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13、お邪魔させてもらうね




「ここで待っていてもらえる? 今、アネリーを呼んでくるから」


 休日にアネリーたちの暮らすフラネル寮を訪ねた私は、寮長自らによって談話室へと案内された。


 私が談話室に隅のソファに腰かけると、それまでおしゃべりやカードゲームに興じていた女子生徒たちが、そそくさと立ち去っていく。去り際に私に向けられた視線は、明らかに好意的なものではなかった。あの暴君イルーアの添え物なのだから当たり前だ。平民の多いフラネル寮はイルーアやその取り巻きたちの被害者が最も多い。


 私やイルーアの暮らすレミレイス寮の半分の大きさもない談話室だが、誰もいなくなるとがらんと静まり返り、少し心細くなる。




 あの食堂での事件から一週間が経った。アネリーとはあれ以来顔を合わせていない。彼女の友人たちの話では、部屋にこもっていて授業にも出席していないらしい。あれほど多くの生徒の前で、思春期の女の子が肌着一枚の姿を晒されるという辱めを受けたのだから無理はない。


 落ち着きを取り戻したイルーアは、あの件がやり過ぎだったことは認めたが、盗難は事実であり尋問自体は間違ったことではないと言い張った。最初は風紀委員が証拠をでっち上げたのだろうと思っていたが、その点に関してイルーアははっきりと否定した。さすがにあそこまで腹を割って話した後で、嘘をつくとは思えない。もしかすると、取り巻きたちがイルーアに黙ってしたことだったのかもしれない。




 どちらにせよこのままでは、アネリーの汚名は返上されない。教師たちの間でもその処遇については意見が割れているらしい。アネリーは体調不良による欠席とされているが、事実上の停学のようなものだ。


 何か証拠を覆す痕跡がないか、考えてみたが結局いい案は浮かばなかった。せめてアネリーの様子を見舞おうとフラネル寮を訪ねてみたが、寮生たちの反応にさっそく心が折れそうになった。


 考えてみればイルーアの最も身近な人間でありながら、今まで手をこまねいてきた私が、どの面を下げて彼女に会えるというのだろう。アネリーに嫌な記憶を思い出させるだけかもしれない。やはり帰ろうかと腰を浮かしかけたとき、談話室の扉が開く音がした。




「――シズ先輩」


 凛とした綺麗な声で名を呼ばれ振り返ると、以前と変わらぬ様子のアネリーがにっこりと微笑んで立っていた。


「本当に来てくれたんだ。寮長に言われてびっくりしちゃった」


「アネリー……ごめんね、勝手に押し掛けるような真似をして」


「ううん、来てくれてうれしい。……あの後心配だったの。シズ先輩がイルーア先輩の機嫌を損ねたんじゃないかなって」


「私の方は特に問題ないよ」


 被害者でありながら、私のことを心配してくれるアネリーにかすかな罪悪感を覚えながら答える。むしろあの一件を機にイルーアとは本音を語り合い、さらに距離が縮まったような気さえしていた。




「あのよかったら、これ」


 私はアネリーにチョコレートが入った紙袋を渡す。


「わあ、ありがとう。私チョコレート大好きなんだ。……あのシズ先輩、よかったら私の部屋に行かない?」


「え?」


「ここは他の寮生も来るし、込み入った話しは、その……」


 私は自分の気の利かなさに、かすかな自己嫌悪に陥る。


「そ、そうだよね。ごめんっ」


「先週実家から紅茶が送られてきたんだ。せっかくだから、お菓子と一緒に飲もうよ」


 私の気持ちを汲んでか、取りなすようにアネリーは明るい口調で言う。年下の子に気を遣われて、私は密かに落ち込みながら同意する。


「うん、お邪魔させてもらうね」


「私ね、自分の部屋に友達を招待するの初めてなんだ。こういうのワクワクするね」


 本気でそう思ってくれているらしく、弾むような足取りで談話室を出るアネリーに私は素直に着いて行った。






 ※※※※※※※※※※






「誰か、シズを見ませんでしたか?」


 上流階級出身者が多いレミレイス寮の談話室で、イルーアは室内を見渡しながら声をかける。その一言にざわめいていた室内がしんと静まり返る。


 答えがないことを確認すると、談話室の中でひときわ大きなソファに座った女子生徒に声をかける。


「寮長、シズから校外への外出許可は出ていますか?」


「……いえ、聞いてないわ」


 最上級生であるレミレイス寮長は、後輩であるはずのイルーアの問いにいささか緊張した面持ちで応える。


「そうですか。まったくしょうがない……あの人はすぐフラフラと出歩くのだから」


「――あ、あの」


 その時、寮長の側にいた別の上級生が話しかけてきた。


「昨日フラネルの寮長に、シズさんが訪問の許可をもらっているのを見たのだけど……」


「フラネル寮?」


 イルーアが形の良い眉を跳ね上げるのを見て、答えた生徒がびくりと肩を揺らす。イルーアは顎に指を当てしばらく何か考え込むと、ぱっと身を翻し駆け出した。










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