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77.正夢回避は“話す”こと

「特に問題無いです」


まだ休んでろ。とヴォルフから厳命されベッドから出られないヤマトは、プルやラブから差し出されるフルーツをもぐもぐ。


先日の『騎士気取りの令嬢』の件。先方からの謝罪文と品を渡し、これで手打ちにするかと訊けばあっさりとした返事。




問題無いというより、興味が無いのだろうな。




瞬時にそう確信したルーチェは、謝罪で贈られた最高級ジャムの数々を『鑑定』していくヤマトに内心安堵。これから終戦の為に動かなければならないので、個人間での問題は早く解決したかったのだろう。


自分もヤマトの“友人”として令嬢へ武器を向けたが、それでも『国』を運営する者としての立場と優先順位はある。これから先、エルフ族が侮られないように。


だからこそ。あっさりと終わらせるヤマトの、“他者へ興味を向けない性質”に感謝している。


「服は、どうだ」


「涼しいです。エルフの民族衣装、良いですね。ありがとうございます」


「……」


「ルーチェさん?」


「……その“顔”でエルフ族ではないことが、未だに信じられない」


「耳、尖らせてみましょうか」


「やめろ。頼むからヒトで在ってくれ」


「え。いえ、『幻覚魔法』で」


「出来ないとは言わないのだな」


「やってみましょうか」


「本当にやめてくれ」


くすくすっ。可笑しいと笑うヤマトに肩を落とすも、巫山戯られる程度には体調が良くなったのだなと緩む頬。


確かに熱は引いた。それでも心配を掛けまいと痩せ我慢をしている可能性を捨て切れないのは、ヤマトのお人好しな面を知ったから。


でなければ、フェンリルから頼まれたとしても見捨てていた筈だ。と。


ヤマトが子供好きだと知らないからこその、結論。しかし協調性を重視する日本人故、お人好しさは僅かばかり残っている。なのでその認識は特に間違いではない。


因みに。エルフの民族衣装を着たヤマトを見たヴォルフは、何やら諦めたように首を振っていた。解せない。


「私が寝込んだ事で何か影響は」


「獣人の国が激怒している」


「盲信ですね」


「気の良い者達なのだがな。昔から、“黒髪黒目”の事となると沸点が低くなる」


「……私、小説の再現をしていますが大丈夫なのでしょうか」


「本人が楽しんでいるのなら問題無い。全ての“黒髪黒目”を同一視せず、個を見ている。理想を押し付けるのではなく、全てを受け入れるべきだと」


「意外です」


「?……あぁ、“狂信者”。確かに獣人が多いが。アレもどうせ、何者かが囁き創り上げたカルト集団だろう。よくある話だ」


「怖い話ですよね」


「軽いな」


「私には関係の無いことなので。鬱陶しくなったら抹消するだけです」


「……」


「プルに頼んで」


「なら良い」


過保護だな。


思わず笑ってしまったヤマトは、ぽふりとベッドに沈む。やはり熱は下がっても身体のダルさはあるらしい。残りのフルーツはプルとラブがもぐもぐ。


妖精でも猫。猫でも妖精。砂糖使用の菓子は食べられないのに、アレルゲンや猫に毒となる成分が入ったフルーツは食べられる。




人の手が加わったお菓子が食べられないのかな。でもフルーツは自然の恩恵だから、“自然”との親和性が高いから食べられる――とか。


それにしては私が作る砂糖を使った料理や、屋台料理は食べているから……やっぱり『砂糖使用のお菓子』がダメなのかも。線引きは何だろう。不思議だ。


もしかして肥満防止のデフォ設定?……えぇー。デブ猫の撫で甲斐のあるむっちりボディ、堪能したかったのに。




体調が万全でないのに思考してしまうのは、最早癖のようなもの。常に何かしらを考えている。


「何も考えないって難しいですね」


「なんだ、急に」


「こういう時は脳も休めないといけないのに、常に思考してしまって」


「……常に?」


「あ。ルーチェさんは“そっち”ですか」


