大きくて性格も大らかだ。人懐っこいマックスは十六歳で、茶色の瞳と髪なのも相まって、大型犬と話している気持ちになる。
マックスは騎士団に入団してすぐにワッシの相棒候補に選ばれたので、一応所属は騎士団。だけど、実際のところフクロウ騎士団にずっといるのでフクロウ騎士団員な感覚になってしまう。
マックスは、朝の訓練が終わるとワッシに会いに来る。
「ワッシ〜、今日はウズラにする?」
マックスがフクロウ舎に顔を出すとワッシが嬉しそうに飛んでいき肩に止まる。身体の大きなマックスとワッシはすごくお似合いだと思う。
「オッケー、じゃあ待ってて。ヒナタさん、調理場借ります」
「うん、気をつけてね」
マジックミートの次男として生まれたマックスは、冷凍ウズラを捌くのも手早い。流石プロ。いや、元プロかな。
「流石マックス、捌くの上手だね」
「まあ肉屋の息子なんで、大体の肉なら捌けますね」
「うう、尊敬する……私、薄目で捌いちゃう……っ」
「なにごとも慣れっす、ヒナタさん」
テキパキ捌いて後片付けまで終えると、マックスがワッシにウズラを与えている。メンは慎重派だからフクロウ舎にマックスがいると隠れているか、お出かけしてしまう。フクロウ毎に性格があるなあとしみじみ思う。どの子も個性的で、どの子も可愛い。
「ワッシ、旨い?」
「ん〜美味しい〜!」
「オレと相棒になったらマジックミートのひよこ養鶏場に連れていくからな。ワッシなら絶対気にいると思うぜ」
「ひよこ養鶏場ってなに〜?」
マックスはワッシの言葉がわからないはずなのに、完全に会話になっているのがすごい。最後のワッシの質問は流石にわからないかなと思って、通訳しようとした途端。
「ああ! ひよこ養鶏場ってわかんないよな──オレの家、ひよこを沢山育ててるんだ。ワッシ、ひよこ好きだから遊びに来たら食べ放題だぞ」
「え〜すごいすごい〜! 早く行きたい〜」
ワッシがひよこ食べ放題という言葉に興奮して羽根をパタパタ動かした。嬉しすぎて、羽根に空気がふわりとはらんで大きくなっている。うん、食いしん坊ってかわいい。
まあ、ひよこ食べ放題というパワーワードは、聞かなかったことにしておこう──うん、深く考えたらダメなやつだと思う。
「おっ、やっぱりワッシも行ってみたいか! そうかそうか、マジックミートのひよこ養鶏場はな、水と空気のきれいなところなんだ! 早く相棒になれるように、オレ頑張るな」
「うん〜! 頑張ってね〜」
夢を語るマックスと、にこにこしたワッシ──私も応援します!
◇
それから半月が過ぎて、マックスとワッシの相棒契約を一週間後に控えている。マックスはまだまだ訓練が必要だけど、やる気と体力と人柄が花丸なので相棒契約をして一緒に鍛える予定らしい。
マジックミートはウズラ飼育場もあるとマックスから聞いたワッシ。ウズラ食べ放題もすると嬉しそうに話していた──うん、これも想像したらダメなやつ。ワタシナニモキイテナイ……!
それにしても、マックスとワッシは本当に気が合うみたいで、会話できないのに会話が通じていて微笑ましい。マックスは可愛い弟みたいなので、応援したくなっちゃう。早く、相棒契約できるといいなあと思っている。
団長が会議に出かけている間、団長室で書類整理を黙々とこなす。もちろんお供はフードルマグカップ。はあ、今日も格好いい。好き。
……コツ……
控えめな音が窓から聞こえて、視線を向けるとメンが止まっている。メンが団長室に来るのは珍しくて、急いで駆け寄った。すっかり大きくなったメンフクロウのメン。顔や胸部は白なんだけど、頭部や翼部分を中心に、茶色にまだら模様が入っている。
メンフクロウはフクロウの中でもとっても個性的な見た目をしているけど、最大の特徴の顔にハート型があるのがとびきり可愛い。
キュンですってメンの為にある言葉なんじゃないかなって思っちゃう。キュンです、メン!
「メンが団長室に来るの珍しいね。どうしたの?」
「うう……っ、ヒナタ、ごめん……。メン、ヒナタに会えなくなるかも……?」
「えっ……!? メン、ど、どういうことなの……?」
「ふえーん……っ、ヒナタに会えなくなるのはイヤだよぉ……っ」
泣き出したメンの体がどんどん細くなっていく。
フクロウは、敵から身を守るために羽根をすぼめて細くなって、枝や木に擬態してやり過ごす。でも、メンが今までで見た中で一番細くなってしまったので、私も動揺してしまう。
敵だけではなく、びっくりしたり、驚いたりするときも細くなるんだけど──メン、どうしたの?!?!?!
本日も読んでいただき、ありがとうございます♪