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82.見習わずとも

エルフって宴好きなのかな。長い寿命の一瞬を彩る泡沫の夢、みたいな。


待って。今私、物凄く厨ニっぽい表現してたかも。『彩る』とか『泡沫』とか。――あ、なんかV系の歌詞っぽい。久し振りにV系聴きたいな。無理だろうなー。


厨ニ思考って楽しいから仕方ないよね。うん。仕方ない。


おっ。ブラックドラゴンの両翼、飾られてる。持って来た私への感謝として……かな。


本当に良いヒト達だ。エルフ族。




ほわほわとそんな事を考えながら果実酒を飲むヤマトは、視線の少し下に在る小さな頭をよしよし。薄紅色の柔らかくふわふわの毛質。可愛い。


「ヤマトおにーさん、頭撫でるの好き?」


「そうかもしれません。あちらの国でも、こうやって甘えてくれる子がいるので。つい撫でてしまいます」


「ぼく、120才なのに」


「この国に来て一番の衝撃です。嫌でした?」


「ううん。気持ち良い」


「良かった」


ふわふわっ。よしよしっ。


薄紅色の髪の子供エルフは、『戦争犯罪者』の件でヤマトが身代わりとなり助けた子。大号泣でヤマトを存分に困らせたこの子供エルフは、今はヤマトの膝の間に座り『懐いてます』アピール。


どうやら、120才だとしても精神年齢は5〜6才児と大差ないらしい。これも長命なエルフの特性か。


ヤマトが助けたもうひとりの子供エルフは、ヤマトの膝を枕に20分程前に寝落ち。足が痺れないことを願う。


その微笑ましい光景に、大人のエルフ達は正しく「微笑ましい」と表情を緩めている。完全に『ヤマト』への警戒がゼロになったのだろう。


子供エルフふたりの母親が少し離れたところで談笑しているので、恐らく合っている。これは放置ではなく、ヤマトが「大丈夫ですよ」と口にしたので任せているだけ。お言葉に甘え、大人の付き合いをお楽しみ中。




子供に甘ぇっつの。アホ。




ヤマトの隣。柔らかい敷物に立て膝で座るヴォルフは内心呆れてはいるが、指摘してしまえば『ヤマトは子供好き』との疑惑を生みかねないので口にはしない。


恐らく周囲の者達は、『懐いてますアピールをする子供を面白がっている』とでも思っているだろう。真実ではないが事実ではある。しっかりと面白がっている。


更に言うと。反対隣のリリアナはこの状況の全てを面白がっている。偶に、キノコの串焼きをヤマトの口元に持っていってみる程度には。


その子供扱いもヤマトとしては面白いので、拒否感も無く享受している。きのこ、おいしい。


因みに。ルーチェはリリアナの隣に座り、この状況の全てに呆れている。ヤマトとは真逆の、落ち着いた大人。“苦労人”とも言う。


「ヤマトおにーさん、冒険者の国に行く?」


「そうですね。折角なので行ってみます」


「ドワーフの国、その先だもんね」


「行った事が?」


「冒険者の国は通っただけだよ。只人は……怖いから」


「警戒は正しい事です。只人と仲良くなるもならないも、君次第。ゆっくり、自分で考えて交流していけば良いと思います」


「ヤマトおにーさんとヴォルフおじさんは好きだよ」


「ありがとうございます。嬉しいです。警戒心を解いてくれた、プルとラブに感謝ですね」


「ヤマトおにーさん、変なヒトだもん」


「これからは、変なヒトには近付かないようにしましょうね」


「スライムにドラゴンの魔石食べさせるの、ヤマトおにーさんだけだよ」


「判定が限定的」


ふっ……と小さな笑いが聞こえたので隣を見ると、顔を背け肩を震わせるヴォルフ。ヴォルフも“ヤマト”に関する笑いのツボが浅くなっている。


ヴォルフが楽しそうなので咎めないが。そう云うところがヴォルフを付け上がらせるのだが、その点はヤマトも自覚しているから問題は無いのだろう。


ヤマトは“友人”に甘い。


「ランツィロットさんもまだ怖いです?」


「だれ?」


「髪飾りを付けている冒険者ですよ」


「……だれ?」


「エルフ族の只人への認識、理解しました」


「ぇ……っと。怒ってる?」


「いいえ。面白いと思っています。大丈夫ですよ。気にしないでください」


「わかった!」


単純に、子供エルフの目線では長身のランツィロットの髪飾りは見えないだけ。


ヤマトは『エルフ族に好意的な“黒髪黒目”』なので子供達も注視し、だからこそ髪飾りを確認できていた。話す時には態々しゃがみ目線を合わせるから確認し易かったことも、ひとつの要因。


