10.成長しました
──タタタタッ
アナホリフクロウのホーリー、それからもう一匹アナホリフクロウのナッツが草原を駆け抜ける。二匹に驚いて飛び出してきた昆虫を鮮やかに捕まえた。フクロウ界の最足長のアナホリフクロウは走るのが得意なのを活かして、昆虫も捕らえてしまう。
「「ヒナタ、見てた?」」
「うん、見てたよ! ホーリーもナッツもすごい……っ」
二匹が私に振り返りドヤ顔で聞いてくるのが、可愛すぎて震えちゃう。やだもう、うちの子たちって天才だし可愛い! タタッと駆け寄ってきた二匹の頭をこしょりと撫でる。はあ、かわよ。
「ナッツが元気になってよかったな」
「本当によかったです……っ!」
団長の言葉にこしょこしょ撫でていた手を止め、大きく頷いた。
団長とフードルがシュエット薬屋を半壊させた日から半年が経過──あの日、シュエット薬屋の地下室から鎖で繋がれた幼いフクロウが発見された。
シュエット薬屋は表向きは普通の回復薬を生産販売していたが、裏ではオウル王国の禁忌であるフクロウの血を素材にした魔法薬を作っていたことが判明。
フクロウの血は豊富な魔力が含まれていて、傷の修復や疲労回復を超えて、寿命を長くする薬になる。フクロウの血の量によって伸ばせる寿命は変わるが、違法魔法薬なので少量の血で作ったものでも希少で高額に闇取引されていると聞いた。
オウル王国のフクロウの魔力量は他国のフクロウと比べても多いけれど、捕まれば重罪になる。何度も森に入り、フクロウを傷つけて少量の血を取っていた。しかし、相次いで怪我をするフクロウにフードルと騎士団が森の見回りを強化したので、幼いフクロウを拐い、血を取り続けていた。
薬の材料にするためにフクロウを傷つけるなんて、本当に許せない! 副団長がひいひい言いながら魔王の後始末をしていたけど、シュエット薬屋なんて完全に破壊したらよかったのに、と思ったのは仕方ないと思う。
「ヒナタ、ヒナタ……!」
「うう、甘噛みするの、かわいすぎるから」
二匹にかむかむと指を甘噛みされて意識を戻す。目の前には美人姉妹が大きな瞳で私を見つめていた。きゅるんな視線もっとください。
「もう、ヒナタ聞いてるの? わたしたち、飛びながら止まれるようになったの! ねえねえヒナタ、見たい?」
「ナッツもできるようになったのよ〜見たい〜?」
薬屋から助け出すことのできたアナホリフクロウの女の子は『ナッツ』と呼ばれ、元気にすくすく育っている。ちゃきちゃき姉御肌っぽいホーリーと、おっとりほわわんとしたナッツは仲良し姉妹みたい。
ふんすっという副音声が聞こえそうな自信満々な表情に、頬がとろりと落ちる。か、か、かわいい……!
「ええっ? ホバリングができるようになったの? 凄いね、ホーリー、ナッツ! もちろん見たいよ〜〜っ!」
大きくなった二匹に元気に答える。ホバリングは空中で飛びながら停止する飛行法。オリバー副団長に言われてからずっと見てみたいと思っていた。
「凄いな。もうホバリングができるのか」
「うちの子、すごいんです!」
団長の言葉に今度は私が胸を張る。ふんすっ!
「近々、騎士たちと顔合わせをしてもいいかもしれないな」
「騎士たちと顔合わせ……?」
「二匹に相棒を見つけてもらうんだ。騎士が相棒契約できればフクロウ騎士団に異動してもらう」
「えっ?」
あまりに突然の宣言に固まった。フクロウ騎士団のフクロウだから相棒がいると言われれば、そうだろうけど。
相棒契約したフクロウは、相棒と一緒に行動するからフクロウ舎を巣立つ。定期的な健康観察やブラッシングなどでやってくるから、ずっと会えなくなるわけじゃないけど、今と比べたら全然会えない。
うう、ホーリーとナッツのお世話できなくなるの、やだやだ、寂しい。そんなの寂しすぎる!
「だ、団長……っ!」
「ヒナタ、突然大きな声を出すな。なんだ?」
「契約するの、私じゃ駄目ですか?」
「駄目だな」
私の言葉は、躊躇いの欠片もなく魔王にバッサリ斬り捨てられた。ひどい!
「な、なんでですか!?」
縋るように団長を見つめると、鋭くまっすぐ見つめ返される。ひえっ、怖いい……。
「相棒契約は一匹としかできないぞ」
「っ!」
「ヒナタは契約関係なくフクロウと話せるが、相棒契約をしたら他のフクロウと話せなくなる可能性もあると思う──ホーリーとナッツ、メンとワッシの中から一匹を選べるか?」
「…………選べません」
みんな大好きで大好きだから、四匹の中から一番を選ぶことなんて絶対できない。がっくり項垂れて首を左右に振ると、足元でホーリーとナッツがすりすりしてくれていた。
「「ヒナタ、だんちょう、メッする?」」
「ホーリー、ナッツ、団長は悪くないから大丈夫だよ」
腕に二匹を乗せて、頭をなでなでする。ふにゃりと目を細めるのが可愛すぎてたまらない。よしっ、決めた!
「だ、団長……っ!」
「ヒナタ、突然大きな声を出すな。なんだ?」
「私、うちの子が幸せになれる相棒を探します!」
「フクロウ騎士団のフクロウだ。いい相棒を見つけるのは当たり前だ──例え相応しくなくとも、俺がフクロウたちに相応しくなるまで鍛えてやるから問題ない」
私が鼻息荒くふんすっと宣言すれば、魔王……じゃなくて団長がニヤリと悪い顔で笑った。ひええ。
読んでいただき、ありがとうございます♪
第二章に入りました(*´˘`*)♡
ゆるっとプロットはあるので、せっせと書いていきますね。
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!