14.相棒契約
ホーリーとナッツがリーナとセリナを見つめる。二人は二羽にゆっくり額を合わせた。
「「心を通わせ、共に生きる永遠の絆を誓います」」
相棒契約のための誓いの言葉を二人が唱えた途端、光がぶわりとあふれる。キラキラとした光の粒子がそれぞれのペアを包み込み淡く消えていく様子は、見惚れるくらいに神秘的だった。
「二人共、無事に契約できたようだな」
「「はいっ! ルーカス団長の指導のおかげです」」
「リーナ、セリナ、よく頑張ったな。二人をフクロウ騎士団に歓迎する」
「「ありがとうございます!」」
二人の瞳に涙が浮かぶのが見える。訓練の後の二人は疲れ果てていたのを見ているから、私も嬉しくて胸が熱くなってしまう。
ホーリーとナッツと話せることに感動している二人は、夢中になって二羽と話していた。それから、団長に促されてホーリーとナッツに力を借りて炎魔法を剣にまとわせ団長と副団長と手合わせをはじめる。
剣の合わさる金属音や炎の熱がすごい。邪魔にならないように離れたところからみんなを眺めていると、フッと肩に重みを感じた。視線を動かせばフードルが止まっていて、手の甲でそっと撫でればもふもふな感触が広がった。
「……フードルは、団長と一緒にいなくていいの?」
「ああ問題ない。リーナとセリナは、まだホーリーとナッツの魔法を上手く扱えないからな。魔法のないルーカスで充分すぎるくらいだ」
「そっか、団長は強いんだね」
「うむ、我の相棒だからな」
フードルの動いた視線を追いかければ、団長も副団長も余裕な顔で二人の相手をしている。ミミーも副団長から離れて、水浴びをはじめていた。ミミーは綺麗好きなので水浴びが好きなんだよね。
「ヒナタの仕事は終わったのか?」
「えっ? あっ、うん。今日はもう終わりだよ」
「うむ、それなら今から我とヒナタは自由だな。ヒナタ、我と額をあわせてみないか?」
「えっ……、いいの?」
「もちろんだ。契約はできぬが、ヒナタは我と額を合わせるのは萌えるのだろう? ホーリーとナッツを巣立たせたヒナタに褒美があってもいいと我は思うぞ」
「っ! う、うん……ありがとう……っ」
フードルの気持ちが嬉しくて目頭が熱くなった。フードルが肩から腕まで下りてきてくれる。もふもふなおでこに私のおでこを合わせて見つめ合う。
「ヒナタ、慣れぬ異世界でよく頑張ってホーリーとナッツを育ててくれたな。礼を言うぞ」
至近距離でフードルに伝えられたら駄目だった。おでこが触れ合っているせいなのかフードルのあたたかな気持ちが直接流れ込むみたい。涙がせり上がって頬を流れる。
一度決壊した涙腺は簡単に止まらなくて、はらはらと涙がこぼれ落ちていく。
嬉しい気持ちと寂しい気持ちと、認められたことや労いの言葉──上手く説明のできないごちゃ混ぜな涙をフードルがくちばしでぬぐう。イケメンすぎる行動に涙が止まった。うう、イケメンすぎます……。
もふもふなイケフクの胸に顔を埋めさせてもらえば、大好きな森の匂いに包まれた。
「ルーカスも褒めていたぞ」
「……へ? 団長が……ほめる……私を? ほ、本当……?」
「むむ、我は嘘はつかぬ」
「そうなんだけど、イメージが湧かなすぎて……?」
フードルからの意外な言葉に驚きすぎて、顔を上げる。目をぱちぱち瞬かせていると低い声が降ってきた。
「なにをしているんだ?」
「ひっ! だ、だ、団長……っ! あ、あの、こ、これは……も、もふもふパラダイス……?」
「うむ、見ての通り仕事の終わったヒナタを存分に甘やかしておる」
翼で頭を優しく撫でられて胸がきゅんきゅんする。こ、これがイケメンからの頭ポンポンの破壊力……うう、好き。
「ルーカス、ヒナタは慣れぬ場所で頑張っておると思わぬか?」
「ああ、そうだな──よく頑張ってくれていると思う」
「えっ、団長……それ、本当ですか?」
あっさり認めてくれた団長の言葉に思わず質問してしまった。眉間に寄せられた皺を見て「ひゃっ」と小さな悲鳴を漏らしたのは仕方ないと思う。顔が怖いです……っ!
「嘘をついても仕方ないだろう。ナッツはかなり危うい状態だったが、ああして元気にフクロウ騎士団にくることが出来たのはヒナタのおかげだ」
視線をナッツに向けて満足そうに頷く団長を見て、胸が熱くなった。普段、鬼のように怖い団長に褒めてもらえるのってものすごく嬉しい。
「っ! あ、ありがとうございます……っ」
「我もヒナタのおかげだと思う──ところでルーカス、人間は頑張っている者に褒美を与えるのだろう? 我は人間のことはよく分からぬが、ルーカスならばヒナタに欲しいものを与えてやれぬか?」
「……ええっ?!」
フードルの意外すぎる提案に変な声を上げてしまう。黙ってしまった団長を窺うと、先ほどより眉を寄せた団長と目が合った。
「……ヒナタ、なにか欲しいものはあるか?」
「えっと、特には……」
「ヒナタ、折角のルーカスの申し出だから遠慮することはないぞ」
フードルの首が横に大きく傾く。まん丸な瞳に見つめられて、ピシャーンと閃いた。閃いてしまった。ど、ど、どうしよう心拍数が跳ね上がる。
「あ、あ、あああ、あの、団長! それって、なんでもいいんですか?」
「まあ、常識の範囲ならいいぞ」
「はいっ! はいはい! それなら最初に買い物に行ったときに団長が買っていたフードル柄のマグカップが欲しいです!」
「…………は?」
鬼の声が地を這う。ひえええ、怖い。怖いけど、あのフードル柄のマグカップ欲しい。一点物だから諦めていたけど、フードルが最高にイケフクに描かれているマグカップ手に入れるチャンスは見逃せない──!
「うむ、ルーカスは我のマグカップを沢山持っておるからな。我はいい考えだと思うが、ルーカスはどうだ?」
「………………分かった」
「よかったな、ヒナタ」
「あ、……ありがとうございます、団長! 一生大切にします! フクロウ騎士団のためにこれからも一生懸命頑張ります!」
フードルが頭を翼でポンポンしてくれる。本当にイケフクすぎる行動に私はときめきが止まらない。しかも、これからはフードルマグカップも一緒なんて最高すぎる。
「さて、我はホーリーとナッツに魔力の使い方を伝授してこよう」
「…………ああ、頼む。リーナとセリナも早くフクロウと連携が取れるようになってもらわないと困るからな」
「うむ、我に任せよ」
フードルが颯爽と飛び去るのを団長と見守った。
気持ちがホクホク高揚していたのに、突然悪寒に襲われる。えっと、これ、私の右側にいる団長から冷気が漂ってくるよね。怖いこわいコワイ……絶対に右を見たら駄目なやつ。
「……じゃあ、私はそろそろフクロウ舎に戻ろうかな……?」
「──ヒナタ」
「ひっ……!」
「これからもフクロウ騎士団で鍛えてやるから安心しろ」
「ひいっ…………!」
「フクロウ騎士団のために一生懸命頑張ってくれるんだろう?」
「は、はいい……っ」
「ヒナタの頑張りを楽しみにしてる」
目の据わった鬼に見下ろされて私の身体が勝手にぷるぷる震えていく。私、とんでもないものを要求したのかもしれない──。
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