反して。ランツィロットのことはその他大勢の冒険者(只人)としか見ていない。故に大半の子供エルフは警戒すれど注視せず、ランツィロットが髪飾りを付けている事実を未だに知らない。


その点についてランツィロットは特に気にしていない。人間関係が希薄な冒険者らしく、現地のヒトとの交流も希薄。


なのでランツィロットからすると、エルフ達に顔と名前を覚えられているヴォルフの方が“冒険者”としては異常だと思っている。


ヤマトに振り回される姿が印象的だから覚えられてしまっただけなのだが。


「ドワーフの国は楽しかったですか?」


「王都、迷路みたいで面白かったよ」


「迷路?」


「山ん中。岩盤くり抜いた洞窟都市」


「なるほど。『要塞』」


「ん」


ヴォルフからの簡潔な解説により湧いた、純粋な興味。


エルフ族は“自然”が自律的に要塞化するが、ドワーフ族は“自然”を要塞に利用している。崩落や浸水を防いだ上で換気も可能な高い技術が為せる業――と、理解。


取引で互いに利がある現在は兎も角、過去には“自然を愛しまくっているエルフ族”と衝突したのも頷ける。


同時に、その高い技術は純粋に尊敬を抱ける。技術者は、人類の宝。


「ドワーフの国、楽しみです」


「迷路する?」


「はい。確実に迷うので、ヴォルフさんに助けを求めちゃいます」


「ヴォルフおじさん、苦労してるんだね」


「分かってくれるか」


「ん、ふふっ。私は?」


「ヤマトおにーさんは子供っぽい」


「童心は大切にしています」


「どーしん」


「子供のように遊ぶ、と解釈して頂ければ」


「雑」


「間違ってはいないでしょう?」


「僕も遊ぶの好き! 迷子になって怒られた!」


「では、私も怒られないとですね」


「なんでだよ」


呆れの声。しかし止めることはしない。ヤマトが楽しければそれで良いと、心底から思っているので好きにさせている。


ヴォルフがそう云うスタンスなので、ヤマトも同様に付け上がっている。……し、ヴォルフもヤマト同様に付け上がらせている自覚はある。


互いに『悪質だな』とは思っているが、互いに『自分が一番甘やかしたい』とも思っている。なので言動や思考を変えるつもりは一切無い。


雑な扱いも、心を絡め取る言動も。依存心を育てるのも。それこそが『親友』なのだと、どちらも心底から確信しているのだから。


「――あぁ、そうだ。ヤマト。ドワーフの王には手紙を送っている。警備隊にも伝わっている筈だ」


「ありがとうございます。私が手紙を持っていなくても大丈夫です?」


「一目で分かるように伝えているよ」


「因みに、何と?」


「『神族かと疑うタチの悪い“黒髪黒目”』」


「なぜ。“黒髪黒目”だけで十分だと思いますけど。もしかして、遊んでいます?」


「勿論」


「なら良いです」


「ヤマトおにーさん、神族なの?」


「違いますよ。只人の流れ者です」


「なんで?」


「え」


「ん、ぐっ」


隣。耐えきれないと溢れた笑いに、咄嗟に顔を背けたヴォルフ。一応反対隣を見ると、こちらも顔を背け肩を震わせるリリアナとルーチェ。


純真な子供の純粋な「なんで?」は、シンプルに面白かったらしい。苦しそうな呻きが溢れている。


しかし愉しんでいるようなので注意はしないし、気分を害しもしない。ごらく、だいじ。


