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78.“本性”も魅力のひとつ

この街も肌寒くなってるなー。ラブが居てくれて良かった。ぬくぬく。


そんな事を考えながら検問の順番が来たので、いつも通り憲兵の前へ。


瞬間。


「っヤマトさん大丈夫ですか!? 怪我は、熱はっ体調とか! 食欲はっ!?」


「朝食にボアカツを食べましたよ」


「食欲あって良かったです!」


なにやら心配の方向性が間違っている気がするが、心配してくれたことは素直に嬉しいので良しとした。


税金を払う間に奥から出て来た憲兵達からの心配の声に、単純にも嬉しく思い目元が緩む。流石に交流が薄い住人達はこうやって詰め寄っては来ないだろうが、元気な姿を見せておくかと判断。


「ヴィンスに報告を上げますよね。『食べ歩き後にロイドさんに会ってからお伺いします』とお伝えください」


「承知致しました。沢山食べられるのなら安心しました」


やはり、なにやら方向性を間違えた安堵。食いしん坊なので事実ではあるが。


後方に並んでいる者達もいるので会話を切り上げ、街の中へ。二度見からの凝視。からの、ストーカー。


いつもの事ではあるが、今回は心配の表情が大半なので甘んじて受け入れた。


「おはようございます。みっつ」


「!!っヤマトさん無事だったんですね!あぁ良かった!――店長っヤマトさん無事です串焼きみっつ!」


「快気祝いにサービスします良かったあああっ!!」


この街に初めて来た時に卵料理のレストランを教えてくれた串焼き屋。いつもは怯えている店員は、カウンターから身を乗り出し今にも泣きそうな顔。


加えて、普段は後ろで串焼きを焼き続け決して存在を主張しなかった店長の雄叫び。


この国の『“黒髪黒目”への崇拝さながらの敬愛』をナメていたヤマトが悪い。


頬が引き攣りそうな衝動をどうにか押し留め、コートの中でぷるぷると揺れるプルにこっそりと肩を落とす。笑わないでほしい。


「お待たせしました!」


「ありがとうございます。普段から、そうやって楽にして頂いて構いませんよ」


「無理です! 今安心でテンションまじオカシイだけなんで!」


「早く落ち着くと良いですね」


最早他人事として流すことに。きっとこの後、卵料理のレストランでも似たような反応をされるのだと確信している。


自業自得なので、こちらも甘んじて受け入れるが。


「噂。回るのが早いですね」


「えーっと。第二王子殿下が領主様に伝えて、領主様がロイドに伝えたら一気に冒険者に広まりました!」


「冒険者の声はよく通りますからね。納得しました」


もぐもぐと串焼きを食べるヤマト、プルとラブ。スライムのプルは兎も角、ラブも朝食を食べたのに入るのは飼い主に似たのか。


いや、浮きながら食べているから魔力に変換しているらしい。そこまでして食べる食い意地は、飼い主に似たと言える。


「ロイド、凄く怒っていたので覚悟した方が良いですよ」


「はい。ロイドさんと、ヴィンスからも叱られに来ました。心配を掛けてしまったので」


「自分から叱られに来るのも変わってますけど、“黒髪黒目”を叱るロイドは尚更ですね」


「だから好きです。信頼出来ます」


「ロイドが聞いたら泣きそう! 嬉しくて!」


可笑しいと笑う店員だが、しかしその笑みの中にロイドへの親愛が見える。ヤマトが度々利用する店だから、ロイドも目を掛けているのかもしれない。


良い縁だなと緩む目元をそのままに完食。テンション高く見送ってくれる店員へ緩く手を振り返し、レストランへと向かった。


当然のように串焼きを頼む住人達。やはり……


似たような反応をされたレストランを出ると、当然のようにレストランに駆け込む住人達。自分の真似をする彼等には、今ではもう何を思うこともない。


慣れた。







「これは拉致なのでは」


「は?」


「いえ」


「ロイドがすんません、ヤマトさん。でも自業自得なんで後は頑張ってください」


「あ。君達は入らないんですね」


「貴族と話すの疲れるんで」


「ちょっと分かります。その気持ち」


「え」


「え?」


「……そうだった。ヤマトさん、貴族じゃないんだった」


「なぜそんな今更なことを」


「いってらっしゃーい!」


冒険者ギルドへ向かう道中。


ばったり遭遇したロイドから何故かお姫様抱っこをされての、拉致。辻馬車に放り込まれ、ヴィンセントの邸に到着。パーティーメンバーとは邸の前で別れ、そのまま徒歩で戻って行った。