「どっちだ」


「何も思考しないことが出来る(・・・)脳の造り。羨ましいです」


「……よく分からないが、疲れることをしている事は分かった」


「充分です」


「思考を止められないのなら、あの王子への弁明でも考えておくことだ」


「……エルフ族からの援護は」


「それで納得するのならな。――まあ。フェンリルが説明すれば、誰もが納得せざるを得ないだろうが」


「潔く諦めて叱られます」


「それが良い。“納得”を強制しては、不満に繋がる」


「心配してくれています?」


「“友人”は心配するものだろう」


「その通りです」


上機嫌。開いたアイテムボックスから通信具を取り出し、た瞬間。タイミングを図ったように受信する信号。


一度眉を下げたが、潔く魔力を流し応答した。


「こんにちは、レオ。香水の評判はどうですか?」


《問い合わせが殺到しているが、ヤマトの調合だと流しているから皆諦めている。そういえば、その生産者は今は病人らしいな》


「一瞬で本題に入りましたね」


《叱られる覚悟が出来たから通信具を出したのだろう? 表向きの説明は》


「『フェンリルの指示を受けた“黒髪黒目”が戦争犯罪者を拘束したけど、“黒髪黒目”に暴力を振るった事実に激怒した獣人の冒険者達が惨殺した』ですね」


《……あぁ、ヴォルフか。血を流したと》


「私に手を出したので」


《反省は》


「満足しています」


《……》


「叱るなら早く叱ってほしいです」


《……ハァ。いい。あなたは“そう云う”ヒトだ。ロイドに譲るとしよう》


「中々に心にクるチョイス」


《だからだ。存分に叱られるといい。――怪我は……もう治しているのだろう。問題は》


「少し身体がダルいです。熱は引いています」


《……》


「レオ?」


《……いや。ちゃんと“ヒト”なのだな、と》


「ヒトです。なぜ、そのような感想が」


《皆が思った事だ》


レオンハルトの言葉にルーチェを見ると、さっと顔を逸らされた。事実なのだと、理解。


だからと言って口にしなくても……とは思ったが、言いたいことを言える関係性――“友人”なので甘んじておく。叱る代わりの揶揄いだな、と態と誤解して。


なんとなく。これ以上は藪蛇になりそうだと判断し、話を変えることに。


「そういえば。アイテムボックスから通信具を出した瞬間に受信しましたが、どのような理論で?」


《指定登録をしている。アイテムボックスから取り出せば、こちらの通信具で個別の音が鳴る。説明した筈だが》


「……あぁ。薄っすらと記憶があるので、通信具に込める魔力量調整に苦戦していた時かもしれません」


《何個も爆発させて、中々に愉快だったな》


「いじめないでください。弁償はしたので許されたいです」


《そもそも気にしていない》


「因みに私に設定した音は?」


《ホラガイ》


「なぜ」


《“黒髪黒目”は皆、この音に敏感だと聞いた》


「事実なだけに弁解が出来ませんね」


《本当に、“黒髪黒目”は不思議な生態だ。――長く話し過ぎたな。ゆっくり休め》


「お気遣いありがとうございます。嬉しいです」


《早く元気になれば、その分早く会えるだろう?》


「ふふっ。ですね。先に皆さんから叱られてから、また遊びに行きます」


《楽しみにしている。また、な。ヤマト》


「はい。また。レオ」


ぷつりっ。通信が切れたことを確認しアイテムボックスへ仕舞うヤマトは、呆れたように頭を抱えるルーチェに目をぱちぱち。横になっていなければ首を傾げていただろう。


……ハァ。


呆れた。と言いたげな溜め息を溢したルーチェは口を開き、


「王族との会話を他国で第三者に聞かせては、外患誘致罪で処刑される」


漸く。その常識を説明。


前回。リリアナの前でレオと会話した時は、家族との別れの時間を過ごしていた。エルフの王として『他国の王族との会話を聞いた』――その事実を広めない為に配慮したらしく、リリアナからも聞かされていない。


