18、だから付け込まれるんです
昨日うっかりミスで更新ができていませんでした……。今日は21~22時くらいにもう一話更新します。次回で最終話です。
落ちた紙を拾い上げると、そこには蝶や花が描かれていて、先端にはリボンが付いていた。よく見ると、それは黒い紙で作られた切り絵で、淡い空色の台紙が透けている。素人目でも繊細で美しい細工だった。
「これは本のしおり、かな?」
「……私もそれと似たような物持ってます」
イルーアが不貞腐れたような表情で唇をとがらせる。
「昔、エメディスが趣味でこういうのをよく作ってました。私がもらった物はもっと線が細やかだったので、これはアネリーが作った物でしょうね」
「へえー、でも十分すごいよ。降臨祭の贈り物……ってことだよね?」
降臨祭のプレゼントは必ずと決まっているわけではないが、お菓子が定番と聞いている。私に一服盛った経緯から食べ物は警戒されると思い、あえて避けたのだろう。
(一応あの子なりに気にしてるのかな?)
「捨てましょう、シズ!」
「それはダメ」
私はイルーアからしおりを遠ざけるよう体の影に隠す。アネリーには酷い目に合わされたが、そもそもはこの目の前の相方に原因がある。それに手間暇が掛けられた、この美しい細工には何の罪もない。
「まったく、シズは甘い。だから付け込まれるんです」
「……知ってるよ」
誰よりも私に付け込んでいる人間が言うだけあって説得力がある。
「そろそろ行こうよ。次の授業始まっちゃう」
イルーアも授業の教科書を取りに来たらしい。この後は選択授業なので私とイルーアは別々の教室だ。イルーアがロッカーを開けると、私の十倍くらいの量の贈り物が雪崩のように転げ落ちてきた。
「あらあら、大盛況ですね」
アネリーの一件といい、暴君イルーアに密かに反感を抱く生徒は実は少なくない。それでも絶対的権力は健在なようで、友情ゆえの贈り物というより、おそらく賄賂のようなものだろう。こうなることを見越していたらしく、イルーアは特に驚く様子も見せず、持っていた麻袋にどんどんプレゼントを詰め込んでいく。
(あっ……)
その中には、私が贈った緑色の包装紙に包まれたクッキーの小箱もあったが、他の物と紛れて無造作に袋の中へと放り込まれてしまった。
「これでよし、と!」
「まさか、それ全部一人で食べるの?」
「日持ちする物は神殿に送って、孤児院の子供たちに届けてもらいます。これでも自己管理はしてるんですよ。おデブになっちゃったら、私の可愛さが損なわれるじゃないですか。それともシズはもう少しふくよかな方が好みですか?」
「イルーアの好きにすればいいと思うよ」
「どんな私でも愛してるってことですね!」
「はいはい、言ってれば」
(この分だと、私のクッキーも神殿送りかな)
休日に外出した際に、近所のお菓子屋さんで買った安いお菓子だ。私としてもそこまで思い入れがあるわけでもないので、まあいいかと思った。
目当ての教科書を取って私もその場を離れようとしたが、なぜかイルーアが後ろ手を組み、私のすぐ目の前で意味ありげな笑みを浮かべている。
「イルーア……邪魔なんだけど」
「そうですか?」
イルーアは相変わらずニコニコと笑っているが、その意図が読めず少し不気味だ。とはいえ、彼女の意味のわからぬ行動はいつものことなので、不信感を覚えつつも、私は「先に行くよ」と身をかわしてその場を離れた。
しばらく廊下を歩いても、イルーアが後ろを追って来る様子はなかった。
(そういえば――)
ふと、私はロッカーの中にイルーアからの贈り物がなかったことに気づいた。あの妙な笑みは、私からのおねだりを期待していたのかもしれない。
(本当、面倒くさ……)
イルーアをわざわざ調子に乗らせるのも癪だ。私はもう少し放っておこうと決めた。
その日はどういう訳か、イルーアは暇さえあれば私の元へ来て、無言で微笑むだけで何もしないという奇行繰り返した。
寮の食堂で夕食を取り終わった後も、なぜか隣の席でとろけるような笑みを浮かべたまま、じぃーっと視線だけを向けていた。私も半分意地になっていたので、特に何も反応してやらなかった。こうして自分たちの部屋に戻り、いよいよ消灯まであ三十分となった。
付け上がることがわかっている相手に、わざわざ餌を撒くのはどうしても気が進まないが、あともう少しで降臨祭の日は終わってしまう。念のため、さりげなく自分の持ち物にプレゼントが仕込まれていないか探してみたが、それらしき物はなかった。……本当にこちらから切り出すまで、くれないつもりなのかもしれない。
このまま一年に一度しかない今日を終わりにするのは、さすがにイルーアと同レベルで大人気がない気がした。私は腹を決めて、イルーアに話しかけることにした。