私も逃げたい。


……っとは口にせず。ずかずかと邸に入るロイドが勝手知ったるように向かうのは、応接室。報告は上がっているとの確信を持っているらしい。


すれ違う使用人達が慌てふためかず礼を示していることが、その確信を後押ししている。


「ヴィンス様ー入りますよー」


ノックをしての、返事の無いままでの入室。貴族相手。貴族の教育を受けたロイドらしくないが、冒険者のロイド“らしい”言動で不思議としっくり来る。


一応の現実逃避として思考をズラしてはみたが、いつもとは違い……ソファーから立ち上がらず『貴族の微笑み』を貼り付けているヴィンセントを視認したので、潔く思考を現実へと引き戻した。


めっちゃ怖い。


貴族のヴィンセントが自分の為に毎回態々立ち上がる。――その事実に疑問すら持っていなかった辺り、やはりヤマトと云う人間は傲慢で間違いないのだろう。


「やあ。体調は問題無いようだね、ヤマト殿」


「はい。すっかり。ご心配ありがとうございます。嬉しいです」


「私の独り善がりではないようで安心した。さあ掛けてくれ」


「失礼します」


ヴィンセントの向かいにヤマトが座り、ヴィンセントの横にロイドがどかりと座る。


2対1。生粋の貴族と、元貴族の冒険者。2種類の圧が凄い。


ヤマトは眉を下げての“反省”を表現してはいるが、反省などしていない。只々、只管に。




ヴォルフさんが私の為にヒトを殺してくれた。


“友人”として。『親友』として。


私には出来ないことを代わりにやってくれる。私も、ヴォルフさんに出来ないこと――厄介な貴族からの指名依頼を代わりに断ることが出来る。私の手料理を好きだと食べてもらえて、私が食べさせてあげられる。


やっぱり、ヴォルフさんを求めて正解だった。




その事実に純粋に満足しているだけ。


「さて。じゃあ、その『反省していますよ』の演技はやめて頂こうか」


「バレますよね」


「どんな表情も美しいけれどね。今は、本来の姿で話す方がヤマト殿も楽では?」


促すように手で指して来るヴィンセントは圧倒的な“貴族”の空気感を醸し出し、どこか愉しんでいる様子。ロイドは腰を丸め膝に頬杖を突き、治安が悪い。


ならば――と。


ソファーの背凭れに沈んだヤマトは右腕を背凭れに。上げた左脚の足首を右膝に乗せ、左膝に腕を置いての傍若無人スタイル。圧倒的に治安が悪い。


流石に少し驚いたヴィンセントとロイドは、それでも。ヴィンセントは愉快そうに小さく笑い、ロイドは呆れの溜め息をひとつ。


「本当に、反省はしていないようだ」


「求めた『親友』は俺の為にヒトを殺せる人間――それを知れて、する必要があるって?」


「おや。『親友』との確定はいつ貰えたのかな?」


「簡単に確定の言葉引き出せる奴とか詰まんねえだろ。互いに理解してるから、今はこれで良いんだよ」


「君に構って貰えるヴォルフが羨ましいね」


「だから構ってやりに来たんだっつの」


「では構って頂こう。――ヤマト殿。君が自らに矛先を向けさせたのは、『子供を助ける為ではない』と誓えるのか」


「助ける為に決まってんじゃん」


「!……子供好き、だと。私達に話しても良かったのかい?」


「確信あったから訊いたくせに。レオも気付いてんだろうし、“友人”に隠すことじゃない。寧ろ、教えとけば勝手に情報操作すんだろ?――なあ、“黒髪黒目”を他国に利用されたくないお貴族様?」