恐らく……リリアナも『どうせルーチェの前でもやらかすから、説明はその時に任せれば良いな』と思っての丸投げなのだろう。


「あー。すみません。気を付けます」


「通信具。ひとりの時に出すように癖付けろ。あの国に限りは、“黒髪黒目”の処刑など不可能だろうが……な」


「面子がありますもんね。……ヴォルフさんなら許される?」


「ヴォルフが聞きたくないだろう」


「確かに」


くすくすっ。可笑しいと笑うヤマトは、ルーチェがヴォルフに慣れたようだと満足。自分が求めた“友人”同士の仲が良好なのは、素直に嬉しい。


フルーツを食べ終わったプルが頭の方に近付いて来たので、抱き込むように寝返りを。ぽよぽよ自由自在のスライムボディは、うつ伏せでもジャストフィット。


プルをクッションにしたまま見て来るヤマト。


相変わらずの性別を超越している造形美だな……との純粋な感心。豊かな表情は魅力的だからこそ、心底恐ろしい。


「ルーチェさんが居てくれて助かります」


「あんたが非常識なだけだ」


「ヴォルフさんでも知らなかったと思いますよ。今のは」


「通信具を使う機会は無いからな。知ったところで、覚える必要が無かったのだろう」


「だから。ルーチェさんにしか出来なかった事です」


「、……」


「本当に助かります。求めて良かった」


「……あんたは……そうやって、軽率に誑し込むことをやめろ」


「え」


「無自覚か」


心底からの言葉。本心だと分かってしまう声色。


こうも正直に心の内を言葉にされ、求められたことを明確化されてはむず痒い。頼られて素直に嬉しく思ってしまう。調子が狂う。


ヴォルフに出来ない事を出来た――その事実に優越感はある。うれしい。


態々“その事実”を伝えて来るところは悪質だとは思うが。


その正直さは、相手によっては奈落に引き摺り込むようなもの。その自覚がヤマトに無いところが、いっそ清々しい人誑しだとも思う。


しかし、不思議そうに頭を上げたヤマトへ説明する気は無い。説明したところで「なるほど」と返って来るだけだと、ルーチェは確信している。


確実に「気を付けます」とは返って来ない。ヤマトは只、心から思ったことを大切な“友人”へ伝えているだけなのだから。


“伝える”ことこそ、信頼を勝ち取る最善手だとの持論に基づいて。


「なんでもない。眠気はどうだ? 何か、副作用は」


「特にありません。思考もクリアで、素晴らしい薬です」


「想定の時間よりも早く起きていたがな。やはり、薬の材料を多く食べているからか」


「『ザントマン』――でしたよね。いつかお逢いしたいです。お礼は……魔力?」


「妖精だから喜ぶ筈だ」


「良かった。フェンリルは」


「……寝ていたよな?」


「あ。魔力制御、やっぱり疎かになっていましたか。ヴォルフさんの判断で、ルーチェさんが呼んで来てくれたんですよね。ありがとうございます」


「……まあ。構わない。フェンリルも、暫くあんたの上で寛いでいた」


「病人になんてことを」


「犬吸いとやらの仕返しだろうな」


どうやら、犬扱いにちょっとだけ怒っていたらしい。本人が感知出来ない間の仕返しとは、なんともお優しい事だ。


だとしてもヤマトにとっては“大きなわんこ”でしかない。犬のニオイがしなくとも、わんこ。ドラゴンと引き分けたとしても、わんこ。


もふもふ中毒を拗らせた故に『フェンリル=犬』だと認識しているので、今回の仕返しは意味をなさなかった。


「夕食。食べたいものは」


「キノコ鍋」


「肉を入れないと、あのふたりには物足りないぞ」


「そこはお好きに」


「わかった。運動するなら夕食は抜く」


「今日はストレッチだけにしておきます」


「いい子だ」


ふっ。と笑ってから部屋から出て行ったルーチェに、完全に子供扱いだなと眉が下がる。


事実、ルーチェの方が何千と年上。滲み出るその心配も素直に嬉しいので、宣言通りにストレッチだけに留めることにした。


夕食抜きは嫌だ。







「起きたか」


「……らん、つぃろっとさん」


「魘されてたぞ」


「うなさ……おぼえて、ないです」


「そうか。飯、ここで食うか?」


