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14、いい加減ウザいんだもん




「あ、これオレンジピールが入ってるんだ。さっきのクランベリーのも美味しかったけど、こっちも美味しいね!」


「神官さんたちがたまにお菓子を送ってくれるんだよ。……イルーアは食いしん坊だから、取られないように内緒にして食べなさいって」


 ベッドに座った私は、対面の椅子に座ったアネリーと世間話を楽しんでいた。


「いいなあ。家のお母さんってば、薬草入りのクッキーとか送ってくるんだよ。神官の頃から薬の調合が趣味だったんだって。でもお菓子にまで入れるのはちょっとね……」


「アネリーはお母さんと本当に仲がいいんだね」


 イルーアも懐いていたくらいだ。エメディスさんはきっと明るく楽しい人なのだろうなと想像する。


「うん、私も家では薬の調合の仕方とか、お料理とかを教わってたよ」


「素敵なお母さんだね。私の母はそういうのは全然ダメだったな……よくお店で出来合いの物を買ってきて家族で食べてたよ」


 私はアネリーがいれてくれた紅茶に口をつけながら、自分の母親に想いを馳せる。母子家庭で看護師をしていた母は忙しく、家で料理をする姿などほとんど見たことがない。スーパーの総菜やお弁当がほとんどで、小学校高学年の頃からは卵焼きやお味噌汁くらいなら私が作っていた。内容はどうであれ、たまに家族そろって食べるご飯は美味しかったので、不満はなかった。


「私は家を出るまで、お店のお菓子を買ってもらえる子がうらやましかったなあ。お母さん凝り性だから、お菓子どころかお茶まで自家製なんだよ」


「もしかしてこのお茶も?」


「そうそう。家の庭で獲れた果物も入ってるんだよ」


 それでか……と、私は顔には出さずこっそり思う。さっきから少し唇が痺れるような感覚がある。体質なのか私はキウイやメロンを食べると、喉が痒くなることがあった。それだけなので、よそで出された食事は残さず食べていたが。




「ねえ、アネリー」


 このまま雑談を続け、和やかな雰囲気のまま終われれば、どんなによかっただろう。でも他寮にまで足を運んだ以上、はっきりさせなければいけないことがあった。


「その、万年筆をなくしたモリカさん……だっけ? 彼女の部屋に行ってみない。部屋を探させてもらえないかな?」


「……シズ先輩、まだ気にしててくれたんだ」


 アネリーが小さく息をついてから緩く微笑む。


「当たり前でしょ。私はアネリーの無実をちゃんと証明したいの!」


「ありがとう。でも本当に大丈夫だから」


 健気に微笑むアネリーに私は首を振った。


「ダメだよ。この件はアネリーが我慢することは――」


「モリカの万年筆なら、きっと掃除の時にでも机の裏と壁の間から出てくるよ」


 予想や希望というより、確信じみた言葉に私は目を丸くする。




「……モリカってばすぐに物を失くしたって騒ぎ立てるくせに、身の回りの掃除や整理整頓に無頓着なんだよね。同室の子もよくぼやいているよ」


 口元の微笑とは裏腹に、アネリーの目がまるで笑っていないことに気づいてしまった。何かうすら寒い予感に背筋がぞくりとする。


「机に上に放りっぱなしにしてたのを、ちょっと指でつついて机の裏に落としただけ。あの子の性格ならろくに探さない内から、『誰かが盗んだ!』って騒ぎ立てると思ったんだ。まさか、こんなにうまく事が運ぶとは思わなかったけど」


「なんで、そんなことアネリーが……」


 体の末端が冷えていくのを感じながら尋ねる。アネリーは両の指先を唇に当てながら、はしゃぐように笑った。


「だってイルーア先輩って、いい加減ウザいんだもん。さすがに今回はやり過ぎだってみんな言っているよ! いくら《御使い》様でもアレじゃあね……。この調子でどんどん株を落して、自滅してくれればいいんだけどなー。……ああ、あの人の出自の秘密はまだしばらくは言わないよ。もう少し評価が下がりきったところで暴露するのが、一番楽しいかなって思うんだけど、シズ先輩はどう思う?」


「……やっぱりメディラの話はわざと私に教えたんだ。最初から全部アネリーの自作自演ってことだったの?」


「うーん……確かにいろんな生徒から拝借した物を自分のチェストに仕込んで、わざとイルーア先輩の取り巻きに密告の手紙を送ったりしたけど。もちろん、勝手に人様の物を借りたのは悪かったと思ってるよ。でも裕福層であんまり物を大切にしてない人の物ばっかだし。結局、紛失届すら出てない物もいっぱいあったはずだよ」


 アネリーは組んだ足の上で、肘をついてニヤリと口の端を持ち上げる。


「あと、全部自作自演って言われるのは納得いかないかな。さすがに食堂で下着をばらまかれたり、服を脱がされたりしたのは想定外だったよ。私は体を晒すことにそこまで羞恥心はないけど、普通の女の子ならあんなのされたら立ち直れないよね。普通あそこまでする? イルーア先輩って、ちょっと頭おかしくない?」


「あなたに言われたくないと思う……」


「あははっ、結構言うね。シズ先輩」


 大きく口調が変わったわけではないのに、今のアネリーの言動からは可憐さや淑やかさがすっかり抜け落ちている。世間ずれした生意気な少年を前にしているような気分だった。










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