「ははっ。その通りだ。“友人”ではないロイドも、聞いてしまったようだがね」


「俺のことだーい好きだからアホな事しねえよ」


「だ、そうだよ。ロイド」


ちらりとヴィンセントがロイドへ視線を向けると、治安の悪い体勢のまま。ヤマトを睨み付けたまま。


口を開いたロイドは、最大限に『怒ってます』と伝えるための不機嫌さ。と、それに倣った声色。


「まじで大好きだから言い触らさねえけど、今回のはまじでキレてっからな俺。んだよ、おい。ガキ助ける為の身代わりまでは良いけどさ。血ぃ流す必要ねえだろ。なに、あんた。態々戦争犯罪者用意して。最初から終戦の為に動いてたとか言ったらまじでぶん殴んぞ」


「はあ? だから何で俺が終戦の為に動くんだよ。理由ねえよ。あの畜生共、俺に『ご主人様』って呼ばせようとしたんやぞ。死ぬべきやろが」


「ならいーっす」


「申し訳ないが、ヤマト殿。詳しい話をお願いしたい。ヤマト殿こそが『ご主人様』なのに、その愚か者共は何故そう口に出来たのか……私には理解に苦しむので、本当に説明を頼む」


「ヴィンス様こそ何言ってんすか。あんたのご主人様は陛下でしょ」


「『本物の支配者』を目にして尚、紛い物に捧げる忠誠が霞程もあるとでも?」


「思わねえけどまじで不敬」


仲良しだな。


そんな雑な感想を抱くヤマトは姿勢を正し、いつも通りの『柔らかいのんびりお兄さん』に擬態。見事な猫被り。


漸くコートから出て膝に陣取るプルを撫で始めたので、ヴィンセントとロイドも“いつも通り”に。


納得が出来たので怒りは収まったらしい。


「そんで? なんか変な令嬢から絡まれたらしいっすね」


「あぁ、はい。その保護者からの謝罪が届いて、確認の為にルーチェさんが呼ばれたんです。その間にフェンリルのブラッシングをしていたら、子供達が攫われそうになって。フェンリルから『子供を助けろ』と指示を受けての、“それ”です」


「さらっとフェンリルに逢ってんのめっちゃウケんだけど。仲良しじゃん」


「犬吸いはとても嫌そうにされています。可愛いです」


「何でも吸うのやべーね」


「ヤマト殿なら驚かないよ。一応、確認なのだけれど。戦争犯罪者を惨殺したのはヴォルフだが、獣人冒険者が泥を被ってくれたとの認識で?」


「はい。エルフ国以外ではおふたりと、レオとテオ。フレドにも伝えておくつもりです。エルフ王からも許可は貰っています」


「駄々を捏ねた。と」


「“友人”には誠実で在りたいので」


「ヤマト殿は簡単に私達を満たしてくれる。ロイドも潔く諦めて、“友人”と成れば良いのに」


「むーりーっす。貴族の教育受けたから、近ければ近い程傅きたくなるんで。ヴィンス様みたいに。俺はヤマトさん娯楽にしたいだけっすよ」


「本人の前でよく言えるね」


「ヤマトさんがこんくらいで怒る訳ないし。つーかヤマトさんの逆鱗って『“友人”への侮辱』でしたよね。なんで戦争犯罪者にも怒ったん?」


「先程言いましたよ」


「あー……“ご主人様”の件。ちゃんと自分の事でも怒るんだ」


「まさかドラゴン・スレイヤーを従えようとする脳足りんが存在するとは思わなくて。今回の件で、これも“逆鱗”なのだと自認しました。私の上に立って良いのは『神』か、『自然』の一端の神獣だけですから」


「グリフィス公爵、危ない橋渡ってたって事か」


「意外と話の分かる方でしたよ。――そういえば先日、温泉で偶然お会いしましたね」


「ちゃんと前隠した?」


「忘れていました」


「隠せっつっただろ!」


「フレドも普通に鑑賞していたので、まあ良いかなと」


「私も美術品鑑賞は好むよ」


「今度ご一緒しましょうか」


「まじ隠せよ!?」


いつも通り。ヴィンセントは以前に一度見てはいたが、先程の治安の悪い本性までは知らなかった筈。


なのに当然のように受け入れ、ロイドも特に引いてはいない。その“顔”に似合わない口調と態度に、強烈な違和感を覚えているだろうに。


まあ。今は、その違和感よりも優先する事項があると云うことなのだろう。


「体調を崩したのは、頻繁に気温が違う場所を回ったと聞いたけれど。移動の許しを貰えたみたいだね」


「はい。私の周りだけ空気の温度を一定に保っています」


「……うん。魔法かな。よく分からないね。――そういえば。エルフ国のお土産は、いつ貰えるのかな」


「俺のもー」


「お土産を催促するその傲慢さ、貴族らしくて好きですよ」


自分の為に自ら選んだエルフ国のお土産を早く賜りたい。との、傲慢。最優先事項。


くすくすっ。可笑しいと笑うヤマトはアイテムボックスへ手を入れ、木の皮で編まれた小物入れを取り出す。エルフの伝統的な編み方。お土産に大人気の品物。


続けて取り出したのは、木で作られた……化粧品?