「私の魔力、只人の特徴でしょう?」


「でも自然災害みたいにキカクガイなんでしょ。皆言ってるよ」


ぱっと顔を上げ辺りを見渡してみると、さっと顔を背ける近くのエルフ達。何やら大変遺憾な勝手な憶測が浸透しきっている。


獣人達は何やらうんうんと頷き、何故か誇らしげ。彼等は一体どの立場なのだろうか。


なんか面白いから許した。


「『規格外』は自覚していますが、本当に只人ですよ。“せんせい”――大賢者の研究書で魔法を知ったので、その影響で“イメージ先行”の色が強く出ているのでしょうね」


「いろ」


「教える側が凄いヒトなら、素質があれば凄く成長できる――ということです」


「……つまり、神族?」


「あれ?」


ごほっ!っと盛大に噎せたヴォルフの姿は、見なかったことにした。咳を繰り返しながらの爆笑である。


正直、ヴォルフの爆笑なんてレア過ぎるので凝視したい。したいが……


「げほ! ぅ、はは!っうぇ……ふぉ!――ん、ぐ……ははっ! ごっほ!!」


……っと。背中を丸め咳と笑いを繰り返し、手触りの良い敷物をばんばん叩く姿。生理的な涙を滲ませていてとても苦しそうで、溜まった涙がちょっと敷物に落ち始めている。


見ないフリで守られる“矜持”がここにある。


周りのエルフも獣人も只人も凝視しているが、ヴォルフとしては“ヤマト”が見ないフリをしてくれているだけで良い。ヤマトがヴォルフ(自分)の矜持を守ってくれるのなら、それだけで満たされる。


只人の冒険者と共に酒を飲むランツィロットがドン引きの顔をしているが、そんな事もどうでも良い。


無意識。無自覚でも、騎士。


『主』以外からの評価は必要無い。そんなもので己の“価値”は落ちない――と。


「ねえねえ、ヤマトおにーさん。ヴォルフお、」


「気の所為です」


「え?」


「気の所為です。――皆さん、私を『神族』と言いますが。そもそも『神族』がどのようなものか、知っているんですか?」


「神様だよ」


「偶像ですね」


「ぐーぞー」


「存在しない存在、です」


「ヤマトおにーさん、触れるよ? 存在してるよね?」


「全然切り離してくれない」


瞬間。反対隣からも、ふたつの耐えきれない笑いが聞こえた気がした。


更に、追い打ち。


「――あ。わかった! ヤマトおにーさん、ヒトの形にぎゅってされた神様なんだね!」


「分からないでください」


「っあははははは!!」


無理だった。いつも威厳のある綺麗な声の、エルフ王――リリアナの爆笑。心底からの爆笑。周りのエルフ達が目を丸くしている。


それでも笑われているヤマトは、一切気分を害していない。子供の発想力の柔軟さを身を以て体験してしまい、変に感心するだけ。


シンプルにめっちゃウケるな。――と。


『ヒトの形にぎゅってされた神様』……つまり、“ヒト”と云う器に押し込められた神。




元の世界のSNSで、とある呪術師最強キャラをそう称していた人を見たような……まさか、こっちで私がそう称されるなんて。光栄なような、恐れ多いような。


この“ヒト”らしく複雑な感覚は、感情の機微を知らず無慈悲な『神』には理解出来ないだろうね。やっぱり私はちゃんと“ヒト”なんだって自認出来るから、結果オーライってことで。


