タンポポの妖精 ペンポロちゃん
これはお母さんが子供のころ、お父さん――つまり、あなたたちのおじいちゃんから聞いたお話です。
春です。
春になると野原にはたんぽぽがたくさん咲きます。
そのたくさんのたんぽぽの中から、小さな女の子がぽろんと出てきました。
たんぽぽの妖精、ペンポロちゃんです。
ペンポロちゃんは楽しげに、ペンポロペンポロと歌いながら春の風をいっぱいにあびます。
なんて気持ちが良いんでしょう。
ペンポロちゃんは、自分のお花がいつか綿毛になって飛んでいくのを知っていました。
「この風にのって飛んでいくのは、きっと気持ちがいいだろうなあ」
ペンポロちゃんは想像だけでわくわくしています。
綿毛が飛んだら、ペンポロちゃんの冒険も始まるのです。
とそこへ、一匹の猫ちゃんがやってきました。
どこもかしこも真っ黒な猫ちゃんです。
ペンポロちゃんはびっくり。
「おや、めずらしい。たんぽぽに女の子が乗ってるよ」
猫ちゃんもびっくりしたようで、そんなことを言いました。
「それにへんなうたも歌ってる。こんなの初めて見るなあ」
「わたし、ペンポロちゃんよ」
「名前もへんてこ。こんなことは初めてだ」
猫ちゃんはぱしぱしと瞬きをしました。
ペンポロちゃんは名前がへんてこだなんて言われて、ムッとします。
「あら、そう? それじゃ、あなたはとっても立派なお名前があるんでしょうね」
「もちろん、もちろん」
猫ちゃんは大いばりで胸をそらしました。
「僕の名前はカッテンストゥッツ!」
「カッテン?」
ペンポロちゃんが聞き返すと、猫ちゃんはムッとしました。
「カッテンストゥッツだよ、カッテンストゥッツ!そんな難しい名前じゃないだろうに」
「そうかしら、とっても言いにくいけれど」
ペンポロちゃんがそう言って笑うと、猫ちゃんはむっつりとしました。
どうやら怒らせてしまったようです。
「ああ、ごめんなさい。笑うつもりはなかったのよ」
「……僕も君の名前を悪く言ったから、おあいこさ」
「あら、そう」
ペンポロちゃんはそう言って、にっこりしました。
「それで、君はいったいなんなのさ?」
「わたしはたんぽぽの妖精よ」
「ふうん」
猫ちゃんは分かっているのかいないのか、そう言って大あくびをしました。
「あら、ねむいの?」
「そりゃ、こんなに気持ちのいい日だもの」
猫ちゃんは丸くなって、もう一度あくびをしました。
たしかに、おひさまはぽかぽか。
風も温かくてとても気持ちいい日です。
「お昼寝するの? いいわね。私もお昼寝しましょ」
たんぽぽのお花をベッドにして、ペンポロちゃんもごろりと寝転びました。
そうしてふたりで仲良く寝始めました。
すやすやぐうぐう。
ふたりはすっかり仲良しです。
それから何日か経ちました。
ふたりは毎日お昼寝するようになりました。
春の温かい風に吹かれながら原っぱで眠るのは、とっても気持ちが良いのです。
とくにおしゃべりするわけでもありませんでしたが、それでもふたりは仲良しになれました。
ある日のことです。
ペンポロちゃんのたんぽぽは、急にお花をひらかなくなりました。
そうして、黄色いお花はどこにもなくなって、
そしてふわふわした綿毛が少しずつ頭のてっぺんから漏れるようになりました。
あとは開いてしまえば、立派なたんぽぽの綿毛です。
「あれ、どうしたの?」
猫ちゃんが聞きます。
ペンポロちゃんは少し悲しくなりました。
もうすぐたんぽぽのお花は綿毛になるのです。
そうしたら、猫ちゃんともお別れしなくちゃいけません。
「あのね、わたし、もうすぐ綿毛になるのよ」
「へえ」
猫ちゃんは分かっていないのか、いつもと同じように大あくびをして丸くなりました。
そうして瞼がじわじわと落ちていきます。
それをペンポロちゃんは悲しい気持ちで見つめていました。
「綿毛になったら、飛んでいかなきゃいけないのに……」
ペンポロちゃんが言っても、もう猫ちゃんには聞こえていないようでした。
すうすうすやすや、気持ちよく寝ているようです。
今日のペンポロちゃんは、どうしても眠る気になれずにじっと猫ちゃんを見ていました。
そうしている間にも、ペンポロちゃんのたんぽぽはゆっくりと開いていきます。
そのときでした。
ぴゅーんと強い風が吹いてきました。
綿毛がぴゅーんと飛んでいきます。
ペンポロちゃんは、綿毛の茎に掴まって、大空へ飛び立ちました。
周りの綿毛には、ペンポロちゃんにそっくりなたんぽぽの妖精たち。
いえ、これはみんなペンポロちゃんです。
ペンポロちゃんは綿毛になると何人にもなって、みんな綿毛に乗って、新しい場所に飛んでいくのです。
ペンポロ、ペンポロ。
皆は楽しく歌い始めました。
そうしてみんな、新しい場所で歌い、花を咲かせるのです。
ペンポロ、ペンポロ。