「いえ。行きます。ヴォルフさんは?」


「あー……“バラの樹を伐採”に?」


「なぜ暗喩」


「あんただから」


「だとしてもなぜ女性用を」


心底不思議だと首を傾げるヤマトは漸く起き上がり、背伸びをひとつ。意外と寝れるものだなと、自覚は無いがまだ身体が休息を求めているのだと認識。


今夜寝れば、明日には本調子に戻るだろう。


「あのよ」


そう考えている中で掛けられた声にランツィロットを見ると、なにやら探るような視線。


警戒――の色。


「はい」


「『俺から離れるなんて許さねえ』っつってたが、誰の夢視てた」


「覚えていないですって。ですが、恐らくヴォルフさんですね」


「冒険者を私物化してるって?」


「え。していませんよ。初めて自分から求めた“友人”が離れていくなんて、誰だって嫌でしょう? 夢の中では……酷い喧嘩でもして縋っていたのかも。これは魘されますね。悪夢です」


「……なら良い。悪かったな」


「いえ。“兄貴”ですね」


「Sランクとして見過ごせねえだけだ」


「素晴らしい」


ゆるりと。褒めるような目元。まるで上位者のような言葉。生物的には格上なので間違ってはいない。


いない、が……




こういうとこが“ハマる”要因なんだろうな。人間関係が希薄な冒険者。褒められる機会は少ねえし、だから耐性もない。


褒められることで得られる満足感や達成感。しかもこの造形美から齎されれば、優越感による快楽物質でその刺激は相乗される。結果、ハマる。……か。


ガキの頃に両親死んでる冒険者には毒だろ。この男。




ハァ……。思わず漏れた溜め息は、ヴォルフがヤマトの好きにさせている事への呆れ。と、諦め。


“黒髪黒目”を敬愛する国に生まれ育った者らしさへの、呆れ。


自由を愛する冒険者だとしても、物心つく前から『“黒髪黒目”こそ至上』――そう言い聞かせ続けられては、根深いその洗脳に従うしかない。




まっじで怖ぇ国だな。




改めて。再確認したランツィロットは、上機嫌で足を動かすヤマトに苦笑することしか出来なかった。


漂って来るキノコ鍋の香り。


この“黒髪黒目”が『食』にしか興味がない事実だけが、あの国にとって……『無自覚の騎士』と化したヴォルフにとっても幸いだな。と、そう諦めて。





閲覧ありがとうございます。

気に入ったら↓の☆をぽちっとする序でに、リアクションやブクマお願いしますー。


キノコ鍋のスープは味噌が優勝だと確信している作者です。どうも。


ランツィロットは薄々気付いていて、あの“ぐちゃぐちゃの戦争犯罪者”を見た時に確信しました。

勿論、ヴォルフの“騎士”化については何も言いません。

ヴォルフの心を守る為に。


只でさえこんなタチの悪い男に引っ掛かっていますからね。

これ以上は流石に酷。


すぐ元気になるだろうと思っていた周り、本調子でないことに内心狼狽えていました。

「何をそんな“ヒトっぽい”ことを……」とか。

一体、主人公は何だと思われているのでしょうね。

ちゃんとヒトだからこそ、たった1日では本調子にならないだけなのにね。


フェンリル、初対面でヤマトが口にした「掛け布団にして寝たい」を叶える序での仕返しです。

ぽろっと溢れた本心なのでヤマトは口にしたことを覚えていません。

それでも願いを叶えてあげるなんてフェンリル優しいですね。

……優しいか?


ルーチェのお陰で常識を知れた主人公、流石に『外患誘致罪』は避けたいとその常識は素直に受け入れました。

しかし魔物に関する常識の修正は未だに出来ない。

周りが都度教えないのが悪い。

主人公は悪くな……悪いわ。

ドラゴンステーキ出す店とか普通に考えて無理に決まってるわ。

初っ端に“あの森”で1年過ごした所為です。


今回は会話回でした。

会話書くの、好きです。

心理描写書くのも好きです。

特にクドい描写で筆が進む変態執筆スタイル。

慣れてください。

読み飛ばしてもOK。


次回、「叱られに来ました」

きぞく、こわい。

本性。


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