それにしても純粋な子供は本当に面白い。


あと、ヴォルフさん。咳は止まったのは何よりだけど、もう完全に蹲ってて全身で震えてるのめっちゃウケる。笑い過ぎ。


っていうか、プル。笑ってるけど、君もレオから『魔族疑惑』掛けられてるんだからね。




しかし。皆がこの“娯楽”を愉しんでいるのなら、と。


この緩い空気を壊すことはせず。一応『神族疑惑』は否定したからもう話題を変えた方が良いなと判断し、口を開いた。


……開いた側から、来訪者。


「ぁ」


ふわりっ――


質量を感じさせずこの場に降り立った存在は、淡い発光によりその威圧感が増している神聖なもの。


神獣――フェンリル。


「こんばんは。お散歩ですか?」


まるで。近所のお年寄りへ声を掛けるように。そんな軽さで問い掛けたヤマトは、自分を見る鋭い双眼を見つめ返す。


返って来る言葉は無い。しかし、伝わって来る。


薄々気付いていたが……どうやらこの(・・)フェンリルからの信頼は勝ち取れたらしい。犬吸いをしたのに優しいフェンリルだと、目元が緩んでしまう。


「直接の報告をしていませんでしたね。あなたの“気紛れ”で、この子達はちゃんと無事です。ご満足頂けました?」


ぽかんっ。口を開け、フェンリルを見上げる子供エルフ。ヤマトの膝を枕に眠る子供エルフ。


その鋭い双眼でそんなふたりの姿を確認したフェンリルは、徐ろに上げた手をヤマトの顔に押し付けた。意外と柔らかい肉球。至福。


手を下ろしたフェンリルは視線だけで周囲を観察し、また視線をヤマトへ。


「この国を発つと言ったら宴を開いてくれて。偶に遊びに来るので、あなたのところにもお邪魔しますね」


うげっ……牙を剥き出しに嫌そうな顔をするフェンリルだが、ヤマトはくすくすと笑うだけ。これからも犬吸いはさせて頂く。至福。


それが分かったのか呆れの溜め息。


ふ、と。未だに蹲っているヴォルフへ視線を向けたが、その後はもうヤマトを見ることもせず。


ふわりっ――


やはり質量を感じさせず、静かに浮遊し山へと帰って行った。




「また、いつか」




親愛を含ませたヤマトのその言葉に、ゆらりと一度だけ尻尾を揺らしてから。


しんっ……


耳が痛くなる程の静寂。誰もが神々しいフェンリルの後ろ姿に魅了され、指先ひとつすら動かせない脱力感を覚えている中。


「あの神々しさを出せない私は、やっぱり『神族』ではなく正しく只人ですね」




――『これで神族疑惑は払拭出来ましたよね?』――




そう、言っているのだろう。


フェンリルが来訪したこと自体は偶然なのに、まるで全ての事象が自分の為にあると言いたげに。たった今、『神々しい』と自分で口にしたのに。


そのフェンリルですら利用するその言葉は……いっそ、脅迫に近い。


脅迫でなくとも。『神獣』の神々しさを目にしてしまえば、納得するしかないだろうと。これにより僅かな憂いは晴れた。


ルーチェが口にした、『納得の強制』……これか――と。そう、この状況を冷静に分析。


「あのフェンリル、まじ何しに来たんだ」


「子供の安否確認ですよ。やはり“自然”の一端で在るフェンリルは、子供好きのようです」


「見習え」


「甘える方が得意なので」


「知ってる」


「ですよね」


漸く復活したヴォルフと緩い会話を終わらせたヤマトは、未だにぽかんと固まる子供エルフの薄紅色の髪で三つ編みを編んでいく。




寝ているこの子は、明日「ずるいずるい!」と騒ぐんだろうなー。




そう、確信しながら。




閲覧ありがとうございます。

気に入ったら↓の☆をぽちっとする序でに、リアクションやブクマお願いしますー。


いや普通に『神獣』と意思疎通出来るって『使徒疑惑』生まれるんじゃね?な、作者です。どうも。


常であれば『使徒疑惑』は生まれています。

しかし“ヤマト”なので「まあ……ヤマトくんなら、神獣と意思疎通くらい出来るか……」と思われている。

周りが主人公に抱くイメージがどんどん“ヒト”から掛け離れていくの、めっちゃウケる。


フェンリルは主人公の言葉通り、子供の安否確認に来ました。

『助けろ』と伝えたその日に子供達の無事は確認していたのですがね。

“ヤマト”ならばきちんと対面での報告をする性格だと思っていたのに、来なかったから来た。

日が空いての来訪なのは『神獣』にとって時間の感覚は有って無いようなものなので。

つまり、主人公の掛け布団になって“あげた”その2日後に確認に来たつもりが何日も経ってた。だけ。

神獣、エルフよりも時間の感覚がバグってる。


今回は子供エルフの天然無邪気回でした。

主人公も“子供の無邪気”だと分かっていたので、強い言葉もなく説明していました。

でも全然伝わらなかった。

子供の無邪気、ウケた。


主人公の沸点が高く、子供好きだからこそ『ウケる』で済ませているだけなので悪しからず。

怒るヒトは「話が通じない!」と普通に怒ってしまうと思います。


次回、出立。

見極めはまだ続く。

好奇心旺盛。


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