「傷薬ですよ。薬用の。これは、ロイドさんに」


「おっ。エルフの薬、めっちゃ効能良いから有り難いっす!」


「あ。ルーチェさんから教わって私が作ったので、同じ効能かは」


「え……なんか、古傷すら治りそうな気配するんすけど……使うのちょっと怖い」


「どうでしょう。ルーチェさんには頭を抱えられましたが」


「ほらあーやっぱりー」


「鑑定では危ないものではないと出たので、大丈夫です。たぶん」


「俺実験台っすか。ヴォルフさんでやってよ」


「“友人”で実験するのは、ちょっと」


「オキニイリでもすんな!」


きっと“友人”と“お気に入り”の差別化だな。と予想するロイドは、これが安全な傷薬だとちゃんと分かっている。実験台にされている訳でもないことも。


単純に、この会話を愉しんでいるだけ。久し振りの娯楽として。


それはヤマトも察しており、こちらも久し振りの戯れにノっただけ。たのしい。


「こちらはヴィンスへ」


「綺麗な小物入れ――中に、何か入っているね。香水かな」


「レオから自慢でもされましたか。香りが合わなければ、インテリアにでも」


「君が今振っている香りだろう? 欲を刺激する香りで、とても気に入った。有り難く賜ろう」


「良かった。無くなったらまたお渡ししますね。ロイドさんも」


喜んでもらえて満足。と笑むヤマトは、“黒髪黒目”とお揃い――その事実に、心の中で歓喜しているヴィンセントには気付いていない。流石、腹を読ませない貴族の微笑み。


当然ながら。元貴族故にその“腹”に気付いているロイドは、されど何を言うこともせず。




ヴィンス様に一番警戒しなきゃなのに、なんでタラシてんだろ。この人。


流石に知人同士の『貴族の嗜み』はやめてほしいわ。




そう考えながら、取り敢えず腕の古傷に傷薬を塗ってみようと決めた。





閲覧ありがとうございます。

気に入ったら↓の☆をぽちっとする序でに、リアクションやブクマお願いしますー。


そもそもこの話ブロマンス系だから『貴族の嗜み』自体やめてほしい作者です。どうも。


古傷は予想通り治っちゃったので、ロイドは当然の恐怖を覚えつつも変に納得しました。

器用な子ですよね。


この傷薬、普通に材料となるオリーブのスクワラン成分に聖属性を付与しただけなんですけどね。

主人公の“質の良い魔力”により効果が爆上がりしているだけで。

一応『フェンリルの毛』が奉納されている神殿で、聖属性持ちが数日掛けてポーションを作れば似たようなものは作れます。

めっちゃ高価になりますけど。

労力掛かってるから仕方ないね。


ヴィンセント、翌日から早速香水振って寝起きの妻に自慢しました。

妻は“貴族の微笑み”で香水奪って自分にも振った。

「これが……ヤマト様の香り……はぁんっ」とベッドに逆戻り。

女性はいつまでも女性。

勿論ヴィンセントは腹筋攣って苦しんだよ。


本性で話すのは楽だけど、“治安の悪い本性”は人前であまり出さないから実はちょっとドキドキしてた主人公。

普通に会話が始まったので「いい人達だ」と判断しました。

単純に、体調の心配とお土産欲しい欲が先行していただけなのですがね。

貴族の特性で欲に従順。


ロイドが拉致ったのでギルドの解体班は主人公に会えませんでした。

主人公がエルフ国へ戻った後、ロイドは解体班からガン詰めされた。

正直すまんかった。


いつも誤字報告ありがとうございます。

助かりますm(_ _)m


次回、フレデリコ。

叱られるよりダメージ大。

照れ。


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