13.萌えました
あれから一ヶ月、リーナとセリナのフクロウ騎士団の訓練が終わり相棒契約を結ぶ日がやってきた。二人が頑張って訓練していることをフードルとミミーから聞いている。
「フードル、相棒契約ってどんな感じなの?」
「ふむ、そうだな。我とルーカスは幼い日にしたのだが、絆が結ばれると感じられるものだな」
本来は団長と副団長しか立ち会えないのだけど、雛のお世話係として特別に相棒契約に立ち会えることになった。私が相棒契約するわけじゃないのに、ドキドキしてなかなか寝付けなかったのは仕方ないと思う。
「そうなんだ。相棒契約ってどうやってするの?」
「うむ、我の額とルーカスの額を合わせて契約をしたぞ」
「えっ! フードルとおでこを合わせて契約したの! うう〜それは萌えるね……っ!」
フードルのリクエストを受けて、団長室でブラッシングをしながら質問タイム。まさかの契約方法が萌えすぎてフードルのもふもふ羽根に顔を埋める。今日も森のいい匂いがします。
「ヒナタ、モエル……とはなんだ?」
くちばしで埋もれた髪を甘噛みされる感触がする。くすぐったくて顔を上げた。
「えっとね、そうだな、きゅんきゅんするってことかな?」
「ふむ……胸が高鳴るということでいいのか?」
「それっ! フードルとおでこをあわせるなんて絶対きゅんきゅんだもん」
「我はヒナタの真っ直ぐなところを好いておるぞ」
「〜〜っ、私もフードルが大好き」
はあ、今日もフードルがイケメンなイケフク! もう、どうしてこんなにサラリとイケメンな台詞を言っちゃうのかなあ。ワイルドで包容力のある素晴らしいフードルに真っ直ぐな言葉が似合いすぎて、好き。どのフクロウも大好きなんだけど、フードルは私の最推しで、ずっっと推せる。
幸せに浸っていたらルーカス団長が部屋に入ってきた。
「……ヒナタ?」
「は、はい……っ!」
冷ややかな声に心臓も姿勢も跳ね上がる。恐る恐る窺えば真冬の森のような凍てつく視線が私に注がれていた。
「フードルのブラッシングを頼んだはずだが、まさか顔でしていたのか?」
「ひっ、ひええ……! ち、ち、違います! 団長から預かったフードル専用のブラシを使ってましたです!」
「当たり前だ! フクロウは本来、ベタベタ触られるのは好きではない。相棒契約したフクロウやお前が面倒みている雛たちはコミュニケーションとして許してくれている」
そう、野生のフクロウはもちろん、フクロウカフェのフクロウもベタベタ触ることはストレスになる。手の甲でそっと触れるのが基本なのに、異世界フクロウたちがみんなウェルカムだったから忘れていた。
「フードルに甘えず、仕事はきちんとしろ。フードルもあまりヒナタを甘やかさないでくれ。あとで困るのはヒナタだ」
「フードルごめんね……。団長、すみませんでした!」
「うむ、わかった。ヒナタの甘えは可愛いから構わぬのだが、人間の世界は複雑なのだな。我も善処してブラッシングが終わってからヒナタを甘えさせよう」
「フ、フードル……っ」
優しすぎるフードルに胸がきゅうんと鳴った。異世界のみなさん、フードルがイケフクです。
感激した私を見た団長がやれやれとため息をひとつこぼすと、腕をスッと伸ばした。フードルが私に「気にするな」と小さく囁き、頬をスリッと一度寄せた後、音もなく団長の腕に移動する。フードルの顔がキリッと締まり、イケフク度が加速した。
「ヒナタ、神聖な儀式だから緊張感を持てないなら置いていくぞ」
「ひゃあ! だめです、あ、あります、緊張感! 寧ろ、緊張感しかないです! 森ひなた、緊張の塊です!! ルーカス団長、置いていかないでください……っ」
「……まったく仕方ないやつだな」
フクロウに必死すぎる私を見て呆れた団長の後ろを遅れないようについていく。相棒契約はどこでもできるのだけど、今回は人数が多いので、ホーリーとナッツが大好きなフクロウの泉で行う。
ホーリーとナッツが昆虫を捕まえる草原に囲まれた泉は、フクロウの泉とフクロウ騎士団で呼ばれている。太陽の光が透き通った水面に反射し、清らかな水が心地よい音を奏でる泉はフクロウ達の水浴び場として大活躍。
羽毛の清潔を保つためにフクロウ達の水浴びは欠かせない。羽根についた汚れや寄生虫を落とし、羽根の健康を維持する。雛だった頃は、フクロウ舎に水浴び用のボウルを置いてあったけど、今はフクロウの泉がほとんど。
「ヒナタ、遅いわよ!」
「もう〜ヒナタ待ちだよ〜」
「ふふっ、ごめんね! ホーリー、ナッツ」
私を見つけた二羽が飛んできて肩に止まる。今は私がお世話しているホーリーとナッツも相棒契約したら、フクロウ舎から巣立っていく。二羽が相棒契約を結びたくなる人に出会えたことが嬉しいのに、ほんの少し寂しい。ううん、嘘。本当は巣立ってしまうことが、すごい寂しい。
でも──やっぱり二羽に幸せになってほしいから!
「ホーリーとナッツの相棒契約、見届けさせてね!」
「もちろんよ!」
「見ててね〜」
リーナがホーリーを呼び、セリナがナッツを呼んだ。二羽が私から飛び立ちお互いの相棒になる二人の腕に止まった。顔つきがスッと変わって更に美人度が上がる。
いよいよフクロウの相棒契約がはじまる──!
読んでいただき、ありがとうございます♪
2025年はフクロウを完結させることが目標です!
不定期更新ですが、よろしくお願いします(ㅅ⁎ᵕᴗᵕ⁎)